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京介は十三歳から十五歳までの二年間を陽だまりで過ごした。
学校の勉強は嫌いじゃなかったから結構真面目に学んだけれど、高校へ行こうという考えはなかった。
陽だまりの責任者・比田真理先生は『中学を卒業したら働く』と言い切った京介に、『就学支援金制度や授業料免除の制度など色々あるし、京くんが望むならいくらでも進学する方法はあるのよ?』と言ってくれた。
現に成績はかなり良かった京介である。
比田は進学を強く勧めてくれたのだけれど、これ以上他人様に面倒を掛けるのが嫌だった京介は、その申し出を固辞したのだ。
結局比田や担任の言葉を無視する形。何の資格もないままに社会へ出ることを決めた京介は、金を貯めてゆくゆくは車の運転免許を取りたいと思った。
ちょうどそんなときだったのだ。親友の長谷川将継が、『卒業後はどうするんだ?』と問うてきたのは――。
当然のように高校進学を考えているらしい将継に、京介は素直に無資格の中卒でも出来る住み込みの仕事を探して、車の免許を取るための資金を稼ぎたい旨を話した。
他の同級生らには何となく気後れして言えないようなことも、将継になら話すことが出来た。最初のうちこそ比田たちのように『働くのは高校を出たあとでも遅くない』と言ってきた将継だったが、京介の意志が固いと知ると、提案してきたのだ。
「うちの父親、建設会社の社長やってるんだけど……相良のこと、話してみてもいいかな?」
と――。
京介は将継の申し出を有難いと思いつつも、『親父さんの迷惑になるのだけは嫌だから、出来れば直接世話になるのは避けたい』と告げた。
実際、長谷川建設には寮制度がなかったから、『陽だまり』を出る気満々の京介は、将継の父親経由で寮制度のある土木工事会社『大洋土建』を紹介された。
そんな感じ。
中学卒業後、地元の進学校へ進んだ将継とは対照的に、京介は『大洋土建』へ、手元作業員として入社した。
運転免許が取れる年齢までまだ三年あったし、そこでコツコツと日々を重ねつつ、少ない給料の中からしっかりと貯金も増やしていく。そんな計画だ。
無資格者の京介が担う手元作業員の仕事は基本重労働。
現場での資材運びや、トラックからの荷下ろし、簡単な土木工事補佐やモルタル・生コンの撹拌作業など、肉体労働が主だったから食と睡眠はおろそかに出来ない。
寮の方は六人部屋での雑魚寝で、プライバシーなんてあってないようなものだったけれど、幼い頃からもっと劣悪な環境で寝起きしていた京介には全然問題なかった。
それよりむしろ、寮母がついていて朝と晩の食事はガッツリ栄養バランスの取れたものを食べさせてもらえる寮生活は快適そのもの。自分としては昼飯の心配だけすればよかったのは本当に有難かった。
昼食にしても若い衆を可愛がってくれる社長や上役のお陰で、結構な割合で美味い飯をおごってもらえたりしたし、働き始めて一年を過ぎた頃には京介はかなりガッチリした男らしい体型になっていた。
将継との交流はお互いの進路が分かたれたあともずっと続いていて、時間を見つけては近況報告をし合っていた。
「相良、お前どんどんデカくなるな」
クスクス笑う将継に、京介は「美味いもん沢山食わせてもらって、ぐっすり寝てるからな」とニヤリと笑う。
実際、かつては将継の方が大きかったのに、いつの間にか京介の方が将継の身長を越えていて、ガッツリ筋肉もついて逞しくなっていた。日々外で働くこともあって、元々色素の薄い将継と並ぶとまるで白黒のオセロの駒のようだと思ってしまったくらいだ。
「今のお前とやり合ったら、俺、瞬殺される自信がある」
冗談交じりで笑う将継に、「バァーカ」と返しながら、京介は大切な人を守れる力が付けられているんだとしたら、最高だと思った。
***
「久しぶりね、京介」
現場で働くようになって二年が過ぎた頃、どこでどう聞きつけたのか、京介の元を母親が訪ねてきた。
鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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月詠 涼
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「……今さら何しに来やがった」
「まぁ、無愛想ね。お母さん、せっかく京介のこと探して会いに来てあげたのに」
当初の目的はたった一人の肉親である息子への金の無心だったようだが、当然京介は彼女を突っぱねた。
陽だまりへ預けられた時にこの女との親子の縁は切れている。
だがそんな京介に、あろうことかかつて母親だったそいつは、うっとりとした〝女の顔〟で縋りついてきたのだ。
「ねぇ京介。貴方、ちょっと見ない間に随分男らしくなったわね。声も低くなって昔の面影がないし……、ホント、血は争えないわね。〝父親〟にそっくりな、すごくいい男よ?」
猫撫で声とともにツツッと喉仏に触れられた京介は、全身を駆け抜けた悪寒に、思わず目の前の女を突き飛ばしていた。
そうしなければ、そのままこの女が散々幼い自分の前で様々な男達と繰り広げていたような〝いかがわしいこと〟を、自分に求めてきそうに思えたからだ。
「気色悪いんだよ! 二度と俺の前に現れんな!」
尻餅をついて京介を見上げるクソ女へ、京介は心底汚いものを見る思いでそう吐き捨てたのだが――。
当然というべきか。元々男に依存する形でしか生きられないその女は、自分好みの男へと成長した実の息子へ執着するようになった。
このままでは会社にも迷惑が掛かってしまう。
せっかく仕事にも慣れ、同僚たちともうまくやっているというのに……。母親の来訪は日を追うごとに頻繁になってきていた。
今のところ仕事中にどうこうされることはなかったけれど、それも時間の問題に思えた。
(転職すべきか?)
