最初はほんの出来心だった。
音楽制作のために用意された、バンド専用のスタジオ。
自分たちしか使わないその場所に、滉斗は小型の盗聴器を仕掛けた。
きっかけは些細なことだった。
ある日、元貴がスタジオで弾き語りしていた声をたまたまドアの外で聴き、その音に、滉斗の全身が反応した。
(……なんで、こんなにゾクッとすんだよ……)
低く響く鼻歌。
歌詞のメモを読み上げる声。
ふと漏れるため息。
それらが滉斗の“性的なスイッチ”になっていることに気づいたのは、つい最近のことだった。
自宅のベッドの上で、耳にイヤホンを差し込みながら滉斗は静かに録音アプリを開いた。
(今日は、いる…)
今夜、元貴はひとりでスタジオに残っていた。
制作が煮詰まっている、と言っていたから、きっと遅くまで作業するつもりなのだろう。
滉斗はスマホの画面をスリープにしたまま、耳だけを澄ませる。
「……うーん、違うな……このコードじゃない……」
元貴の独り言が、鮮明に響いてきた。
部屋の残響音と紙の擦れる音。
ペンのカチカチというリズム。
音だけで、その場の空気が伝わってくるようだった。
そして──
少しの沈黙のあと、布のこすれる音が聞こえた。
(……?)
「……はぁ……集中、できねぇ……」
ぐっと滉斗の喉が鳴る。
元貴の、疲れたような吐息。
それが妙に、色っぽかった。
「……ん……少しだけ……リセットしよ……」
その直後、イヤホンからくぐもった音が聞こえ始めた。
ジッパーの下がる音。
椅子がきしむ音。
そして……濡れた音。
「っ、……あ……っ……はぁ……」
(まさか……)
滉斗は息を呑んだ。
目を閉じたまま、全神経を“その声”に集中させる。
「ん……く……やば……きもち……」
いつもは歌っている元貴の声が、
今夜は違う音を立てていた。
欲望に染まった吐息。
自分の手で、自分を慰める音。
そのすべてが、イヤホン越しに滉斗の耳へと届いてくる。
(……っ、これ……やばい……)
理性が、一瞬で吹き飛んだ。
滉斗の手が、パジャマの中へと滑り込む。
聞こえる声に合わせて、同じリズムで自分を擦る。
まるで、そこに元貴がいるような錯覚。
「ん、ぁ……ふ、っ……も、ちょっと……」
(元貴……イキそう……)
「あっ、……んんっ……く、っ……あ、ぁ……」
滉斗の手も止まらなかった。
元貴の絶頂に呼応するように、吐息を漏らしながら、シーツを握りしめて果てる。
「……っ、は……はぁっ……」
静寂が訪れる。
けれど、その余韻さえも甘く、そして……背徳だった。
滉斗は、自分の濡れた手を見ながら、少し笑った。
(……録っといてよかった)
そして指先で、スマホの「録音保存」ボタンを押した。
コメント
4件
Wow… 私もその録音聞いてみたいな…🎧 作業用BGMにしよ📝
うわぁぁぁあ続き楽しみです🥹🥹