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ご本人様とは全く関係ありません
アンケート集計同率1位の作品です。
ようやく書き終えました。
他作品も急いで執筆中です……👉👈
総選挙やってますけど、
関係なしに青桃書いてます😌
安定して長いですし、
こんな暗くなるはずじゃなかったんです。
解釈不一致、異論受け付けます。
この作品ばっかりはしょうがないんです🙇
オウジサマとか
オヒメサマとか
ゲンジツにはありえない
偶像たち
ないものに
ねだってすがって
今の俺は生きている
溢れんばかりの愛を、君に
「おいこら、内藤!!
お前そっから今すぐ降りてこい!!!」
ざわつく昼休みの教室に、
ひときわ響く中年教師の怒声。
いきなり扉を開けて入ってきたかと思えば、
窓を乱暴に開け放ち、
外へ向かって怒鳴りつける。
何事かと、
思わずその視線を辿ったその先に。
いた。
木々の緑の中に、
やけに浮いたピンク。
枝の上。
器用に腰をかけたその姿は、
どう見ても反省する気なんてない。
教師の顔を見つけると、
小さく目を見開いて
「……やばっ。見つかった」
たぶん、そう言った。
声は届かなかったけれど、
口の動きでなんとなく分かる。
腕の中には、
しっかりと抱えられた一匹の猫。
白い毛並みは少し汚れていて、
さっきまで
必死に鳴いていたのかもしれない。
教室のざわめきが、
一斉に方向を変えた。
友達との会話は止まり、
弁当を持つ手も止まり、
みんな同じ方向を見上げる。
あのピンクが、どう動くのか。
食い入るように見つめる。
まるで、
舞台の続きを待つ観客みたいに。
「よっ……と」
誰かの期待に応えるように、
ピンクは枝を蹴った。
一瞬、体が宙に浮く。
本当に、
空中を歩くみたいに。
ひらりと。
制服の裾が揺れて、
次の瞬間には地面に着地していた。
軽い音。
腕の中の猫は、
少しも暴れてへん。
歓声は、
上がらなかった。
けれど。
教室の空気が、
静かに熱を帯びる。
それを、
本人だけが分かってないみたいな顔で、
何事もなかったかのように
優しく猫を撫でて、
そのまま立ち去ろうとするから。
「……すご」
俺たち観客は、
そんな声しか上げられへん。
いつだって、
話の中心におるのは、
さっきまで木の上におった、あいつ。
この学校で、
ひとりだけやたら目立つ存在は、
木々の緑の中で、
ひどく浮いて見えたピンク。
そのピンクこそが、
俺の幼馴染。
内藤ないこ。
「あ、まろだ」
放課後。
友達と話しながら廊下を歩いていると、
後ろから、ないこに声をかけられた。
振り向くと、
鞄についた可愛らしいストラップを
ちゃらちゃら鳴らしながら、
こっちへ歩いてくる。
見慣れたピンクの頭。
そこについている黒猫のヘアピンが、
あざとさを余計に強調して見えた。
「まろ」
呼ばれたかと思えば、
きゅっと、
俺の腕に自分の腕を絡ませる。
そのまま、
ちらりと俺の後ろにいる友達を一瞥してから、
「まろ、借りてもいい?」
にこりと、
愛想よく微笑んだ。
その瞬間。
やつらの顔が
ぱっと明るくなる。
「どうぞどうぞ!!」
「いくらでも!!」
「むしろ連れてってください!!」
……なんでお前ら、
そんな下から出るねん。
……てか。
俺は貸し出し扱いなんか?
一応これでも、立派な人間やけど?
そんな俺の気持ちも知らず、
ないこはくすっと笑って、
「ふふ、ありがと」
そう言うと、
俺の手を引っ張った。
「……ないこ」
「んー……?」
「ないこ」
「何」
「いい加減、この手離さへん?」
学校を出てからずっと、
繋がれっぱなしの右手を軽く持ち上げて見せる。
「え〜? ……やだ」
「やだちゃうわ……」
さらっと言いやがって。
「学校出てからずっとやぞ」
「うん」
「……目立つやろ」
「別にいいじゃん」
悪びれる様子もなく、
ないこは指をきゅっと絡め直した。
絡められた手をちらりと見下ろして、
俺は小さくため息をつく。
「お前さぁ、これ他のやつにもすんなよ?」
はぁ……と、もう一度息を吐く。
俺が幼馴染やったから
まだええようなもの。
他のやつやったら、
変に期待するやつもおるやろうし。
こいつは、
そういうの、分かってへんからな。
「まろにしかしないよ?」
「……は」
きょとんとした声に、
思わず間抜けた声が出た。
ないこは一度立ち止まって、
くるっと俺の方を振り返る。
夕方の光が、
やけにあいつの顔を明るくして見えた。
「だって俺、まろ以外に友達いないもん」
「……はぁ?」
その言葉に、
俺は今度こそ顔をしかめた。
「いやいやいや、ないこ、お前、
クラスのやつおるやろ?」
いっつも周りにおるやつ。
the陽キャ!!みたいな連中。
いつ見ても、
ないこの周りには人が集まっとる。
やけど。
「……あれは、何だろ」
