テラーノベル
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キャメロンがホワイトボードをガラガラと引っ張りながら持ってくる。
「ジャンプ・スピン・ステップご丁寧に全部書いたよ。どうぞ。」
つらつらと並んでいる構成を見ていると、あることに気がついた。
「え!?ダブルアクセルは!?!?!?」
そう、ダブルアクセルが構成に入っていなかったのだ。
「いや、ルール違反だよ」
キャメロンに冷静に諭されホワイトボードに貼られているルール表に視線を移す。
「あ」
よくよく見れば書いていた。
「…それと、ダブルアクセルはしばらく禁止。」
「は!?なんで!?」
「身体への負担が大きすぎるから。下手すると身体壊して一生スケートできなくなるよ。」
りぃちょが騒ぎすぎたせいか、軽く脅されてしまった。
「まあ練習でやってからいじけなよ。気にいると思うよ。」
練習中
(この構成たのし〜!!!!)
音楽に乗って軽々と最後まで滑って見せた。
「何!?なんで!?なんでこんな楽しいの!?おれが苦手なスピン入ってんのになんで!?!?」
通しが終わった後に興奮気味でキャメロンの元へ飛んでいく。
「昨日の滑り見て研究したんだよ。りぃちょくんの癖とか、何してる時に嬉しそうな顔をするか…とかね。」
キャメロンはニヤニヤと嬉しそうに語る。
「えっ…気持ち悪…」
鳥肌がたち、思わず口に出してしまった
「見ろこのくま!これみても言える!?え!?」
勢いのままずいっと顔を近づけるキャメロン。
確かにじんわりと目の下あたりにくまができていた。
「ごめんて…」
その後、苦手なシットスピン克服のための筋トレや、ジャンプの精度・成功率をあげる練習の日々が続いた。
――本番当日。
やはり大会の空気には飲まれやすく、さすがのりぃちょも緊張していた。
(手震えてる…)
自分の意思とは関係なしにふるふると震える手をじっと見つめながら座っていると、キャメロンに声をかけられた。
「りぃちょくん。」
「なに…?」
ゆっくりと振り向くと、キャメロンは満面の笑みでりぃちょの肩に手を置いた。
「大丈夫、りぃちょくんが下手くそなのは今に始まったことじゃない。」
「は?!」
この老害は、一体何を言い出すんだ。
それが緊張している選手へかける言葉か!?
「ジャンプも多分いつも通り行かないだろうなぁ。なんかクソ緊張してるしw」
殴ってやろうか。まじで。
「…でも、確実に上達してる。ずっと見てたからわかる。失敗してもいい。」
「だから、堂々と自信もって行ってこい!」
キャメロンが背中を思いっきり叩いた瞬間、りぃちょの体がリンク上に放り出された。
――が、咄嗟に着氷。
「……き、綺麗な着氷!よっ!」
「ふざけんなよてめぇ!!死ぬかと思ったわ!!」
いつの間にか緊張は晴れていた。
試合開始のアナウンスが流れ、スケートリンクの真ん中まで滑る。
曲が始まり、集中力が高まる。
初っ端、大得意なシングルアクセル。
(っし、着氷…)
(音楽ちゃんと聞いて…リンクの端っこまで滑る…)
ジジジ…というエッジが氷を削る音が頭に響く。
いつの間にか、氷の外の音はりぃちょに届かなくなっていた。
(次、コンビネーションジャンプ!)
(ルッツ!からのトウ――)
ドンッ!
重い音がする。
練習で何度も聞いた音。何度も見た光景。
氷の上に叩きつけられる感覚。
(やばい、どうしよ、こけた、どうしよう、)
一瞬、息が止まり、視界がぐらりと揺れた。
鼻からは鼻血が垂れているが、りぃちょは焦りすぎて気にも止めていない。
急いで立ち上がり、もう一度滑り出す。
(かそく、もっかい加速しなきゃ!)
次はりぃちょが苦手なシットスピン。
タイミングと体制意識が大切な技だ。
(足上げろ、耐えろ、まだ立つな、立つな…)
(…でも、頑張っても、コケたからもう勝てないんじゃ――)
先程の転倒が、ずっと頭の片隅にいる。
だがその直後に、ニキくんの試合映像が頭をよぎった。
ニキくんは、どうしてた?
諦めて、適当に滑ったりしてた?
(絶対してない、諦めちゃダメだ、リカバリー、まだ間に合う――!)
「っまさか!?」
キャメロンが顔を真っ青にして身を乗り出す
ダブルルッツ――!
「ん”っ!!」
とぶ、回る、踏ん張る――コケる。
表情が死に、頬はパンパンに腫れている。
だがりぃちょは表面上笑顔を取り戻し、最後まで滑りきった。
「……お、お疲れw」
顔を背けた半笑いのキャメロンが、エッジカバーを手渡す。
「普通あそこでやる?wwwバカだろマジでwww」
そして、ついに吹き出しやがった。
「慰めろよ………」
ハハハハハ!と豪快に笑ったあと、涙を拭いながらキャメロンは話始めた。
「トウループ、なんでコケたかわかる?」
「え…姿勢ダメだったから?」
「半分正解。トウの突き方が氷に叩きつけてる雑な突き方になってたから。おそらく気合いの入れすぎ。」
氷上の穴を指さしながら説明を続ける。
「高さや流れを妨げるから、今後絶対やっちゃダメ、おっけー?」
「…わかった……ごめん。コンビネーションジャンプ無駄んなった…」
「いいよ別に笑いい経験になったし笑」
りぃちょが珍しく素直に謝ると、キャメロンは軽く笑い飛ばした。
「それに、シングルをダブルにする発想は良かったんじゃない?りぃちょくんジャンプ得意だし。あと最後まで滑りきったのも良かった。やっぱニキくんに憧れてるだけあるね。」
そう言ってキャメロンはりぃちょの頭を雑に撫でた。
りぃちょに笑顔が見えた直後、キャメロンがゆらりとりぃちょの前に屈んだ。
「危ないから、今後は無しね。」
ものすごい重圧を感じながら、りぃちょはこくこくと頷いた。
――次滑るのは、りぃちょのひとつ年上の男の子。
名前ははとね、と言うらしい。
爽やかな笑顔で氷の上を滑る。
軽快な音楽に合った高いジャンプと、綺麗なスケーティング。
それと、すごく早いスピンが印象的だった。
…全てにおいて、りぃちょは負けていた。
迎えを待っている間、りぃちょはキャメロンが撮っていた試合の動画を見ていた。
(ここブレてる、あ、ステップ間違えた)
見れば見るほどに、自身の粗に気付かされる。
「…スピン、もっと上手くなりたい。」
「いや、全部、ちゃんとできるように…」
悔しさの籠った言葉を、震える声で呟いた。
「もう絶対、負けたくない。」
りぃちょのギラギラと輝く瞳が、暗闇を照らしているようだった。
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