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桜の約束

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桜の約束

4 - 第4話

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2025年08月13日

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3月。

校庭の桜はまだつぼみで、冷たい風が吹いていた。

卒業式を終えた体育館から、生徒や家族の笑い声があふれている。

その中で私は、先輩を探していた。

――見つけた。

制服姿の先輩は、友達に囲まれて笑っていた。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられる。


「先輩!」

呼びかけると、すぐにこちらを向き、歩み寄ってきた。

「○○…来てくれてありがとう」

花束を渡すと、先輩は少しだけ俯いた。


人のいない校舎裏に移動し、しばらく沈黙が続いたあと、先輩が静かに口を開く。

「…○○。俺、来月から海外の大学に行くんだ」

「……え?」

「向こうで勉強して、夢を叶えたい。…でも、何年も戻ってこれないと思う」


耳に入った言葉の意味が、すぐには理解できなかった。

ただ、遠くの風の音だけがやけに大きく響く。


「だから…これからは会えないかもしれない」

先輩の声が少しだけ震えていた。


「…嫌です」

やっと出た言葉は、涙で滲んでいた。

「俺だって嫌だよ。でも、○○を待たせたくない」


次の瞬間、先輩は私を強く抱きしめた。

「本当にありがとう。俺を好きでいてくれて」


離れると、先輩はいつもの笑顔に戻り、短く言った。

「じゃあな」


その背中は振り返らず、春の風の中へ消えていった。

桜が咲く頃、もうこの人はここにいない――そう思うと、胸の奥が痛かった。




卒業式から一週間後。

校庭の桜は少しずつ花を咲かせ始めていた。

私は、あの日と同じ場所――校舎裏に立っていた。

もう先輩が来ることはないとわかっているのに、足が勝手にここに向かってしまった。

ポケットの中には、小さなマフラー型のキーホルダー。

冬のデートの帰りに、先輩が「おそろいだな」って笑いながら渡してくれたものだ。

それをぎゅっと握ると、少しだけ心が温かくなる。


遠くで、練習中のバスケ部の掛け声が聞こえた。

あの中に先輩の声はない。

でも、ふと目を閉じると、シュートを決めたあとにこちらを見て笑う顔が浮かんでくる。


スマホに保存してある最後のメッセージは、あの日の夜に届いた短い文章。

――「ありがとう。幸せだった。」

それを見返すたび、胸の奥がじんわりと熱くなる。


もう会えない。

それでも、あの時間は確かに私の中で生き続けている。


春風が頬をなでる。

私はキーホルダーをそっと握り直し、空を見上げた。

「先輩、どうか元気で」


声は風に溶け、どこまでも遠くへ運ばれていった。



                           第4話

                            ー完ー


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