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異星人対策室のジョン=ケラーだ。エリー湖付近では新本部の建設も順調に進んでいる。カレンの頑張りはもちろん、皆の努力やジャッキーによる適切な管理と計画。そしてフィーレから貸し出された工作ドローンの賜物だ。私は良い部下や仲間達に恵まれている。完成した際には少し奮発したパーティーとそれぞれに臨時のボーナスを用意している。 財務部が難色を示したが、頑張っている者には相応の報酬を用意するのは当たり前だ。給料で全部だと考えている者ほど、人に100%以上の働きを強いるものだ。
常に全開で頑張れる人など多くはない。必ず体調を崩してしまう。だからせめて、普段より負担を強いてしまう時は相応の報酬で報いる。そして常日頃から部下達に余裕を持たせるのが私のような立場の仕事だと思うのだが……まあ私は経営の素人だ。周りを見る限り、私が異常なのだろうな。やり方を変えるつもりはないが。
今頃ティナ達は日本を満喫していることだろう。どうやら転移に失敗したようだ。ティナ曰く転移魔法にはイメージの力が大切であり、転移前日フェルが熱心に日本の事を調べていたのが原因らしい。或いはブリテンを警戒したのかもしれないが、それはフェルのみぞ知るだ。
対するブリテンは、半ば発狂したように合衆国や日本政府に外交ルートを通じて抗議しているようだ。あんな失態をやらかしてしまったのに、謝るべき相手が国を離れてしまったのだ。まあ、気持ちはよく分かる。
『アード人一行はまだブリテン滞在期間であり、速やかにブリテンへ移すように』と矢の催促だ。しかし、これはどう考えても悪手だな。
『彼女達の行き先を決めるのは彼女達自身であり、私たちに強要する権利はない。我が国も急な来訪に驚いているが、全力でおもてなしをさせていただく』
ブリテンの抗議に対して日本の椎崎首相はこのように反論した。行き先について提案はするが、決めるのはティナ達だからね。この辺りの機微は中々理解されない。
今も世界各国の政府が中々理解できない真理でもある。特に百戦錬磨の政治家や外交官ほど誤解してしまうようだ。
しかし、これは仕方がない。私を含め人間は得意分野で勝負をしたがるものだ。ましてそれで成功してきたのならば、尚更だ。普通に考えればティナを外交官として見てしまう。だが彼女は架け橋になる存在であり外交官ではない。いや、外交に関する考え方がそもそも違うのかもしれない。
強いて言うならティリス殿がそれに当たるが、彼女を相手にするのは避けるようにそれとなく大統領に伝えている。何と無くだが、彼女を相手に外交を仕掛けたら地球に圧倒的不利な関係が結ばされるような気がするからだ。
個人的には、ティナが前面に出ている間に何らかの確固たる関係を構築するのが正解だと思う。おそらくだが、ティリス殿はあくまでもティナを立てるために一歩引いているだけだ。
ティナでは手に負えないと判断した瞬間、彼女が前に出てくるだろう。そうなれば、最早今までのような友好は難しいかもしれない。
さて、難しい話はこれくらいにしよう。以前ティナとは別件でアリアを通してフィーレから合衆国へ要望があった。我が国の陸戦兵器のデータを全て提供する件だが、フィーレはどうやら満足してくれたようだ。
代わりに提供されたパルスドライブシステム、次世代の星間航行エンジンの設計図を見てドクター達は狂喜乱舞している。どうやら今の地球の技術で開発できて、しかも地球にある資源で作れるように調整してくれたらしい。
これがあれば宇宙開発は飛躍的に加速するだろう。地球の資源は正直枯渇間近だ。もしティナが来なかったら、遠からず地球文明は崩壊を迎えていた可能性がある。そういう意味でも彼女に地球は救われたな。
「使節団についてなのだが、日本政府と密かに調整中だ。そこで、我が合衆国からは誰を参加させるか検討する必要がある」
ホワイトハウスにある会議室にて使節団に関する会議が行われていた。まだ気が早いとは思うが、各所との調整を考えれば早すぎると言うことは無いだろう。当たり前のように私が参加させられているのは解せないが。
「先ず最初に断言しておくが、メンバーの一人はケラー室長だ。これに関して変更するつもりはない。何せ、ティナ嬢が最も信頼する地球人であることに疑う余地は無いからだ。この事に異論がある者は居ないな?」
大統領が皆を見渡すが、誰も反対しない。私が使節団のメンバーに抜擢された瞬間である。もちろん理由は正しく理解しているが、地球の命運を握るような重責をさらっと背負わされることとは別問題だ。また胃が痛くなってきたな。
「人数その他はティナ嬢と交渉する必要がある。何せ我々には銀河の反対側へいく方法どころか、太陽系から抜ける技術すら無いのだからな。当然使節団の移動も彼女達を頼る他無いのが実情だ。
もちろん派遣する際はアード側との調整も必要になる」
「アード政府との交渉ですか」
ティナを介する、或いはティリス殿を介して行う必要があるのは間違いない。この場合はティナを頼るのが正解だな。
「交渉に際する手土産ですが、やはり有力候補は食料品になりますか」
「そうなるな。国務省に聞きたいが、食料生産に余裕はあるか?」
「アードとの接触以来、政府からの支援を手厚くして食料の増産に励んでいます。アードへの輸出分も十分に余裕をもって用意できるでしょう」
「食料生産そのものは飽和状態でしたからな。むしろ破棄される分を一気に減らせるので経済的です」
「うむ。食料供出に関する各国の割り当ては?」
「調整は難航しています。供出量と発言力や訪問先の策定は無関係であると宣言していますが、各国は供出量の増加を提案しています」
「飢餓輸出などされては堪らんな。改めて私からも声明を出そう。多少は効果がある筈だ」
「ありがとうございます」
ふむ、確かにトランクや医療シートは地球から見ればまさに夢の道具だ。なんとしても手に入れたいと願うのは悪いことじゃない。
まあ、その辺りは大統領にお任せしよう。問題はアード側が使節団を受け入れてくれるかどうかだが……ティナの話を聞く限り感触は悪くない。
ん?
「失礼します!」
ドアを蹴破らん勢いで開き飛び込んできたのはマイケル補佐官だ。嫌な予感がする。
「ティナさん達が日本で巨大なロボットを建造しました!既にネットワーク上に拡散されて大騒ぎになっています」
「「「なっっっ!?」」」
どうやら、彼女達に落ち着きと言う言葉は少しだけ似合わないようだ。胃薬、飲むか。