TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

永遠に届く声

一覧ページ

「永遠に届く声」のメインビジュアル

永遠に届く声

16 - sechzehn .

♥

36

2025年05月11日

シェアするシェアする
報告する

王宮の廊下。昼下がり。季節はずれの風が吹き抜け、カーテンが揺れる。


「……陛下。」

「やあ、王室教師殿。」

いつものように交わす挨拶。

けれど今日は、ヴィクトールの姿を見るだけで、ハイネの胸がざわめいた。


彼は言葉なく歩き、ヴィクトールを自室に誘う。

何も言わずとも、ヴィクトールはそれに従った。


扉を閉め、ほんの一瞬の沈黙。


「……何か、話が?」


そう訊かれて、ハイネは無言のまま、窓の外を見た。

空は晴れていた。まるで何事もないかのように。


「貴方は、どうして……そんなに平然でいられるんですか。」

声は低く、震えていた。


ヴィクトールの目が、わずかに揺れる。だが、すぐにその動揺を飲み込んだ。


「私は、国王だ。」


その一言が、決定的だった。


「国王……ですか」

ハイネは笑った。だがその笑みは、どこまでも痛々しかった。


「私が告げた言葉も、あの夜のすべても……貴方にとっては、国王としての、それ以上でも以下でもないことだったのですか」


「……違う。」


ヴィクトールの声が、初めて揺れた。


「……だが、私は国王で、君は王子たちに仕える王室教師だ。

感情で職責を踏み越えては――いけない」


「そんなことは……最初から分かっています」

ハイネは一歩、ヴィクトールに近づいた。


「分かっています。でも……それでも、私は――

あの夜を、夢にしてしまうには、惜しすぎた

……自分で、夢だ、とケリをつけたはずなのに、本当に、愚かです。」


その言葉に、ヴィクトールは眉を寄せて、目を逸らした。


「……君だけが、苦しいわけではない」

「……ヴィクトール」

「私も、あの夜から、ずっと……」


声が詰まる。

どちらからともなく、空気が震える。


「……ずっと、君の名前を、呼びたくてたまらないんだ。」


ようやくこぼれた言葉に、ハイネは静かに目を閉じた。

次の瞬間には、その体を、そっと抱きしめていた。


「……国王でなくても、君を抱きしめていいのなら」


「……ほんの、ひとときだけなら」


その瞬間だけは、何もかもを忘れて。

王でも教師でもなく、ただ、名前を呼び合うだけの――ふたり。

この作品はいかがでしたか?

36

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