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何も返さずにいると、美しく整った顔を私の鼻先まで近づけて、
「……泣くほど、苦しいのですか……?」
どこかいたわるようにも聞こえる声音で言い、頬に伝い落ちた涙の跡を舌先でつと舐め取った。
いたわりなんて、どうせ彼にとっては表向きなことでしかないのに、その内面には、愛情の欠片さえもないのにと思うと、よけいに泣きたくもなって、涙は再び滲んだ。
「……あなたになんか、わからない……」
堪え切れない涙にそむけた顔に、
「……私には、あなたの気持ちがわからないというのですか?」
気遣うような素振りで、彼の手が頬にひたりと添えられて、
「……わかるわけなんて、ない」
力ずくでそれを引き剥がすと、真上から見下ろす双眸に、せめてもの意地で言い返した──。
向けられた反論に、額に落ちた髪を彼があからさまに鬱陶しげに掻き上げる。
「前にも、言ったはずですよね? 私の心の内など、あなたには知れないと……」
そう言うや不意に唇を近づけて、さっきまでのすぐに消えそうな薄いマーキングとは違う、痕が残るほどの痣を私の肌に残した。
「……あなたは、私のものなのですよ…」
その細く長い指先を伸ばして、
「この痕も、その証しです」
口づけたところを、指で滑らかになぞり上げた。
「……私は、あなたのものなんかじゃない」
込み上げる嫌悪に、もうどこにも口づけられないよう自らの身体に両手を回し固く抱き締めると、負わされるばかりの責め苦から守ろうとした──。