ないこは少しだけ視線を落として、
考えるように言葉を選ぶ。
そして、ポツリと呟いた。
「俺を見てるんだけど、
俺じゃない人を見てる人たち……?」
「……何やそれ」
思わず眉をひそめる。
意味が分からん。
あいつら、
普通に楽しそうに話してるやろ。
いつもないこの周りで騒いで、
笑って、
写真撮って。
それのどこが
違うって言うんや。
「だってさ」
ないこはまた歩き出して、
繋いだままの手を軽く揺らした。
「まろは、普通に話してくるじゃん」
「普通にって何や」
「普通には、普通にだよ」
くすっと笑うないこ。
やけに儚く見えた。
ないこは、
どこか遠くを見ながら続ける。
「変に持ち上げないし、
変に気も遣わないし」
そう言って、
ちらっとこっちを見た。
「俺のこと、〝ないこ〟として扱うじゃん」
なんとなく重い空気になった時
夕方の風が、
ふっと吹いた。
その風に、
ないこのピンクの髪がふわりと揺れて、
頭についた黒猫のヘアピンが、
少しだけずれる。
「……あー」
思わず声が漏れた。
「ん?」
何かあった?と言いたげな表情で、
ないこが首を傾げた。
俺は繋がれていない方の手を伸ばして、
そっとそのヘアピンに触れる。
「ずれてる」
「え、うそ」
ないこが慌てて手を上げようとするけど、
その前に、俺が軽く位置を直した。
ぱちん、と小さな音が鳴る。
「ほら」
ないこは一瞬、目をぱちぱちさせてから、
少しだけ照れたみたいに笑った。
「ありがと」
「……別に」
手を引っ込めながら、
俺は視線を逸らす。
そのとき、
直したばかりの黒猫のヘアピンが
夕日に反射されるのが目に入った。
「……それのせいもあるんちゃう?」
「ん……?」
「そのヘアピン」
軽く顎で示す。
「目立つやろ。
そら周りも寄ってくるわ」
少しだけ間を置いてから、
肩をすくめた。
「もっと普通の格好してみれば?」
別に深い意味はなかった。
せやけど。
「やだ」
即答だった。
「はや」
思わず突っ込む。
ないこは指先で、
頭の黒猫のヘアピンをちょんと触った。
「これ、好きだし」
「そういう問題ちゃうやろ」
「それに」
そう言って、
ないこはまた歩き出す。
けど今度は、
繋いでいた手を離して。
ひらりと俺の前に出ると、
夕日を背にして、
両手を大きく広げた。
「これが俺だから」
にひっと笑う。
「これが、1番俺らしくて、
1番俺だ!!って思える格好」
黒猫のヘアピンも、
その周りについたカラフルなヘアピンも。
首元の黒いチョーカーも、
ダボッとしたカーディガンも。
歩けばちゃらちゃらと音を鳴らすストラップも。
全部、全部。
ないこの好きで溢れていて。
それが夕日に照らされて、
やたらきらきらして見えた。
「……」
俺は、少しだけ目を細める。
さっきまで、
目立つやろなんて思ってたのに。
今はなんか。
すべてが、
似合ってる気がした。
「……アホやな」
ぽつりと呟く。
ないこが首を傾げる。
「何が?」
「そんな大声で自己紹介するやつ、
初めて見たわ」
そう言うと、
ないこは一瞬ぽかんとして。
それから、
楽しそうに笑った。
「いいじゃん」
そして、
また当たり前みたいに俺の手を取る。
「まろには、ちゃんと覚えてほしいし」
「……覚えてるわ、ボケ」
そう言うと、
ないこは嬉しそうに笑った。
「まろも似合うかもよ?」
「ないこみたいな格好?
さすがに無理あるやろ」
「んー……」
ないこは少し考えるふりをして、
俺の顔をじっと見る。
「なんか、厨二病みたいな格好とか。
似合いそう」
「は?」
「眼帯とかつけて、
こう……右手が疼く……っ!!って」
大げさに右手を押さえてみせる。
「……馬鹿にしとる?」
「してないしてない」
くすくす笑いながら、
ないこは首を振る。
「絶対してるやろ」
「してないって」
けらけら笑うないこを見ながら、
俺はゆっくりと口を開いた。
「ないこなら大丈夫やろ」
ないこは、不思議そうに俺を見た。
「ないこがちゃんと話せば、
ないこのこと見てくれるやつぐらい
絶対おるって」
な?と笑って言うと、
「……そうだね」
ないこは小さく笑った。
「明日から、ちょっと話してみよっかなぁ」
そんなことを言うないこに、
「ええやん」と軽く返す。
そうやって、
いつもみたいに他愛もない話をしながら。
その日は、帰った。
そして、俺は
この日を
後からとんでもなく後悔することになる。
数日後。
何気ない日々を
ぼーっと過ごしている時
耳に入ってきたのは、
信じがたい噂だった。
「なぁ、お前知ってる!?」
「あれだろ?内藤のやつ」
「そうそう!やべぇよな!
今までそんなことなかったのになぁ……」
「ほんとそれ。ビビったわ最初。
内藤が先輩と付き合うなんてさ」
「……は?」
それを聞いた当初、
思わず声が漏れた。
内藤って、
……ないこのことやんな?
なんで急にそんなことになってるん?
