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「……雅輝、教えてくれ」
「…………?」
黙ったまま、橋本に視線を注いだ宮本。自分に問いかける恋人の真剣なまなざしが、痛いくらいに刺さった。
「おまえは自分が所持していた車を、デコトラに買い替えただろ。誰よりも三笠山を走り込んで、負けない走りを極めたっていうのに、走り屋を辞めることに、未練がなかったのかなと思ってさ」
「全然なかったっす。むしろセブンを手放すことになって、ほっとしたところもあって」
「ほっとした?」
橋本の質問に宮本はすぐさま答えると、それに呼応するように、ふたたび問いかけがなされた。
「俺の走りが、どんどん速くなっていくにつれて、チームメイトとの仲が離れていったんです。二つ名を付けられたことで、壁までできちゃって……」
「白銀の流星なんて呼ばれて、崇め奉られていたもんな。俺としては、雅輝らしくない感じがする」
「ほんとそれ。こっちとしては、いい迷惑でした。そんなことされるような、キャラじゃないのに」
橋本は背を預けていたハイヤーから躰を起こすと、鍵を開けてから、後部座席のドアを大きく開ける。目の前にいる宮本に対峙するように腰かけて、しっかり顔を見上げた。
「店長さんは、おまえはチームの誇りだと熱く語っていたけどな」
「チームに速く走れる車があれば、他のチームとバトルになったときの切り札になるし、自分たちのテクニックの向上にも繋がる。そのことは理解してるんだけど、なんていうか都合のいいメンバー扱いっていうか」
「雅輝としては、チームに入ったばかりの頃のような感じで、自分を扱ってほしかったってところか」
宮本の足りない言葉を、橋本がうまく補う。優しさを伴うそつのないそれに、鼻の奥がツンとなった。見上げる橋本のまなざしは、どこまでも慈愛に満ちていて、思わず縋りつきたくなる。
「だけどね、インプで走ること自体は、すっごく楽しいです。以前のようにひとりきりで走っているよりも楽しいのに、あの頃と同じように走れなくなったっす」
「その原因は俺か?」
「原因なんて言葉で、表現してほしくないですよ。俺の隣には、陽さんが必要なんです」
「雅輝……」
「俺は、チームの誰かのために走ってるんじゃない。陽さんの喜ぶ顔が見たいがために、ハンドルを握って走っているから。ただ、それだけなんですよ」
宮本は跪いて、橋本の上半身に両腕を回した。自分に優しい橋本を確かめるように、ぎゅっと抱きしめる。
「だからおまえは、俺のいない場所では走っていなかったってわけか」
抱きつく宮本の広い背中に橋本は腕を回して引っ張り上げ、その勢いで後ろに倒れた。
「えっ!?」