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再び意識を取り戻したバストロは、暖かい洞窟内部で楽しそうに語り合う、自分の相方、ヴノとジグエラ、弟子世代の三者に大きな声で訊ねたのである。
「おぉ、おいっ! どうなった? 一体全体どうなったって言うんだぁっ?」
ヴノは大きな溜息一つ、レイブ達弟子世代は揃って無言のままそわそわと視線を蠢(うごめ)かせる中、紅竜ジグエラがハッキリと断じる声音で答える。
『どうも何も、バストロ、アンタの興味本位の実験は失敗に終わってね、レイブもギレスラもペトラも、随分辛い思いをしたって事よ! ついでだけどね、ヴノもアタシもね、はあぁ、んまあ肝を冷やしたわよ? アンタ死ぬ一歩手前だったのよ? 少しは反省しなさいなっ!』
「そうか、そうだよな…… グフトマ師匠も、父ザトゥヴィアも既に身罷(みまか)られて久しい、もんな…… 全ては死に瀕した俺の妄想、幻覚、だよな……」
『『………………』』
バストロの父ザトゥヴィアは兎も角、師匠であるグフトマと短く無い期間を、スリーマンセルとして濃密な時間を共にして来たヴノとジグエラは返す言葉を見つけられない様子であった。
両者の沈黙に気が付いたバストロは一つきり残った左の目を、照れ臭そうに細めて言葉を続ける。
「心配を掛けて済まない、皆…… 強くなって師匠に近付きたい、その思いだけに囚われて、又間違っちまったよぉ、んだがな、試してみてよく判る事が出来たぜ? レイブ、『反射(リフレクション)』ってやつは、お前一人、お前だけに神様から与えられた恩寵なんだろう…… 感謝の心を忘れる事無く、その大きい力を使いこなす事が出来る様に精進するんだぞ! 良いか? 神々から力を与えられるなんて事はな、古い古い伝説、御伽噺(おとぎばなし)の中でしか起こらない事なんだからなぁ!」
両腕に自分の仲間、スリーマンセルのペトラとギレスラを確(しっか)り抱いていたレイブが答える。
「うんっ、今ね、神様からも同じ事を言われたよ師匠っ! それとね、ええっとそのまま言うよ? 師匠はね、違うんだってさ、ええっと、でいもす? との戦いで最初の内に兄を守って身罷(みまか)ったソナタが、そうか、そこに宿っていたのか? だってぇ! 何か神様声が震えてるんだけどねぇ?」
「?」
レイブは自分にしか聞こえていない神の言葉に一々相槌を返しながら言葉を続けた。
「え、ああ、うん、そうかぁ、うん、うん、あーそう言うー、うん、うん、えっ、そう言えば良いの? うん、判った、おじさ、グフン、師匠に伝えるね! 師匠っ! 『強襲(エピドロミ)』だってさ、神様が言ってみろ、だって」
意味不明で理解不能なバストロがヨロヨロしたままで弱弱しい声で返す。
「えっ? ええっ? 言えば良いのか、レイブ! 何だっけ? え、『エピドロミ』? ふおおぉ? ムフォオオォォォ!」
先程まで、一命を何とか取り留めたばかりのプルプル震え続けていたバストロの脆弱(ぜいじゃく)な姿はこの場には存在していなかった。
死に掛けにまで陥った『北の魔術師』は、凄まじい程の復活を遂げていたのである。
具体的には、以前までの戦闘形態である『身体能力強化』の多重掛けが齎(もたら)す肉体、肌色の青化が何重にも繰り返され、青から紺、やがて黒、漆黒へと変じさせるのと同時に、これまで一本きりであった額の角が、左右から均等に伸びて生え、牛頭(ごず)の角に酷似したのである。
漆黒の魔王と化したバストロは更に吠える。
「う、うおぉぉー! な、なんだこれぇ! 力が、チカラが溢れだして来る様だぁ! ウワァオォ! い、今なら誰にでも勝てる! 我こそがっ! 最強の存在だあぁ! ウガァーッ! あれ? あれれれ? ん、んん、んんんんぅ、な、なんだぁ?」
漆黒に変じた肉体を元通りの白色に戻しながら、額に生えた二本の牛頭をも消し去ってしまったバストロはうろたえているばかりである。
確(しっか)りとペトラとギレスラを抱いたままのレイブが告げる。
「魔力不足、だってさ師匠! ん? あ、そうなの? 僕もそうだってさっ! ええっと、ああ、そうなの? 神様? えっとね、この一冬の間でね、僕と師匠を鍛えてくれんっ! とか何とかぁ、神様気合入り捲りなんだけどねぇ、どうしよう? 何て答えれば良いかなぁ? 師匠~?」
普通に戻っただけでなく、全ての傷を癒されて驚きを顔に浮かべ掛けていたバストロは即座に答える。
「おうっ! 望む所だっ! この冬篭りが有意義になったなっ! レイブ、神様に言ってくれぇぃ! 確り鍛えてくれとな! 強くなりたい、それはお前も一緒だろうがぁっ!」
「え、まあ、うん、神様ぁ? だってさ?」
消極的な感じで答えたレイブに対する神? の声は誰にも聞こえる物ではなかったが、ちょっとだけズルをしてオーディエンスの皆さんに経験で知ってしまった言葉を伝える事としよう。
神と称された存在はレイブの脳内に短い言葉を送っていたのであった。
曰く、
『良いな、良しっ! 我が全て教えてくれようじゃないかぁ、戦い方と更なる力を得る方法、その全てをお前ら師弟に叩き込んでくれようじゃないかぁ! これは痛快、いいや愉快だぁ! くふふふ、くーはははぁぁぁぁっ!』
だとさっ。