「これで内藤の独り占めできなくなったな!
いふ!」
「幼馴染が付き合い始めて、
寂しくないんでちゅか〜??」
なんて、散々煽ってくるやつもおったけど。
……所詮、噂や。
ないこの口から直接聞くまでは、
信じるつもりはなかった。
いや。
信じたくなかった、
のほうが正しかったのかもしれん。
やって。
その日の授業は、
自分でも驚くくらい
頭に入ってこんかったし。
その代わりに、
頭の中は。
ないこのことで、
埋め尽くされていたんやから。
放課後。
俺は、いつもより少し遅れて教室を出た。
別に理由なんてない。
ただ、
廊下でないこに会うのが
なんとなく嫌やっただけや。
噂のことを聞くのが怖かったのか、
それとも……
「……あ、まろ」
考えてるうちに、
後ろから聞き慣れた声がした。
振り返ると、
そこにはいつも通りのないこが立っていた。
黒猫のヘアピン。
カラフルなヘアピン。
黒いチョーカー。
ダボッとしたカーディガン。
全部、 この前と同じ格好。
……なのに。
「……ごめん、今日から一緒に帰れないや」
かける言葉だけが違った。
「先輩と、付き合うたから……?」
その声は誰が聞いてもわかるほど
震えた声だった。
「あ、まろ。知ってたんだ」
にへっと眉を下げて笑うないこ。
「先輩と……付き合うたから?」
誰が聞いてもわかるくらい、
声が震えていた。
「あ、まろ。知ってたんだ」
にへっと、
眉を下げて笑うないこ。
「この間、
話してみよっかなって言ってたじゃん。
その話してる途中で、
たまたまその先輩が来てさ。
友だちになりませんかって言ったら」
少しだけ視線を落として、
「彼氏ならいいよ?って言われて。
それで……まあ、成り行きで」
……成り行きで、
彼氏ってできるもんなんや。
聞いた感じやと、
その先輩と初対面ってことやろ?
どっからどうみても怪しい。
そう分かってはおるけど。
「そっ、か……。
良かったな」
きっと。
自分が言いたかったのは、
こんな言葉やない。
心が悲鳴あげとるとか、
そんなこと——
どうでもよく、なかったけど。
そうやとしても。
ようやく、
ないこを見てくれる人が
現れたんやとしたら。
祝わへんわけには、
いかんかった。
「……今日から先輩と帰るんやろ?」
「え、あ……うん」
「ほな、またな」
ないこの返事なんか待たずに、
横を通り抜ける。
角を曲がって、
ないこの姿が見えなくなってから。
ようやく、
息を吐く。
「……はは」
笑ったつもりやったのに、
声はうまく出なかった。
成り行きで、彼氏。
そんな言葉が、
何度も頭の中で繰り返される。
「……俺、何しとったんやろ」
ずっと隣におったのに。
ずっと、
ないこは俺に手を伸ばしていたのに。
俺は、手なんか伸ばしたことなんて、
1回もなかったやん。
『大事なものは失ってから気づく』
なんて言うけれど。
ほんまにそうやった。
ずっと。
ずっと横におったから。
おりすぎて、
感覚が鈍っていた。
帰ろうという誘いに
1度も断らなかったのも。
俺以外の誰にも
手を繋いで欲しくないのも。
ないこが、
好きだから。
……あー……ほんま。
「気づくの遅すぎや、ぼけ」
滲む視界で、
そんなことを口にした。
「なぁ……あいつ大丈夫か……?」
「内藤が付き合ってから
もぬけの殻だぞ……?」
そんな声はもう聞き飽きた。
……し、自覚もあった。
学校でも一際目立つないこの噂なんて、
秒で広まった。
「昨日も先輩と帰ってたらしいぞ」
「昼も一緒におったって」
そんな話を、
廊下でも、教室でも、
嫌でも耳にする。
校舎のあちこちで
2人の目撃情報があるが、
俺はそれらを
綺麗に交わして生活していた。
……ご察しの通り。
見たら、
自分自身が持たなそうだったから。
「いふ!」
「……あ?」
不意に呼ばれた返事に、
恐ろしく低い声が出てしまった。
「……お前、その声は怖すぎるって。
人殺せるレベル」
「うっさいわ。で?なんかあったん?」
苦笑いしながら、
そいつは頭をかいた。
「あ、そうそう。
昼、中庭で食わん?」
「ええけど……。なんで急に」
「お前最近暗いからさ〜」
ニヤッと笑って、
わざとらしく肩をすくめる。
「たまには別の場所で食って、
気分転換でもしようぜ」
「……別に暗くないやろ」
「いや暗いって。
この前なんか先生に当てられて、
返事した声、ゾンビだったし」
「ゾンビってなんやねん」
思わず小さく笑うと、
そいつは満足そうに頷いた。
「ほらな。
笑えんじゃん」
「……うっさい」
弁当と
今朝、自販機で買ったペットボトルを持って、
そのまま中庭へ向かう。
昼休みの中庭は、
思ったより人が多かった。
芝生に座るやつ、
