これはカルドが任務から帰って来る前の出来事。
カルドが任務に出かけた後、オーターはいつも以上に仕事に専念していた。
するとそこへ、
コンコン。
と控えめにドアをノックする音がした。
「どうぞ。」
オーターが書類から顔を上げ声をかけるとガチャッとドアが開き、ヒョコッと顔を出したのは、以前は使役魔物として隷属させられていたが、今はオーターの計らいで魔法局の職員として働いている008だった。
「どうしました?」
「えっと、あの・・・。」
オーターの問いかけに、008は何か言いたげに口を開けたり閉じたり、小さな手をもじもじさせながらオーターを見つめる。
「何か用事があって来たのでしょう?怒りませんから早く言いなさい。」
再度オーターが怖がらせないように優しく問いかけると、008がやっと口を開いた。
「は、はい。あのオーター様、いい加減に休憩をとられてはいかがでしょうか。」
「・・・はい?」
「さ、最近のオーター様は、その、いつも以上に無理して仕事をしているように感じたので倒れてしまったらどうしようかと心配で。だからあの。」
一気にそこまで話す008をオーターは驚きで目を見開いたが、すぐに表情を戻し彼に向かってこう返す。
「貴方に心配される程、私はヤワではありません。自分の限界くらい自分で分かります。」
「あ、そうですよね。すみません。私などが余計なお世話でしたね。」
シュンと落ち込む008にオーターは、はぁと小さなため息をついた。
ビクッと008が体を震わせる。
「そうビクビクしないで下さい。何もそこまで言ってないでしょう。・・・お気遣いありがとうございます。これから休憩をとるので、コーヒーをお願いできますか?」
オーターがそう言うと008はパアアと目を輝かせながら、
「はい!」
と元気よく返事をしてペコリと頭を下げてからバタンとドアを閉めて執務室を出て行った。
「・・・・・・・・。」
(彼に気を使わせてしまうとは。)
「いけませんね。せっかくこうならないように、あの人がこれを置いていったというのに。」
そう言いながらオーターは左腕の袖をまくり、左手首に結ばれたカルドのリボンを見つめながら、そっとリボンをなぞり呟く。
「カルド。まだ貴方が任務に出て数週間だというのに、早く貴方に会いたくてたまりません。・・・・早く帰って来て下さい。」
オーターはそう呟きながら、リボンに口付けを落とした。
ーそこには、常に冷静沈着な砂の神覚者の姿はなく、ただ愛しい恋人の帰りを待つ者の姿があったのだった。
そしてその姿をリボンだけが知っていた。
コメント
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この姿をカルドさんが見たらすごい喜ぶだろうなー!可愛い🫶最高すぎです