🍍と🟦メインの🍍愛され
寂しいだとか、甘えたいだとか。きっと傍から見た俺のイメージにはあまりに似つかわないだろうが、人間であるなら湧き出る感情であり、欲だ。
特に今日みたいな、治療に振り回されて大型や中型に何件もいって、みたいな忙しかった日は、こんな感傷的な気持ちになりやすい。
けど俺は他の構成員みたく子供の無邪気さみたいな可愛げなんて無いし、そんなキャラでも甘え上手でもないし、そもそも照れくさいしで。感傷的になっても一人で甘えたい気持ちを押しこめて耐えたり、作業して気を紛らわせることが多かった。
今回も、そうするつもりだったのだけれど。
「いつもありがとねー」
大型終わりにプリズンへの迎えを終えて皆でアジトへ帰ってきた時、不意にボスにそう言われて頭を撫でられて。途端に、感じたことのない甘ったるい感情に脳を支配された。
今が甘えたいなどという欲が無い時だったなら、手を振り落として面白おかしく突っ込んだり出来たんだけど。今まで押し込めていた本音が、ぱちんと弾けたような音を立てた。
「もっと撫でてほしい」
きっと冷静ではなかったと思う。俺の頭に手を置いたまま面食らった顔をするボスと、賑やかだった話し声が止み俺へと全集中する視線。そこで漸く、自分がとんでもない事を言ったのだと自覚した。
「……………っご、ごめん忘、れて」
「へぇ〜〜〜???」
苦し紛れなのは理解しつつも忘れるよう言い、熱くなる顔を誤魔化すように両手を大袈裟に振るう。
ポカンとしていたらっだぁはその顔をニヤニヤと歪め始めた。
ボスだけじゃなくて他メンバーの前で口を滑らせるなんて、失態どころの話では無い。消えてしまいたいと思えるくらいの羞恥に焦り、この場から逃げるなんて初歩的な事すら忘れてただただ立ち尽くした。
「お前甘えるの下手だなぁ〜〜!!?」
「っちょ、」
手を引かれボスの腕に包まれる。がしがしと俺の頭を撫でる彼の声は心無しか嬉しそうにも聞こえた。
「ぐちーつほんとは甘えたかったんだーー??」
「素直に言えばいいのに!!」
「水臭いわ〜」
「顔赤いですよー?」
「もっと頼って欲しいなぁ」
揶揄うボスに便乗するように、続々とみんなが抱きついてきて囲まれる。パニックで文句も何も言えなかった。口を開けたとて、情けない声しか出ない気がするけど。
「〜〜〜〜っ」
こういう時に俯いても表情を隠せない、自身の身長を嘆きながら顔を背けた。全方位ホールドされてるから背けたとて意味は無いのだが。
「ガチ照れまじか」
「結構かわいいところあるんですねぐちつぼさん」
「これがギャップ萌えか〜」
女子軍も抱きついてきて、ついにはゆぐどらしる全員に囲まれてしまった。
ふと零してしまっただけの言葉に、ここまで本気で向き合ってくれるのは嬉しいけれど、照れ臭さの方が勝ってしまって心の底から喜べない。
今すぐにでも逃げてしまいたいが、ボスに両腕ごとがっちり抱きしめられていて叶いそうになかった。体格差でいえば俺の方が上なのにらっだぁの方が力強いなんてどういうバグだよ。いや、体に力が入らないだけか?もう分かんない。
「…まじでもういい、もう、いい!!」
説得力なんてないだろうが、とりあえず切実にお願いしておいた。甘えたいなんて思っていたのは事実だから嬉しいのは嬉しいのだが、いざこの状況になるといたたまれないったらありゃしない。
はあ、と誤魔化しのため息をついて、ボスの肩口に顔を埋めた。
「ほんとにいつもありがとねー」
「……この雰囲気まじでやだわー…」
「甘んじろ」
らっだぁは最後に優しく頭を撫でて、俺を捕まえていた両腕を離し解放した。それに続いて、皆も1歩後ろへと下がる。それに少し寂しいなんて感じてしまうのだからいよいよ終わりだ。
依然高い体温を下げるように、トレーナーの胸元を掴んでぱたぱたと仰いだ。
「なんか長男気質だよな、お前。」
「……なにそれ」
「なんていうの。大人ぶった子供、って感じ?」
全く考えた事は無かったが、なんだか確信を突かれたようなその言葉に少し、目を見張った。
医療面などで彼らの保護者的立ち位置に居ることも、共にはっちゃけてボスに窘められる立場にいることもある、どっちつかずだった俺にはぴったりな言葉な気がした。
子供、なんて言われているのだから嬉しくはないけれど。
「えーでも、ぐちーつが甘えてくれて安心したなぁ」
「……なんで?」
「なんか、頼ってくれないなって思ってたから」
「分かる!もっと甘えろよお前!ボス不安だったわ!」
「いやいや!恥ずいわ!現在進行形で顔熱いわ!」
半ば自棄の俺が大声で反論するとひと笑いが起きる。漸くいつもの調子に戻ってきて安堵していたのに、俺の心の内など読めないボスはそのまま話題を戻してしまった。
「ほら、せっかくだし甘えてよ。なんかないの?」
「いやもう充分!お腹いっぱい!!!」
「1回甘えられたから2回目もいけますよ」
「俺らファイナルに甘えてばっかだからその分甘えて貰わんと流石に割に合わんわ」
「私達なんでもしますよー!」
「だー!!!まじでやめろ!!!!」
「ふはははwww」
