大演説して疲れたのか、それからすぐに彼女は眠ってしまった。遊園地に着いたので起こしたが起きない。
「映山紅さん、起きてくれないと困るんだけど」
うーんと言いながらいきなりキスされた。
「今のは?」
「ごめんなさいのキス。しゃぶった方がよかった?」
まだ寝ぼけていて、僕を陸と間違えているらしい。
これが僕のファーストキス? 彼女も記憶に残ってないだろうし、今のはノーカウントにさせてもらうことに決めた。
遊園地では絶叫マシンにも乗ったし、観覧車にも乗った。
観覧車ではてっぺんを過ぎた辺りで彼女に責められた。
「恋人同士で観覧車に乗るのはキスするためではないのか?」
遊園地に行くことを決めたとき、観覧車にも乗りたいと言われて、正直僕もそれは考えた。でも彼女の不用意な発言を聞いたせいで、陸の汚いものをしゃぶった唇なんだなと思えて、その気になれなくなってしまったのだ。
同じバスに乗り合わせていた人たちだろう。遊園地のあちこちから、
「最強彼女さんが来た!」
という声が聞こえてきた。
「どうしてボクたちのひそひそ話をみんな知ってるんだ?」
と彼女は不思議そうに頭をひねっていた。
それはね、全然ひそひそ話ではなかったからだよ。
僕は口には出さず、遠い目で彼女に微笑んでいた。
知らない人たちに最強彼女さんと呼ばれてまんざらでもなさそうな彼女に、帰りのバスの中で聞かれた。
「今日のデート、ボクは楽しかったけど、夏梅にはそうでもなかったか?」
「どうしてそう思ったの?」
「あんまり笑わないし……」
「いや、よかったよ」
「そっか。何が一番よかった?」
「君のワンピースかな」
「冗談だろ」
「いや、本当に外国のお姫様みたいでさ」
彼女の顔がみるみるトマトみたいに真っ赤になった。
「あわわわわ……」
あわあわ言う人を初めて見た。リョータだって彼女を女神と呼んでいた。余計なことを言わなければ、冗談抜きで本当にお姫様みたいなんだけどな――