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篠原琴音 成瀬澪との対談にて
「ちょっと待ってください、いきなりそんなことを言われても、困ります。きちんと状況を説明してください。」
「以前にお前に見せたことがあるあの例の暴走映像、あれが消失した。お前にこの意味がわかるか?」
「あの映像を管理しているコンピュータは、確かこのインフラ本部が制御している超高速単独型システム、【薊】「アザミ」に保存されていた。そして薊の周囲には、直接薊に干渉できないように多数のシールドと自動感知式のレーザー溶接機が完備されている。つまり、直接的に薊に接触することが不可能。ということは、まさか!?」
「そう、そのまさか、薊に対する外部からの攻撃及び侵略、即ちハッキングだ。」
「そんなの、あり得ないです。組織インフラの職員以外に薊をハッキングできるハッカーなんて、いるわけがありません!」
「そう、私もそのように考えた。少しこれを見てくれ。」
成瀬さんのパソコンには何か心電図のような妙な波長が記録データに残っていた。
「これは?」
「まだ詳しくはわからないが、恐らく妨害電流の類だ。それも、かなり強力。そこで私はこう考えている。何者かがこの妨害電流を流して、薊のシステムを一時的にダウンさせ、その間にデータを盗んだと。あくまでもこれは仮説だが、この説は濃厚だと思う。私の勘には定評があるからな。」
「なるほど、確かにその仮説は濃厚かもしれませんね。」
「貴重なデータは見えざる敵に渡ってしまった。その中に例の暴走映像も含まれている。もし仮にその映像が国家に流出したら、お前はどうなると思う?」
瞬間、背筋がパキパキと凍るような感覚がした。成瀬さんは自分の手を銃に見立てて、銃口の代わりの人差し指を私の額に軽く当てて、そして
「お前は間違いなく、消されるだろう。」
成瀬さんは私の耳元で囁くように言った。
「だからこそ、お前が国家の裏側の人間に知られているインフラ本部にいると不都合であるということだ。それ故の追放、理解してくれるな?」
「はい。」
「でも、お前も裏国家から逃げるだけではムカつくだろう?だから、そのための提案を一つしようと思ってな。
その提案とはズバリ、お前が映像データを盗んだ奴らを捕まえてくる、というものだ。どうだ、やってくれるか?」
このまま待っていても国家が黙っているわけがない。映像データを発見次第、危険人物と見做し、すぐさま私を殺しにくる。だったらこっちだってやってやる。
「その提案、受けさせてください。」
「お前ならそういうと思っていたよ、琴音。
なら早速準備だ。持ってきてもらった武器は、お前の指紋を消してから、お前に返す。そしてお前の指紋も変える。そうすれば取り敢えず、尻尾を捕まえられることはまずない。もう、お前の住んでいた家のものも全て指紋を変更した。」
「ちょっと仕事早過ぎませんか?」
「まぁ、お前を国家に消されるわけにもいかないんだな。スピードは大切だ。」
「っていうか、指紋を他の指紋に変更する技術なんてものが組織インフラにあったんですね。」
「最近の研究で出来上がったものだ。使い所がなくてちょうど困っていたところだったよ。」
「それに今気づきましたけど、私って今からどこに向かえばいいんですか?当然、今の家は色々な人に知られているので使えませんよね?」
「ああ、そのことなんだが、お前は新しい場所に移住してもらう。大丈夫、一人ではない。数人、訳ありのメンバーたちが居座っている。そいつらは敵ではないし、逆にお前よりも逞しいまであるかもしれない。それにそこなら、安全にインフラ本部とも連絡が取れるからな。
不幸中の幸いにも、映像データには私が万一の時のために厳重なロックをかけておいた、早々破れるものではない。そのロックの厚さに関しては、あの薊をも凌駕するほどだからな。」
「命かけてますね。」
「こんな奴のために必死になっている私が情けなく思えてくるよ。」
成瀬さんは微笑した。
「なんですか、その言い方は!?」
たった今私の成瀬さんに対する苦手意識が、新たな嫌悪感に生まれ変わった。
「あとお前の制服はデルタ生のものを着てもらう。恐らく時々本部に来てもらうことになるだろうからな。」
「移動時に備えての変装ってことですね。」
「さすがは元アルファ生、御名答。というわけで、お前に伝えることはもうなくなった。
かなりの長期戦任務だが、大丈夫か?」
「ええ、任しといてください。必ずこの世界の平和はこの私、篠原琴音が守って見せます。
なんたって、私、元アルファ生ですから、ね?」
同時に、私は成瀬さんにニヤリとした笑みを向け、その部屋をあとにするのであった。
成瀬澪 自室にて
琴音を、本部から追放した。任務はこなせるかどうか怪しいところだが、期待するしかあるまい。私はその間、インフラの指揮官を務めなくては。
私は自室の窓から夜空を見上げる。
「里親離れってやつだな。」
移住先、プロテクテッド•インフラストラクチャー、あそこは非常識の聖地、考え方を根本的に覆される場所、琴音はそこでより学びを得るだろう。
「琴音、お前とあいつは、少し似ている。
クソガキスキルはまだ、あいつの方が上だがな。」
私は次の任務資料制作に取り掛かるのであった。
【Weirdos are gathered in one place.】
=【変わり者は一つの場所に集約される】