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106 - 青春は、まだ始まったばかり19 END

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2025年06月04日

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今日が、藤澤先生の最後の日。



元貴と滉斗は、その少し後ろのステージ袖で、手に汗をにじませていた。








「なあ元貴、手、震えてる?」


「うん……滉斗は?」


「めっちゃ震えてる。でも、絶対ちゃんと弾く」


「……うん、僕も」








離任式の壇上には、先生の姿が見える。


式が進んでいく。

校長先生の話、教員代表の挨拶、生徒会からの花束贈呈。




そして、最後。






「本日、特別に生徒から先生への贈り物があります」





マイクを通して、アナウンスが体育館中に響く。


滉斗と元貴は目を合わせ、2人はステージへ出た。








滉斗の手にはギター。

そしてピアノとボーカルは元貴。

今日は、ふたりだけで音を鳴らす。


元貴がマイクを握って言った。





「この曲は、僕たちが、藤澤先生のために作った曲です。

先生が教えてくれた音楽、先生と過ごした日々、すべてに“ありがとう”を込めて」




「……聴いてください。“BFF”」









先生がくれた“音楽”の心が、そこにある。


ふたりだけのアレンジで、曲が始まる。





縁に帰る匂いがした

覚えているかな?

僕たちは

夢中に描いたんだ

大きな宇宙のような瞬き





滉斗のギターが、優しく響く。

僕の声が、静かに流れていく。


先生に向けて、ただまっすぐに。








バカみたいな僕の夢を

バカみたいに信じてくれて

やるせないそんな今日でも

僕には君が居る





歌いながら、目の奥が熱くなった。


でも泣かないって決めていた。

最後まで、ちゃんと“音”で伝えたかったから。








最後のフレーズ。





ありがとう今日も

ただ一緒に

忘れることは無い

ただ永遠に







ピアノの音が止んだとき、

元貴の指先は震えていて、目の前がぼやけていた。


滉斗がギターを弾き終え、何も言わずに元貴の肩にそっと手を置いた。


その瞬間、元貴の涙が止まらなくなった。





(……先生、ありがとう……っ……)






滉斗も目を赤くして、うつむいたまま、声を詰まらせた。

体育館が、静まり返る。


そして、少し遅れて、大きな拍手が響いた。


元貴と滉斗は、そっと一礼した。

先生が、ゆっくりと立ち上がって近づいてきた。





「……最高の贈り物を、ありがとう」





その声もまた、かすかに震えていた。





「君たちの音楽、ちゃんと届いたよ。……一生、忘れない」







その日、ふたりは初めて、人前で泣き崩れた。




でも、それは悲しみの涙だけじゃなかった。




音で、伝えることができた。




それが、なにより誇らしかった。










体育館のドアの向こうへ、先生が歩いていく。





背中を見送りながら、僕たちは静かに並んで立っていた。






“さよなら”は、いつだって寂しい。


でも今日は、その音が、あたたかかった。










藤澤先生がこの学校を去ってから、季節は静かに変わった。


花壇にはチューリップが咲き、

校庭には新入生らしき小さな背中がちらほらと揺れている。


元貴と滉斗は、2年生になった。






新しい教室。

新しいクラスメイト。

それでも、隣に滉斗がいることで、日々は確かに繋がっている。


放課後の音楽室も、今は少しだけ違う雰囲気になった。

けれど、僕たちは変わらない。

変わらずここで、音を鳴らしている。







あの日の“BFF”は、僕たちにとってはじめての「ありがとう」の形だった。



でもきっとこれからは、

「嬉しい」も、

「寂しい」も、

「大好き」も――

全部、音にして届けられる。




僕たちは、音楽を手に入れたから。








先生、聞こえていますか?




僕たちは、ちゃんと、歩いています。




音を鳴らして、笑って、時々泣いて。






そして――あなたがくれた“音”の意味を、

今も、これからも、ずっと探し続けています。






「青春は、まだ始まったばかり」――完。






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