彼らは曇りない良心を俺に向けているだけ。もちろん多少は揶揄いの意味もあるだろうけれど、その良心には、言葉通りに一切の悪気がないだけにタチが悪い。
この世の全てから顔を覆い隠してしまいたくて、咄嗟にしゃがみこんで膝に顔を突っ伏した。
「…………………頭、撫でて…ほしい」
「OKえらい!!」
「ないす甘えー!!」
「っわ!ちょっおい!!」
全員に一斉に突っ込んでこられたようでバランスを崩して床に叩きつけられた。がんと軽く背中を打ち、隠したばかりの顔を晒す。天を仰いでいる筈なのに、全員に顔を覗き込まれていて天井のひとつも見えやしなかった。
「顔真っ赤ー」
「……………うざすぎ…」
誰よりも煽り口調で語りかけてくるボスは、その声色に反して頭を撫でる手つきは誰よりも優しい。悪態づきながらも、一旦はこの照れ臭さと嬉しさを享受することにしようと、素直に体の力を抜いた。
「…撫でてるというよりはおもちゃにされてる気がするんだけど」
「きのせいきのせい」
俺の言葉通りに頭を撫でているボスとしすこさん以外は俺の髪の毛をいじったり頬を触ったりつねったりと十中八九面白がっているが、まあ良しとしよう。正直顔が熱くて仕方ないので、冷たい掌に触れられるのは体温が下がって丁度いいし気持ちがいい。
勢いよく倒れたせいか脊椎が痛くて上体を起こしたら、冷たい掌が離れていってしまって少しだけ名残惜しかった。
「今まで頑張った分ね」
抑揚の無い唯一無二のその声ほど、安心する声はないだろう。頭を撫でる手は止めないまま抱きしめられてしまっては、もう抵抗する意思すら湧かない。別に辛くもなんともなくて、多忙を楽しみながら生きていた筈なのだが、こうも優しく接せられるとなんだか泣きたくなってきてしまう。
大人しく抱きしめられている俺を優しげに見ている皆から目をそらすようにらっだぁの肩に顔を埋めて、背中に手を回した。
「…………ごめん、もうちょっとだけ、このままがいい」
「微妙に素直じゃない。減点」
「調子乗んなよ」
「はははwwww」
なんだか、このギャングには調子を狂わせられてばっかりだ。悪態は口先ばかりで、体は逃げる意思すら彼らに奪われてしまった。
『いつもありがとう!』
きっと顔を上げれば、眩しい程に優しい顔をした面々が眼前に広がるのだろう。見たいけど、見たくない。もう少し甘えていたい。もう少し、抱きしめられていたい。顔をあげてしまえば、この幸せな時間が終わってしまいそうだ。
目を瞑ったまま、この状況を享受していると暖かい体温と雰囲気に眠気を誘われる。まもなく、そのまま意識を手放した。
「あら?寝ちゃった?」
肩にかかる重みが増し、返事の変わりに規則正しい呼吸音が返ってきたところを考えるに、甘え下手の個人医は寝てしまったらしい。身長が高いだけに少々重い体を抱え、抱きしめたままソファーへと腰掛けた。
「うん、熟睡だね」
「疲れてたのかな」
ゆぐどらしるはみんな頑張り屋で、元気で、賢くて、自慢の子供達だ。みんな自身の功績を自慢げに教えに来て俺に誉めてもらおうとしたりと本当に我が子のようで、名前の通りゆるい雰囲気のギャングだと思う。
だけど個人医のぐちつぼはいつも1歩引いた場所から見守っていて、大型終わりもいつの間にかどこかへ消えていたりと褒める時間すらくれない事が多かった。いざ褒めてものらりくらりと躱してしまうのだろうけど。
はっちゃけがちな子供達の医療面を補ってくれていたのはぐちつぼだったのだから、その面を含めたらメンバー中で一番の苦労者の筈だ。きっと気疲れも多かっただろうに、俺はぐちつぼが本気で弱音を吐く瞬間も、誰かに甘えているところも見たことがない。
だから、不意に出た言葉であろうともぐちつぼがはっきりと欲を出して甘えてくれたことは、どんな大型成功よりも嬉しかったし安心した。
「こいつ甘えられたんだ」
「…ねー、びっくりしちゃった」
自らの意思ではなく、あくまで白市民的考えが仇となり黒になってしまった彼に、ギャングのボスという真っ黒な立場である俺はあまり信頼されていないのではと密かに危惧していたから。
ぐちつぼの零した言葉に即座に反応して、からかいながらも甘やかしにいった子供たちも、きっと俺と同じように思っていたことだろう。
「…たまには犯罪サボってみんなで寝ようか」
「えー!さんせーい!!」
「お泊まり会だー!」
「ファイナル起きたら寝起きのまま甘やかしまくって混乱させてやろうぜ」
「いいねぇw」
彼が甘えるという勇気を踏み出してくれたお陰で、俺たちも甘えさせるという1歩を進める。
寝起きの個人医を1番動揺させられた人が勝ち、というゲームの開催について話している子供たちを見ながら、肩口の頭をゆっくりと撫でた。
朝一番から振り回されるであろう彼を哀れに思いながらも、何かが変わったであろう明日へ想いを馳せ、目を閉じた。
あの日から、しどろもどろになりながらもスキンシップを要求している個人医の姿が、アジトで度々目撃されているらしい。
[完]
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うわぁぁぁ てぇてぇ〜