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#6 未来に先行する後悔
私が初めて時間移動装置を見たのは、父の葬儀の翌日だった。地下室の埃を払い、金属の輪に触れた瞬間、父がなぜ生涯を「取り返しのつかない選択」という言葉で締めくくっていたのか、少しだけ分かった気がした。
装置は過去へ戻れる。ただし一度きり。条件は単純で残酷だ。過去で誰かを殺せば、その因果は現在に必ず歪みとして返ってくる。親殺しのパラドックス──父はそれを理論ではなく、傷として知っていた。
私は戻った。父が若く、まだ私が生まれる前の年へ。雨上がりの夕方、川沿いで彼は図面を抱えて立っていた。私に気づいた彼は、見知らぬ青年に微笑み、コーヒーを奢ってくれた。善良で、臆病で、そして未来を信じていた。
私は銃を持っていた。引き金を引けば、父は死ぬ。そうすれば私は生まれない。だが、父が生涯抱えた後悔も、母の涙も、すべて消えるはずだった。
躊躇していると、彼は私の手の震えに気づき、静かに言った。「人は選べる。間違いも、赦しも」。そして肩を叩き、去り際に振り返って、未来へ向けるように一言だけ付け足した。「約束だ、君は生きて帰るんだピーポー。」
その瞬間、胸の奥で何かが結び直された。私は撃たなかった。代わりに、装置の制御核を破壊した。戻れないように。誰も二度と、この選択を迫られないように。
現在に戻ると、父の葬儀は記憶どおりだった。ただ一つ違ったのは、父の遺品の中に、私の知らない手紙があったことだ。そこには「約束は守った」とだけ書かれていた。
親殺しのパラドックスは、殺さない選択でも牙を剥く。父は未来を知り、装置を封じ、早く死んだ。だがその代わりに、私は生きている。約束は、因果よりも強かった。