ベンチで騒いでるやつ、
日陰で昼寝してるやつ。
そんな中を歩きながら、
なんとなく視線を逸らす。
……おるかもしれんから。
できるだけ、
考えんようにしてたのに。
「……あ」
隣のやつが、
小さく声を漏らした。
その瞬間、
胸が嫌な音を立てる。
「……なぁ、いふ」
「……言うな」
見なくても、
なんとなく分かった。
「……そこ、ベンチ」
「言うなって言うたやろ」
それでも。
視線は、
勝手にそっちへ向いた。
ベンチの端に、
見慣れたカーディガン。
カラフルなヘアピン。
黒いチョーカー。
——ないこ。
その隣には。
見たことない、
背の高い先輩が座っていた。
「……場所変える?」
隣のやつが
気遣うように小声で言う。
「ええよ、ここで」
できるだけ、
何でもない顔をして答える。
別に、
背中向けときゃ視界に入らんし。
わざわざ
気ぃ遣わせるのも、悪い。
俺は近くにあった机に、
ないこたちから背中を向けるように座った。
そいつも、
少し迷ったあとで、
俺の向かいに腰を下ろした。
なるべく当たり障りのない会話をして。
背中から聞こえてくる声には無視。
ただひたすら、
弁当を口に入れる作業をこなす。
味なんて、
正直分からへんかった。
「ちょ、あいつ……っ!!」
突然、
そいつが勢いよく立ち上がった。
その声につられるように、
周りの生徒たちも一斉に
同じ方向を見る。
ざわっ、と
空気が揺れるのが分かった。
俺も、
促されるようにそちらを見る。
次の瞬間。
思考が止まった。
そこには、
頭から液体をかけられて、
びしょびしょになっている
ないこの姿があった。
カーディガンも、
髪も、
ぽた、ぽたと
水滴を落としている。
「……は?」
何が起きたのか、
一瞬理解できなかった。
ただ、
ないこの横にいたやつが
手に持っているペットボトル。
その中身が、
綺麗に空になっているのだけは
はっきり見えた。
つまり。
そいつが、
ないこにぶちまけたってことやろ。
周りがさらにざわつく。
「え、なにあれ……」
「やばくね……?」
「先輩じゃね?」
ひそひそとした声が
あちこちから聞こえる。
ないこは、
その場に座ったまま動かない。
隣のやつが、
俺の顔をちらっと見た。
「いふ……」
その声が聞こえた時には、
もう立ち上がっていた。
弁当のフタが、
机の上でカタンと音を立てる。
一歩。
また一歩。
中庭を横切って、
ないこの方へ向かう。
ないこの前に立っても、
ないこはまだ、
俯いたままだった。
「……なぁ」
その横にしゃがみ込んで、
低く声が出る。
ないこじゃない。
ペットボトルを持ったままの、
その先輩に向けて。
「何してくれてんねん」
先輩は、
ちらっと俺を見て、
鼻で笑った。
「……誰?」
その一言で、
胸の奥の何かが、
ぷつんと切れた。
「誰でもええわ」
一歩、
距離を詰める。
「とりあえず」
濡れたままのないこを、
横目で見てから。
もう一度、
先輩を睨む。
「ないこに、謝れや」
ガンを飛ばしても、
そいつは慌てる様子もなく。
ただ、こちらをじっと
観察するみたいに見つめているだけだった。
周りのざわめきが、
少しずつ大きくなる。
誰かが小さく、
「やば……」と呟く声も聞こえた。
そして。
「あ」
思い出したみたいに、
そいつが声を上げる。
次の瞬間。
口元が、
ゆっくり歪んだ。
「君が、いふくんか」
気持ち悪いくらい
作った笑顔で、そう言う。
背中に、
ぞわっと嫌な感覚が走った。
「ないこがさぁ」
そいつは、
まだ濡れたままのないこを
ちらっと見てから、
また俺の方を見る。
「まろまろ、うるさいからさ。
こうなっても仕方ないよね」
……なんや、それ。
うるさかったら、
何してもええわけちゃうやろ。
思わず拳に力が入る。
そのとき。
横にいたないこが、
俺の袖をきゅっと掴んだ。
濡れた指先が、
布越しに伝わってくる。
止めようとしてるのか、
何を意味しているのかは、
分からへん。
まぁ、でも、と、
先輩は、
そんな俺らを見て
つまらなそうに笑った。
「もうそいつ、いらないや。
仲良しごっこもお疲れさま」
その言葉に、
空気が一瞬止まる。
「こんな女みたいなおかしな格好してさ」
ないこの頭を、
顎でしゃくる。
黒猫のヘアピン。
濡れて、
ぐちゃぐちゃになった髪。
最後に薄く笑って、
言い放った。
「そりゃ、誰も
お前なんか、好きになるわけないわ」
そう言ってから、
先輩は俺の方を見た。
「なぁ、お前も、そう思うだろ?」
まるで、
同意を求めるみたいに。
その言葉に、
胸の奥がぐっと詰まる。
……なんで。
なんで、こんなやつに。
俺は、
ないこを取られてしまったんやろう。
なんで、
