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カツ、カツ、カツ、カツ、カツ__________
静かな楽屋の中で、隣から貧乏揺すりが聞こえた。その後は大きなため息。ここはマネージャーの私がびしっと言わねば。そう痺れを切らした私は、隣の彼女に声をかけることにした。
「こっちゃん。ここで相手のことばっか考えてたら思うツボだよ⋯。今私達にできることは返信を待つことしかないから、ね?」
隣りに座る幼馴染は、何度もスマホを置いては取ってを繰り返していた。空いた左手の親指の爪を噛みながら、今度は思い切り机にスマホを叩きつける。
「あーもう!なんなのよ!!この谺が名前を貸してやるって言ってんのに!!普通なら即答でしょーが!調子乗ってんじゃないわよ、ちょっと曲がバズったからって⋯!!!!アスナだってそう思うでしょ?!」
「こっちゃん落ち着いて。今は大事な時期だから慎重になってるんだよ、きっと。」
___「日本最愛の高校生・こだまひめ」と謳われる、この姫守谺こそ、私の幼馴染である。でも今、隣に座っているのはそんな肩書きとは真逆の谺である。
始まりは、安藤えんまというソロアーティストが出した新曲がきっかけだった。別に芸能界に影響を及ぼす程の者でもないのだが、先日の新曲は世間のウケが良かったらしい。そこで、何が何でも流行りに乗りたがる谺が「こいつとコラボする!」と聞かないから渋々了承したが___その結果がこれだ。谺にとっちゃ相手はただの小物だが⋯相手は一筋縄ではいかなかったようだ。谺が送ったメールをことごとく無視されて、谺は更にアツくなっちゃってる。
「慎重⋯?谺に声を掛けてもらったのに冷静に判断してるっていうの?⋯ふん。」
谺はバツが悪そうにスマホを化粧台に伏せた。その姿が子供っぽくて、私が何も言えなくなった頃だった。
スマホから通知音がなったのは。谺はさっき伏せたばかりのスマホを勢いよく取って確認する。
「⋯⋯⋯⋯は?」
何も出来ず谺を見ていると、谺の表情がみるみる内に歪んでいく。状況を見るに、相手からの返信が来たが了承されなかった⋯というところだろう。怒りが最頂点に達した谺は舌打ちをしてスマホを楽屋の扉へ投げつけた。
「あいたっ」
丁度扉を開けたのはキラちゃんだった。私は慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫?キラちゃん・・・・」
顔に手を当ててうずくまるキラちゃんを支えて起こす。どうやら顎に当たったみたいだ。鼻や目じゃなかったのが不幸中の幸いだ___アイドルが顔に負う怪我ほど恐ろしいものはないのだから。キラちゃんは谺が所属するアイドルグループ「K³(ケーキューブ)」のメンバーの1人だ。顔を押さえていたキラちゃんはゆっくりと立ち上がって、手を離すとともに開けた視界で状況を掴もうとしていた。
「こ、谺⋯?なに⋯。」
グループの中でもクール担当のキラちゃんの整った顔が引き攣る。キラちゃんは足元に落ちた電源が入ったままの谺のスマホを拾い上げた。私は谺に目を向ける。
「こっちゃん⋯悪気はないかも知れないけど、もう少しズレてたら大変だったよ。」
「何よ。」
「もう、ごめんなさいでしょ。こっちゃんも高校生なんだから⋯。」
「⋯悪かったわよ。」
入る前にノックしなかったくせに、とか。てか私よりブスのくせに、とか。うだうだ文句を言いながら、谺は再び化粧台の椅子に私達に背を向けて座った。
「キラちゃん、大丈夫?」
私は谺からキラちゃんに視線を移し、再び心配する。キラちゃんはスマホを凝視していた。私も自然とキラちゃんと肩を並べ画面を覗き込んだ。
「あっ⋯」
To: Himemori Kodama
Cc:
From: ennma@andoh.music.jp
Subject: コラボについて
ご遠慮します。