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永遠に届く声

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永遠に届く声

17 - siebzehn .

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2025年05月11日

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王宮の回廊。誰もいない深夜の静けさ。

月明かりが床に落ちて、薄い影が揺れていた。


「……王室教師殿」


背後から声をかけられ、ハイネは足を止めた。

振り返ると、ヴィクトールが一人、外套を羽織って立っている。


「こんな時間に、お一人で?」


「考え事をしていて、眠れなくてな」


「……そうですか」

ハイネは軽く会釈し、そのまま立ち去ろうとする。

だが――


「……ハイネ」


その声に、動きが止まる。

まるで、糸で引かれたように、背中が震えた。


「……」

しばしの沈黙のあと、ハイネもまた、静かに応じる。


「……ヴィクトール」


たったそれだけ。

それだけなのに、呼吸も鼓動もすべて、変わってしまう。


「君は、本当に変わらないな。どこまでも律儀で、距離を守って……」

「……貴方が、“陛下”だからです」

「そうだな」


でも、そう答えながら、

ヴィクトールの足は少しずつ、彼に近づいていく。


「けれど、今だけは……君に“ハイネ”と呼ばれたくてたまらなかった」


ハイネは黙っていた。

けれど、その目は――どこまでも、悲しくて優しかった。


「それを許した私は、教師失格ですか?」

「……君が教師失格なら、私はとっくに王失格だ」


静かに笑い合う。

苦しさと愛しさの混じる、淡い夜の匂いがした。


それ以上の言葉は、なかった。

けれど名前を呼び合っただけで、二人には、すべてが伝わっていた。


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