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万事屋の話です。
江戸の昼下がり。
かぶき町は今日もいつも通り騒がしい。神楽はぶらぶらと歩いていた。手には酢昆布。機嫌はまあまあ。
「暇アルなー。銀ちゃんはジャンプ読んでるし、新八は姉御といるし」
そんなことをぶつぶつ言いながら路地裏を曲がると、一匹の白猫が塀のそばに横たわっているのが目に入った。
「お、猫アル」
しゃがみ込んで、そっと手を伸ばす。
「よしよし〜……」
指先に触れた瞬間、神楽はぴたりと動きを止めた。
――冷たい。
白い毛並みはきれいなままなのに、まるで冬の石みたいにひんやりしている。
そのとき、ふと昔の会話が頭をよぎった。
『猫って亡くなっちゃうとき、飼い主にそれを見られたくないから逃げ出しちゃうんだって。定春は一応犬だからそんな事ないから安心だね』
真面目な顔でそんな豆知識を語っていたのは、もちろん新八だ。
「……」
神楽は目の前の白猫を見つめる。
ぼさぼさの天然パーマ。 気だるそうな目元。 やる気なさそうな顔。
「……銀ちゃんにそっくりアル」
自然と、銀時の姿が重なる。
もし銀時が、誰にも何も言わず、ふらっといなくなったら。
もし、誰にも見られないところで、こうして冷たくなっていたら。
「……」
両手を合わせる。
持っていた酢昆布を一本、そっと白猫の横に置いた。
「甘いもんの方がよかったかもしれないけど、今これしかないアル。……ちゃんと成仏するネ」
しばらくその場にしゃがみ込んでから、神楽は立ち上がった。
空はいつも通り青い。 江戸は何も変わらない。
でも、胸の奥が少しだけ重い。
――万事屋。
引き戸をがらりと開ける。
「ただいまアル」
中では、いつもの光景が広がっていた。
椅子にだらしなく腰掛け、ジャンプを読んでいる銀時。
ページをめくる音。
鼻をほじる音。
平和そのもの。
神楽は銀時に近づき、さっきの猫と姿を重ね合わせる。やっぱりそっくりだ。
「銀ちゃん」
「ん?何だ?」
神楽は口から出かけた言葉をそっとのみ銀時の膝の上にどっかりと座った。
「ちょっ、神楽。ジャンプ読みづらいんだけど。何してんの?」
「銀ちゃんがどっか行かないように乗ってあげてるアル」
「文鎮かお前は」
「重しアル」
「意味一緒だよ!!」
どたばたと騒がしい声が万事屋に響く。
外では夕日が傾き始めている。
さっきまで胸にあった重みは、いつの間にか少し軽くなっていた。
温かい会話が、今日も万事屋から聞こえている。