俺はあの時逃げてしまったんやろう。
ひとこと。
たったひとことでも何か言っていれば、
こんなこと起きなかったかもしれんのに。
いっつも後から後悔することばっかで。
ほんま、自分でも呆れる。
やけど、
もうこれ以上後悔なんてしたくないから。
ゆっくりと口を開く。
「……俺は」
もう、これ以上逃げたくないから。
そっと手を伸ばして、
ないこの頭を軽く撫でる。
濡れた髪が、
指先に触れた。
それから、
すっと立ち上がる。
先輩の方を見て、
はっきりと言い切った。
「ないこのこと、好きやけど?」
その瞬間。
ないこが、
ぱっと顔を上げた。
驚いたみたいに、
目を見開いて。
その瞳は、
少しだけ、
潤んでいるように見えた。
「……いらんのやったら、
もらってええよな?」
先輩の方を見て、
そのまま続ける。
「よかったやん。
短い間やったけど、
ないこのおかげで知名度上がって」
しゃがみ込んだままのないこを
抱き上げてから、
言葉を重ねた。
「せやけど、
まだまだ上がるで
〝ないこを虐めた元彼氏〟って」
最後に、
小さく吐き捨てる。
「元でも彼氏名乗られるん、
最悪やけどな」
先輩の横を通り過ぎて、
すたすたと中庭を抜けていく。
後ろで何か言っていた気もするが、
振り返ることはなかった。
……どうせ、戯言やろ。
もう、
俺らには関係ない。
……あ。
やべ。
元々一緒に昼食べとったあいつのこと、
中庭に置いてきてもうた。
んー……。
まぁ、あいつなら
空気読んで弁当とか
持ってきてくれるやろ。
……ん。
だいじょぶ、だいじょぶ。
そう思いながら、
人の少ないところまで歩く。
ないこの濡れた背中を、
ぽんぽん、と撫でながら。
N.side
昔から、
ヒトから愛されることが苦手だった。
それは、きっと
俺が迷惑ばっかりかけているから。
何やってもだめで、
うまくいかなくて。
ある時、
絵本を読んだ。
そこには、
オウジサマもオヒメサマもいて。
みんなきらきらしてた。
俺も、
そんなふうになりたくて。
ちょっとだけ真似をしたら、
みんな「可愛いね」「すごいね」って
褒めてくれる。
あぁ、そっか。
これが愛なんだ。
愛されるには、
俺は可愛くいなきゃいけないんだ。
そう思って、
色々やった。
可愛いお洋服を着て、
可愛いアクセサリーをつけて。
これが、俺。
〝愛されるための〟俺らしい格好。
でも。
『女みたいなおかしな格好』
『誰も好きになるやつなんかいない』
変わったのは所詮見た目だけで。
中身が変わんないと、
やっぱり愛されなかった。
……じゃあ。
愛されるには、
どうしたらいい?
苦手な勉強も
いっぱい頑張った。
本当はあんまり喋りたくないけど、
知らない人とも話して。
笑顔で愛想振って。
それでも、
うまくいかなくて。
……もう俺、
疲れたよ。
もう、諦めていいかなぁ……
そう思った。
そんな時に。
『俺は、ないこのこと好きだけど?』
そういうこと、
言うから。
……ねぇ、まろ。
まろのことだけは、
信用しても、いいの……?
I.side
目に入った空き教室に入り、
ないこをそっと下ろす。
扉を閉めるとき、
ちらっと見えた背中が、
やけに小さく見えた。
「ないこ」
そう呼びかけた瞬間。
「ご、ごめ……っ、
ごめんなさ……っ」
震えた声が返ってきた。
ぽた、ぽた、と。
今度は、
ないこの瞳から
涙が音を立てて落ちていく。
「……それ、
何に対してのごめんなん?」
隣に腰を下ろして、
急かさへんように聞く。
「ま、まろに……っ、
めいわく、かけた……」
言葉の途中で、
また涙がこぼれる。
まるで、
小さい子どもみたいに。
ぽろぽろ、
ぽろぽろ。
泣き続けるないこが
どうしようもなく愛おしくて。
俺は、
そっと腕を回し、
優しく抱きしめた。
……そういや。
ないこが
こんなふうに泣くの、
いつぶりやろ。
小さい頃は、
よく泣いとったのに。
何かあるたび、
目ぇ真っ赤にして。
俺の袖、
ぎゅうって掴んで。
『まろぉ……』って
泣きついてきとったな。
けど、いつからやろ。
ないこが、
泣かへんようになったんは。
……あぁ、そうや。
可愛いもんを、
つけ始めた頃や。
ヘアピンやら、
アクセサリーやら。
色んなもん、
増えていって。
周りから可愛いって
ちやほやされるたびに、
ないこの笑顔も、
増えていった。
あの頃の俺は、
ないこが笑っとるなら
それでええやって、
何も考えんで見とったけど。
……あれは、
ほんまに
笑顔やったんやろか。
俺は、今までずっと。
ないこは可愛いものが好きなんやと
思っていたけど。
ほんまは。
この〝可愛い〟の後ろに、
自分の気持ちを
押し込めとったんやないの……?
