テラーノベル
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アリーナの天井が開き、第三ラウンド開始の鐘が鳴った。
床には新しい黒いボールが大量に転がっている。壁の表示には、簡潔なルールだけが浮かんでいた。
第三ラウンド
制限時間三分
被弾回数が多い者から失格
メバルは、破れた左袖を見下ろした。
上着の布地はあちこち裂けている。だが、下に着ていた動きやすいインナーがしっかり残っており、身体が露出することはなかった。
それでも、メバルの表情は険しい。
「……ねえ」
メバルがボールを拾った。
ミステー、アオノ、カキの三人が、同時に振り返る。
「はい」
ミステーはいつものように真面目な顔をしていた。
「どうした?」
アオノも淡々としている。
「メバルちゃん、怒ってる?」
カキだけが、少し不安そうだった。
メバルは笑った。
明るく親しみやすい、いつもの笑顔だった。
「うん。ものすごく怒ってるよ」
「怒りの表情、前回より明確だ」
アオノが端末に記録する。
「観察の好機だ」
ミステーも頷いた。
「カキちゃん、逃げて!」
メバルが叫んだ。
「えっ、俺も!?」
「とばっちり!」
第三ラウンドが始まった。
メバルの投球は、開始の鐘が鳴り終わるより早かった。
第一球がミステーの胸元に当たる。
バシッ、と音が響き、上着の前面が横方向に裂けた。
「一回!」
メバルが叫ぶ。
「破損位置は――」
「観察しない!」
続く第二球が、ミステーの左肩に当たる。
「二回!」
第三球は右腕。
「三回!」
ミステーは逃げようとしたが、ピラミッドの被り物が邪魔になり、動きが少し遅れた。
「メバルちゃん、これは過剰な反撃では――」
「誰のせいで怒ってると思ってるの!」
第四球が背中に当たる。
第五球が足元へ転がり、ミステーがつまずく。
第六球が、倒れかけたミステーの肩へ命中した。
「六回」
メバルの目は笑っていない。
「ミステー、回避行動を選択しろ」
アオノが指示する。
「衣服の破損を記録する必要がある」
「まだ記録する気なの!?」
第七球。
第八球。
第九球。
第十球。
メバルは、拾う、投げる、拾う、投げるを繰り返した。
ミステーの上着はすっかり裂け、ところどころが短い布片のようになっている。だが、インナーは残っているため、身体が露出することはない。
ミステーは床に座り込んだ。
「服が、秋の落ち葉のようになった」
「季節でまとめないで!」
メバルの投げた十一球目が、ミステーのピラミッドに直撃した。
ピラミッドが回転し、ミステーの頭から外れて床を転がる。
「十一回。これで観察終了ね」
ミステーは呆然とした。
「観察する側が、観察される側になった」
「ちゃんと反省して!」
「反省の表情を観察している」
「まだ言うか!」
メバルは次の標的へ向き直った。
アオノが一歩下がる。
「メバルちゃん、投球動作から次の軌道を予測する」
「今日はその予測ごと叩き潰すから!」
メバルの一球目がアオノの右肩に当たった。
「一回」
二球目は左腕。
「二回」
三球目は足元。
「三回」
アオノは冷静に回避を続けたが、メバルの投球は正確だった。
「投球速度、前回より二十八パーセント上昇」
「メバルちゃんの怒りが数値化されてる!」
カキが叫ぶ。
四回、五回、六回。
アオノの上着が次々に裂けていく。
「破損範囲が拡大。布地の耐久限界まで、残りわずか」
「限界まで調べるな!」
七回目の投球を、アオノは身をひねってかわした。
しかし、その先にはマサカゲがいた。
「そこは危ない!」
マサカゲが叫ぶ。
ボールは壁に当たり、反射してアオノの背中へ戻った。
「七回」
「反射角まで計算したのか」
アオノが初めて驚いた。
「計算じゃないわ。怒りよ!」
八回、九回、十回。
アオノはついに両手を上げた。
「戦闘継続は非効率」
「最初からそう言って!」
十一球目がアオノの足元に当たり、アオノはその場に座り込んだ。
「被弾十一回。データは十分だ」
「私の怒りも十分よ!」
メバルは最後にカキを見た。
カキは両手を上げていた。
「俺は何もしてないぞ!」
「カキちゃんは、最初に私を狙った!」
「それはゲームだから!」
「ミステーちゃんとアオノちゃんの作戦に乗った!」
「とばっちりだ!」
カキが走り出す。
しかし、メバルも走った。
「逃がさないからね!」
カキはアリーナを大きく回り、床の上に落ちたボールを拾おうとした。
「鉱石もない、隠し通路もない! 今日の俺には何もない!」
「じゃあ、被弾だけ受け取って!」
メバルの一球目がカキの背中に当たる。
「一回!」
二球目、三球目、四球目。
「ちょ、待て待て! 俺は観察してない!」
「でも狙った!」
「一回だけだろ!」
「私の袖は一枚しかないの!」
五回目がカキの肩に当たり、上着が裂けた。
六回目、七回目、八回目。
カキは必死に逃げたが、勢い余って床の線を踏み越えた。
床の一部が開きかける。
「また地下への入口だ!」
カキが叫んだ。
「今度は落ちないでよ!」
メバルが投げたボールが、カキの足元へ命中した。
「九回!」
「入口よりメバルちゃんのほうが危険だ!」
十回目の投球で、カキの上着の背中が大きく裂けた。
だが、下のインナーは無事だった。
「十回!」
メバルが宣言する。
「あと一回で全員同じだね」
「同じにしなくていい!」
カキが叫んだ。
メバルはゆっくりとボールを拾う。
ミステー、アオノ、カキの三人は、壁際で身を寄せ合った。
「メバルちゃん、もう十分ではないか?」
ミステーが言う。
「十分じゃないわよ」
「僕たちは反省している」
アオノが続ける。
「反省の継続時間を計測している」
「アオノちゃんは反省してない!」
カキが両手を合わせた。
「メバルちゃん、俺はもう狙わない! 洞窟を見つけても、五分は我慢する!」
「五分だけ!?」
メバルが投げた。
十一球目がカキの胸元に当たった。
カキはその場で尻もちをつく。
「十一回!」
同時に、試合終了の鐘が鳴った。
壁に結果が表示される。
第三ラウンド終了。
被弾回数:ミステー十一回、アオノ十一回、カキ十一回。
勝者:メバル・マサカゲ組。
マサカゲは、破れた肩を押さえながらメバルを見た。
「……やりすぎではないか?」
「最初に観察しようとした三人に言って」
ミステーが床に落ちたピラミッドを拾う。
「メバルちゃんは、怒ると強い」
アオノが頷いた。
「次回から、観察対象を変更する」
「誰を観察する気!?」
メバルが身構える。
アオノは、床に開きかけた穴を見た。
「地下区画」
ミステーも頷く。
「そこには、長時間放置されたK-Tがいる」
メバルの顔が青ざめた。
「Kさん、まだ地下なの!?」
返事はない。
ただ、床の下からかすかに、機械音だけが響いていた。
そして壁に、次のゲームのタイトルが浮かび上がる。
第二ゲーム――歩くと爆発する世界。
コメント
1件
第3話読み終えました!メバルちゃんの怒り、すごかったですね(笑)「計算じゃないわ。怒りよ!」の台詞、熱かったです。観察しようとした三人が逆に11発ずつ同点で被弾するラストは痛快でした。最後にまだ地下にKさんがいる描写があって、安全が気になります…「歩くと爆発する世界」ってタイトルも不穏で、次回が待ち遠しいです!
K-Takasaka
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#K-T
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