先輩を待っている間、たいして興味のないポストを無心でスワイプし続ける。風呂に入って温まったからか、うつらうつらと意識を手放しそうになっていた。必死に揺れる頭をおさえようと闘っていると、突然耳元で話しかけられる。
kr 「おーい、大丈夫かぁ?」
sm 「うぁ“⁉︎」
kr 「ぅお、びっくりした〜w大丈夫?」
sm 「ぁ…、すいません..。」
風呂から上がった先輩に気づかず、驚いて変な声を出してしまった。必死に表情を取り繕えば、可笑しそうにそれを笑われてしまう。
kr 「眠い?…無理しなくても良いんだからな?」
sm 「…大、丈夫です。」
kr 「本当に?」
眠たくない、と言えば嘘になる。けど今更引き返す気持ちは毛頭ないから。先輩の心配混じりの問いかけに俺はこくりと頷いた。
すると小さく息を吐いた先輩が、先程入ってきた扉に再び手をかけた。ドアを開けると同時にこちらに向かって優しく微笑む。
kr 「スマイル。」
sm 「…?」
kr 「こっち、おいで。」
名前を呼ばれ、手招かれる。呼ばれたままに大人しく着いていけば、辿り着いたのは大きめのベッドが一つ置かれた寝室だった。
先に部屋へ入って行った先輩は、慣れたようにベッドの上に上がる。
照明は点いていないものの、月明かりだろうか。窓から微かに、外の明かりが部屋を照らす。
さっきの緩んだ空気から一変。雰囲気が変わったことに体が重く、扉の前で立ち尽くしてしまう。
kr 「…?何してんの。扉閉めて、早くこっちおいで。」
動けなくなっていた俺に気づいた先輩は、ベッドにあぐらをかいて座り再び手招いてくれる。招かれるままに、ゆっくりとした足取りでベッドに近づく。
kr 「はいはい、ここ。座りな?」
有無を言わせぬように、ぽんぽんとベッドを叩いて先輩はそう言った。
ギシリと音を立ててベッドへ上がれば、先輩の正面に向き合うかたちで座った。なんとも言えぬ感情に俯いて目を逸らしてしまう。するとまた先輩が俺の頭を撫ではじめた。
わしゃわしゃと犬の頭を撫でるみたいに、かと思えばその手は頬へうつろう。親指ですりすり目元を撫ぜる。ふとどんな顔でこの人は俺のことを撫でているのだろう。気になって顔を覗けば、先輩はひどく愛おしそうな顔をしていた。
kr 「…ん?」
いや、勘違いかもしれない。
自分の、そうあって欲しいが都合よく現実になるわけ無いのに。
何も言わない俺に呆れるわけでもなく、むしろ少しだけ楽しそうに見える。
するりと先輩の指が耳を掠めた時、僅かなくすぐったさに小さく声が漏れる。
sm 「…ん、」
kr 「スマイル」
名前を呼ばれ顔を上げたと同時に、唇に柔らかいものが触れる感覚。それが何か分かった途端また顔が熱くなる。
始めは触れるだけだった可愛らしい口付けは段々と深くなっていく。必死についていく中、薄目を開ければ金色の瞳と目が合わさる。
そこには今までとは違う熱が、どこか宿っているような気がして。
sm 「ん、んっ…は、ぅ…」
頬にだけ添えられていた手はいつの間にか後頭部に、反対の手はしっかりと腰にまわされ息苦しさに離れようとしても叶いそうに無かった。
もう限界だと、目元にじわりと熱が滲む。無意識に目の前にあった先輩の服をぎゅっと掴めば、ようやくゆるりと離れてくれた。
sm 「っはぁ…」
ようやく満足に酸素を取り込めると、乱れた息を整える。すると再び先輩の手が俺の顔に添えられる。未だ酸素不足に震えたまま先輩を見上げると、
kr 「…スマイル、口ちょっと開けれる?」
そう言われてびくりと体がはねる。
ーー聞いたことのあるセリフ
この後何があるのか俺は分かってしまうから。
趣味の“せい”というか“お陰”というか。それでついてしまった知識。
でも、こんな時ぐらいは先輩にも、自分にも。
初心なフリをしても許されるだろうか。
sm 「っん、んぁ…は、ぁっ…んん“、っ」
唇の隙間から滑り込んできた舌は、ぎこちなく固まる俺の舌をゆっくりと絡め取り動いていく。
歯列をなぞり、舌をちゅう、と吸われれば背筋をゾクゾクとした感覚が這っていく。
そんな感覚を逃がそうと身をよじろうとしても、先輩の右手で固定された頭はビクともしなかった。苦しくてだらしなくも、口の端からは唾液が垂れていく。
sm 「ん、ふ…ぁ、ん“ぅ…、ッ~~~‼︎」
もう無理だと訴えかけるように先輩の胸をトントンと叩く。そうすれば少しだけ名残惜しそうに、最後に深くした後顔を離してくれる。
sm 「っ、は..、はぁっ、っん、はぁ..」
kr 「…あー、やばいな…」
sm 「…っは、ぁ、…?」
先ほどとは比べ物にならなくて必死に息を整える中、険しい顔をした先輩はぼそりとそう呟いた。酸欠でふわふわする頭では、その意味を考えられなくて首を傾げてしまう。
kr 「ん?あぁ、なんでもないなんでもない。スマイルが可愛いなって思っただけ。」
sm 「っ、…なんですかそれ…、」
kr 「ははw顔真っ赤、可愛い。」
自分はこんなに必死に息を整えているのに、なんでこの人はこんなに余裕そうなんだ。イタズラに笑う彼に少しの不満を乗せてキッと睨んでみせる。
それを見た先輩は少しぽかんとした後、何故か嬉しそうにくつくつと笑いをこぼした。
sm 「…なに笑ってるんですか、」
kr 「っwいや、お前ほんと分かりやすいなって」
sm 「?……分かりやすいなんて、初めて言われましたけど、」
kr 「んー?いいんだよ、俺だけで。」
そう言って先輩はまた顔を近づける。
ずいと迫るその顔は何もかも見透かしているかの様で心臓がドキリとはねた気がした。
kr 「…鼻で息しなよ、はーな。」
ちょんちょんと俺の鼻をつついた後、再び先輩に口を塞がれる。
言われた通り鼻で呼吸をしようとするが、先輩からの深い口付けにどうしたって意識を持っていかれる。
ついていくのに必死になっていればいつの間にか腰は抜け、俺は押し倒されていた。
コメント
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すごく好きな作品ですありがとうございます!(´▽`)フォロー失礼します。