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うぐいす
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「……お疲れ様でした、では皆さんいい夜を~」
配信終了の挨拶。だが、剣持の震える指は終了ボタンを空振りし、ブラウザのタブを閉じただけで終わってしまう。音声は「生」のまま、世界へと垂れ流され続けていた。
リスナーたちが異変に気づくのに、時間はかからなかった。 マイクが拾ったのは、椅子から崩れ落ちる音と、過呼吸気味の嗚咽。
「……っ、は、……あ、……もう、無理だ……」
常に完璧で、隙を見せない「剣持刀也」が、モニターの前で一人、自分を責める声を漏らす。 アンチコメントの刃に心臓を貫かれ、自分が何者かさえ見失った、剥き出しの少年の声。
『……もうつらいなぁ…』
フラフラと立ち上がり、ベランダへ向かう足音が聞こえたその時。 剣持の部屋のインターホンが、壊れたように連打された。
「もちさん!! 開けてください!!」 「もちさん!! 返事して!!」
甲斐田の叫び声と、不破の切羽詰まった声。直後、凄まじい衝撃音と共にドアが開いた。予備の鍵を持っていた加賀美が、肩でドアを押し開けたのだ。
「……っ、社長……? みんな、なんで……」
ベランダの手すりに手をかけていた剣持を、不破が音速で抱きしめ、床へ引き戻す。
「……何してんねん。何してんねん、マジで……!」 不破の声は怒りで震えていた。 「お前がおらんくなったら、誰が俺にツッコミ入れてくれるんや。誰とROF-MAOやるんや!」
「剣持さん……これを見てください」 加賀美が、震える手で剣持に自身のスマホを見せる。そこには、配信が切れていないことに気づき、必死で彼を止めようと叫び続けるリスナーたちの、愛に溢れたチャット欄があった。
「……あ、……あぁ……」 剣持の目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「あなたを否定する数人の言葉なんて、僕たちが全部叩き潰します」 加賀美が、静かだが鋼のように強い意志を込めて言った。 「あなたは、私たちが選んだ最高の相方なんです。誰にも、あなたを汚させない」
「そうですよ……。もちさんがいないROF-MAOなんて、誰も望んでない」 甲斐田が、剣持の背中にそっと手を添える。 「カッコ悪くたっていいじゃないですか。中身が空っぽだって言うなら、僕たちが面白い企画でパンパンにしてあげますから」
剣持は、不破のパーカーを握りしめ、嗚咽を漏らした。 画面越しに聞こえてくる四人の声に、リスナーたちも涙を流しながら「ありがとう」と打ち込み続ける。
「……すみません。……僕、本当に、バカでした」 「バカですよ。でも、最高のバカです」
加賀美の優しい声がマイクに乗り、ようやく剣持の手によって配信が終了した。
後日、ROF-MAOの公式チャンネルには一枚の写真が投稿された。 そこには、泣き腫らした顔で、でも少しだけスッキリした表情の剣持と、それを囲んで無理やり変顔をさせる三人の姿があった。
『本日の動画は、リーダーが重度のメンヘラをかましたため、焼肉を奢らせる回に変更します』
そんな不破のツイートに、ファンは笑いながら「おかえり」と、最高の愛を届けたのだった。