「……ないこ」
そう呼ぶと、
「ん……?」
鼻をずびっと鳴らしながら、
ないこが小さく返事をする。
泣きすぎたせいで、
声は少しかすれていた。
俺は、
抱きしめていた腕を
少しだけ緩めて、
ないこの顔を
そっと覗き込む。
目ぇ真っ赤にして、
涙でぐしゃぐしゃになっとる顔。
……ほんま、
昔と変わらんなぁ。
ないこがこちらを
怯えたように見つめるから
安心させるように
ゆっくり、口を開く。
「無理して
可愛くおらんでもええんやで」
ないこの肩が、
ぴくっと揺れた。
「ヘアピンも、
チョーカーも、
カーディガンも」
少しだけ笑う。
「似合っとるんは
ほんまやけど」
一瞬、言葉を区切る。
それから、
静かに続けた。
「それがなくても。
ないこは、ないこやろ」
ないこが、
息を詰まらせた。
「……まろ」
小さく名前を呼ぶ声が、
また震える。
俺はもう一回、
ないこの頭を軽く撫でた。
「頑張りすぎやねん」
ぽん、と優しく叩く。
「そんな格好せんくても」
まっすぐ、ないこを見る。
「俺は、
とっくにないこのこと好きやで」
そういった瞬間。
ないこが、がばっと
顔を俺の胸に押しつけてきた。
「……おれ、おれね」
震えた声が、
服越しにくぐもって聞こえる。
「こわ、こわかった……」
言葉を探すみたいに、
途切れ途切れに話しながら。
ないこは、
必死に自分の気持ちを紡いでいく。
「いっぱい……頑張ったんだよ」
ぽつり、ぽつりと。
「可愛くしてたら、
みんな優しくしてくれるかなって。
ちゃんと笑ってたら、
みんなから嫌われないかなって」
途中で、
また声が詰まる。
それでも、
止まらないみたいに。
「でも……」
ぎゅっと、
俺の服を掴む手に力がこもる。
「もし、可愛くなくなったら」
ひっく、と
小さな嗚咽がこぼれた。
「誰も……」
言葉が、震える。
「誰も、
いなくなるんじゃないかって……」
ないこは、
ゆっくり顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃのまま、
まっすぐ俺を見る。
「……まろは」
震える声で、聞いてくる。
「ほんとに、
俺のこと好きなの……?」
どうしたら、
この想いの全部が
ないこに伝わるんやろう。
胸の奥にあるもんは、
こんな一言で
収まるようなもんやないのに。
それでも、
口から出てきたんは
「好きやで。ずっと」
あまりにも、
ありきたりな言葉。
けど、
嘘なんか一つもない。
こんなふうにしか言えへん自分が、
どうしようもなくもどかしかった。
ないこは、
じっと俺の顔を見つめている。
涙で滲んだ目のまま。
「……ずっと?」
小さく、
聞き返された。
「ずっとや」
迷わず答える。
「ないこが可愛いもんをつけんくなっても」
さらりと、
ないこの頬に触れる。
「誰にも好かれへんくなっても」
最大限自分の気持ちが伝われと思いながら
「俺は、
ないこが好きやで」
そう言い終った瞬間。
ないこの目から、
また大きな涙がこぼれた。
「……なんで」
震えた声で、
ないこが呟く。
「なんで、
そんなこと言えるの……」
俺は、少しだけ笑う。
「なんでって……
好きやからやろ」
それ以外に、
理由なんてない。
ないこは、
しばらく何も言わへんかった。
ただ、
唇をぎゅっと噛んで。
それから。
また、
俺の胸に顔を押しつけてきた。
今度はさっきよりも、
強く。
「……まろ」
小さな声。
「……俺も。
まろのこと好きかも」
あまりにも突然で、
思わずばっとないこの顔を見る。
ないこは、
まだ俺の腕の中におさまったまま。
けど、
少し照れくさそうに笑っていた。
「お母さんも、お父さんも、友達も」
指折り数えるみたいに、
ぽつぽつ言葉を並べる。
「みんな好きだけど」
それから、
ちらっと俺を見上げて。
「まろの好きは、
みんなとちょっと違う」
腕の中で、
ふふっと笑う。
「なんかね……特別なの」
少しだけ考え込むようにして、
ぽつりと続ける。
それから、
小さく首を傾げた。
「……これが恋って言うんだよね?」
そう聞かれて。
一瞬、
頭が真っ白になる。
さっきまであんなに
格好つけたこと言っとったのに。
いざ真正面から
そんなこと聞かれたら、
言葉が、出てこん。
「……まろ?」
不思議そうに、
ないこが俺の顔を覗き込む。
近い。
近すぎる。
今までは幼馴染としての距離やったけど、
気持ちを自覚してからのこの距離は
まだなかったから。
……よく今までの俺、
こんなん近い距離で接せれてたな。
反応しない俺に
「ねぇってば」と、
ぷくっと頬を膨らますないこ。
「……知らん」
それをじっと見つめても
やっと出た言葉は、
そんなぶっきらぼうな一言。
「えぇ?」
ないこが、
くすっと笑う。
「好きって言ったのに?」
からかうみたいに、
少しだけ目を細める。
……くそ。
ほんま、
こういうとこや。