かといって、まだ何の資格も取れていないような状態である。
最低でも車の運転免許証を取るまでは粘りたいと思っていたけれど、もしかしたらそれも夢と潰えるかも知れない。
事件が起こったのは、そんな折のことだった――。
***
今日は珍しく母親が待ち伏せしていない。
いつも以上に暑い日だったから、ただ単に外へ出るのが億劫になっただけだろう。怠惰で自分勝手で人を利用することしか考えていない。あれはそういう女だ。
仕事後に物陰からヌッと出てきては馴れ馴れしく話しかけてくるクソ女のことを、すでに職場の同僚たちが『何者だろうか?』と気にし始めている。
社長と直属の上司にだけは、何かが起こる前に……と自分を捨てた母親が金の無心に来ているのだと話してあるけれど、事情を告げたからといって世話になっている会社に迷惑を掛けていいわけじゃない。
もしもの時は辞めることも考えていた京介だったけれど、社長らはまるでそれを見透かしたように「一人で思い詰めることだけはするな」と肩を叩いてくれた。
それが嬉しかったからこそ、絶対に迷惑だけはかけたくないと思っている京介である。
今の現場から寮までは徒歩十五分圏内。
余りに遠い時は社用車に乗せて行ってもらうのだが、このぐらいの距離なら歩いた方が気楽だ。
(今日の晩飯は何かな……)
目一杯働いてクタクタになった身体も、寮に戻れば風呂が沸いていて、なおかつ美味い飯まで用意されていると思えば足取りが軽くなる。
(ん……? なんだありゃ……)
さして多くない荷物を片手に歩く京介の目に、大人の男が五人がかりで小学生くらいの女の子を囲んでいるのが目に入った。
「お嬢ちゃん、他人様の服を汚したらクリーニング代を払うのが常識ってぇのが分かんねぇかなぁ? 親ぁ、呼べよ、親!」
ガラの悪そうな男の一人がやけに声を張り上げるものだから、聞きたいわけでもないのにその小学生が因縁を吹っ掛けられているのが分かる。
「けどっ。そっちが勝手にぶつかってきたんじゃない! 私、悪くないもん!」
普通の子供なら泣いているところだ。だが、キッ! とそんな男らを睨みつけたその女児は、気丈にも怯むことなく彼らへ言い返すのだ。
見上げた根性だとは思うが、ああいう手合いに言い返すのは得策ではない。
案の定、火に油。
「生意気なガキだな!」
そんな怒声とともに一番手前の男が手を振り上げる。その仕草にギュッと目をつぶって縮こまった女児の姿に、幼い頃の自分をふと垣間見た京介は、気が付けば男の手を背後からグッと掴んでしまっていた。
年齢からしたら、子供を取り囲んでいる男達より京介の方がだいぶ年若いだろう。
二十代半ばくらいから三十代半ばくらいまでと思われる男らの矛先は、当然のことながら、闖入者たる京介へと向いた。
「あー? なんだテメェ!?」
剣呑な声音とともに、男たちが京介をギロリと睨み付ける。
「見ての通り、たまたま通りかかっただけだ」
「ふざけてんのか! 関係ねぇーならすっこんでろ!」
口々に言って自分を取り囲んできた男達に、京介は思わず吐息を漏らさずにはいられない。
「けど……アンタら、どう見てもいい年した大人だろ? 小さな子ども――しかも女の子相手に大人気なさ過ぎなんじゃねぇか?」
言わなきゃいいのについ口からそんな言葉が出てしまう。
小学生女児と大人の男。言うまでもなく体格差だってあるというのに、それに物をいわせて力で弱いものを抑えつけようとする輩が、京介は嫌いだ。
黙っていられなくて気が付けば揉め事に介入してしまっていたが、相手は五人。対してこちらは一人。しかも京介は眼前の輩たちと違って、別に喧嘩慣れしているわけではないただの一般人だ。
どう考えても分が悪いのだが、京介を泣きそうな顔で見上げてくる子供を前に、引き下がるという選択肢はなかった。
「逃げろ」
男らと女児の間に立ち塞がって背後をちらりと一瞥して促せば、その子も律儀な性格なんだろう。「でも……」とオロオロしてなかなか動いてくれない。
「お前気遣いながらじゃ、思うように動けねぇだろぉーがよ」
突き放すように言ってやっと、女の子が京介の背後から「助け呼んでくるから!」と言いながら走り去ってくれる。
「おい、こら、ガキ!」
それを追おうとした一番年若い男に足を引っかけてこけさせると、それを合図にしたように「テメェ!」という声とともに残りの男たちが襲い掛かってきた。
コメント
2件
京ちゃんの母親、本当ひどいね。 実の息子に色目とか怖すぎて😱 ラストの戦闘、どつなるんだろう!?
あの母親、実の息子に「女の顔」で迫るとかマジで気色悪すぎたわ……。でもそこでちゃんと突き飛ばして「二度と現れんな」って言い切る京介、かっこよすぎる。最後の子供助けるシーンも「逃げろ」の一言で間に入るとか、漢すぎん? 結局5対1の喧嘩に突入しそうだけど、この後の戦闘描写が超楽しみ🔥