昔から、
こうやって俺の調子狂わせる。
俺は小さく息を吐いて、
ないこの頭に手を乗せた。
くしゃっと、
少しだけ髪をかき混ぜる。
「恋かどうかは知らんけど」
ないこを見る。
泣いたせいで、
まだ目は赤いままや。
それでも、
さっきよりずっと柔らかい顔をしている。
「俺は、
お前と一緒におりたい」
ゆっくり言う。
「これからも、ずっと」
それは、俺の本心やから。
「……それで、ええやろ」
そう言うと、
ないこは少しだけ目を丸くして。
それから、
ふんわりと笑った。
「うん」
小さく頷く。
そのとき。
ふる、と
ないこの肩が震えた。
「……さむ」
さっき中庭で
頭から水をかけられたままやったのを思い出す。
シャツも、カーディガンも、
まだ少し湿っとる。
「……あほ」
思わず呟く。
ないこが
きょとんとした顔でこっちを見る。
「なんで今まで言わへんねん」
そう言いながら、
自分のブレザーを脱ぐ。
ないこの肩に、
ばさっと掛けた。
「え、いいよ。大丈夫だから」
ないこが慌てて言う。
「まろが寒いでしょ」
「ええねん」
短く返す。
「ないこの方が大事やから」
ないこは、
一瞬ぽかんとして。
俺のブレザーの袖を
ぎゅっと握った。
「……ありがと」
小さく呟く声は、
さっきよりもあたたかくきこえた。
あの後は、
端的に言うとサボった。
というか、
ないこが
あのまま授業を受けられる状態じゃなかったし。
俺も、
今さら教室に戻る気分でもなかった。
だから結局、
空き教室でそのまま時間を潰すことになった。
他愛もない話をして。
ときどき黙って。
気づけば、
さっきまでの騒ぎが嘘みたいに
静かな時間が流れていた。
やがて放課後のチャイムが鳴って。
俺たちは教室に戻って、
鞄を取りに行く。
ついでに、
昼を一緒に食ってたあいつにも謝って。
……中庭に置いてきてもうたし。
「いやマジで空気読んだ俺えらくね?」
とかなんとか言われながら、
軽く頭を下げておいた。
それから。
ないこと一緒に学校を出て、
いつもの帰り道を
いつも通り手を繋いで並んで歩く。
なんやろな。
いつもと同じはずの道やのに、
少しだけ違って見えた。
そんな、
慌ただしい一日が終わった。
次の日の朝。
制服に着替えて、
ブレザーに袖を通そうと
クローゼットに目を移したところで、
ふと気づく。
「……ないこに貸しっぱや」
昨日のまま、
まだ返してもらっていない。
とはいえ、
朝はまだ少し寒い。
どうしようかと考えたところで、
ふと思い出した。
そういえば、
今はまだ制服の移行期間やったはず。
うちの学校は、
新制服と旧制服のどっちを着ても
ええことになっとる。
たしか、
俺らの学年もまだ大丈夫やったはずや。
俺はクローゼットの隅にある引き出しを開けて、
奥にしまってあった制服を引っ張り出す。
親戚が、
「もういらんから」ってくれた、
うちの学校の旧制服。
ブレザーじゃなくて、
黒い学ラン。
「……意外とええんちゃう?」
袖を通して、
鏡の前でひとこと呟いた。
「……あ」
そこで、俺は
以前ないこが言っていたことが
頭をよぎった。
ガラッと引き出しを開ける。
そこにあるものを見つめて。
「……するかぁ~……」
小さく決心した。
校門をくぐると、
朝の校庭はいつも通り騒がしかった。
「……寒っ」
学ランの襟を少しだけ立てながら、
昇降口へ向かう。
途中で何人かに
ちらっと見られた気もするが、
まあ気のせいやろ。
……気のせいであってくれ。
こっちも初の試みなんや。
靴を履き替えて、
教室の扉を開ける。
「はよ」
適当に挨拶をしながら中に入ると、
いつもの席のあたりに
ないこの姿が見えた。
黒猫とカラフルなヘアピン。
黒色のチョーカー。
ダボッとしたカーディガン。
昨日と何一つ変わらない姿で
机に頬杖をついて、
ぼんやり窓の外を見ている。
「ないこ」
声をかけると、
ないこがゆっくり顔を上げた。
「……まろ?」
一瞬。
ないこの動きが、
ぴたりと止まる。
じっと、
こっちを見たまま。
「……」
「……」
ないこの視線が、
俺の顔のあたりで止まっていた。
正確には眼帯。
「……え」
小さく声が漏れる。
それから、
ぱちぱちと瞬きをして。
もう一度、
俺を見た。
「ま、まろ……?」
「なんや」
「それ……」
ないこが指さす。
「……眼帯」
俺は肩をすくめた。
「似合うって言うてたやろ」
一瞬フリーズして。
すぐにないこの顔が、
一気に赤くなる。
「えっ、いや、あれは……!」
慌てた声を出しながら、
視線を泳がせる。
「ほんとにやるとは思わないじゃん……!」
「えぇ……冗談やったん?」
鞄を机に置いて、
椅子を引く。
「どう、似合っとる?」
にやっと笑って
そう聞くと。
ないこは、
ちらりとこっちを見て。
ぱっと視線を逸らした。
耳まで赤いから、
隠しとるつもりなんやろうけど、
バレとるで?
そう思っていると
小さく、
小さく呟いた。
「……似合ってる」
そして、
さらに小さな声で。
「……かっこいいよ」
ぽつりと呟いた声は、
俺にはちゃんと聞こえた。
「なぁに?もう一回言うて?」
少し身を乗り出してからかうように聞くと、
ないこがばっと顔を上げる。
「言わない!」
昨日あんなに泣いていたとは思えんくらい、
むきになった声。
そのとき。
「なぁ、いふ」
後ろの席のやつが、
ぽんっと肩を叩いた。
「ん?」
振り向く。
そいつは、
俺の顔を見るなり固まった。
「……は?」
それから、
じっと俺を見る。
もう一回見る。
「……え?」
そして、
声を上げた。
「お前何だそれ!!」
そのひとことで。
教室中の視線が、
一斉にこっちに集まる。
「え、何?」
「どうした?」
「……あ」
数人が俺を見て、
同じように固まる。
「いふ、どうしたんその目!?」
「怪我!?」
「いや違うでしょそれ!」
「厨二病だ!!」
一気に
教室がざわつき始めた。
「うっさいわ」
めんどくさそうに言うと、
誰かが言う。
「てかお前、今日学ランじゃん!」
「あー、ほんまや」
「なにそれ、コスプレ?」
好き勝手言われる。
その横で。
ないこは、
まだ机に顔を伏せていた。
「……ないこ?」
声をかけると、
ゆっくり顔を上げる。
まだ少し赤い。
「……ごめん」
「なんでや」
「俺が言ったから……」
消え入りそうな声でそう言う。
「眼帯似合いそうって……」
俺は、
少しだけ笑った。
「ええやん」
そう言って、
ないこの頭を軽くぽんっと叩く。
「それがお前の気持ちやから」
ないこは、
一瞬目を見開いて。
それから、
少しだけ嬉しそうに笑った。
「え、あのさ」
ふと、
後ろの方から誰かが声を上げる。
「掘り起こすようで悪いんだけどさ」
少し遠慮がちな声で、
そいつは続けた。
「内藤、大丈夫だった?昨日」
教室の空気が、
一瞬だけ静かになる。
何人かが、
ちらっとないこの方を見た。
やっぱすぐに広まったか……。
あと、ちゃんとおるやん。
ないこを〝ないこ〟として
扱ってくれとるやつ。
生きるのに一生懸命で、
気づいとらんかっただけやない?
ないこは、
少しだけ驚いた顔をしてから。
「……あ」
小さく声を漏らした。
それから、
苦笑いを浮かべる。
「うん、大丈夫」
そう言って、
軽く頭をかく。
「ちょっとびっくりしただけ」
「いやいや、びっくりで済むか?」
別のやつが言う。
「普通にやばかっただろ昨日」
「てか、あの先輩なに考えてんだよ」
「マジで最悪だったよな」
口々にそんな声が上がる。
ないこは、
少し困ったように笑いながら
「でももう平気だから」
そう言って、
軽く手を振った。
「まろが助けてくれたし」
その瞬間。
何人かの視線が、
一斉に俺に集まる。
「……お前?」
「いふが?」
「お前そんなキャラだったっけ」
好き勝手言われる。
「え、ひどくね?お前ら」
適当に返すと、
横でないこが小さく笑った。
その笑い方が、
昨日よりずっと自然で。
俺は、
少しだけ安心する。
そのとき。
「……てかさ」
誰かがぽつりと言った。
「お前ら、なんか距離近くね?」
「……」
「……」
教室の視線が、
また一斉に集まる。
ないこが、
ぱっと俺から少しだけ距離を取った。
「ち、違うから!」
慌てて言う。
「え、何が?」
「……!」
周りのやつらが
にやにやし始める。
俺は小さくため息をついて。
「朝からうるさすぎん?」
そう言いながら、
机に肘をついた。
でも、もし。
この幼馴染という関係が、
いつか変わるのなら。
変わる前も、
変わってからも。
俺はきっと、
こいつに伝え続けるんやろう。
溢れんばかりの、この想いを。
伝えられる限り、ずっと。
クラスのやつらに
からかわれ続けているないこは、
まだ顔を真っ赤にしたまま。
そんなないこを見て、
俺は何気なく口を開いた。
「ないこ、好きやで」
瞬時に
「い、今じゃなくてもよくない!?」
ないこが、
焦った声を上げる。
するとすぐに、
「やっぱそうなんじゃん!」
「別れて正解だったわ、まじで」
「もう付き合え!」
クラス中から、
好き勝手な声が飛び交った。
教室は一気に
ざわめきに包まれる。
その中心で。
ないこは、
耳まで真っ赤にして。
「まろのばか……」
そう小さく呟く。
けど、
その顔は。
どこか嬉しそうに
笑っていた。
そんなないこを見て、
俺はもう一度思ったんよ。
どうか。
どうか君に。
俺からの、
溢れんばかりの愛が。
ちゃんと届きますように。
——ってな。
全く話が変わってしまうのですが、
雑談部屋作ったら、お話してくれますか……?
コメント
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もうほんとに好きの気持ちが終始止まらなかったよー!!> ̫<ෆ なんでこんな神作を生み出せるんだろっ、さーちゃんの頭の中を覗いてみたいものですな…✨✨ 卒アルパロのの桃さんって可愛いものが好き!!無邪気!!ってイメージがあったんだけど、可愛いものが好きの裏にそんな思いがあるなんて想像なかったよ、!! 青さんの言葉がすごく刺さる> < まさか眼帯青さんに繋がるなんて思いもしなかった…!!