テラーノベル
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たくとが「ちゃんと向き合う」と言ってから、少しだけ空気が変わった。
会う回数は劇的には増えない。 でも、連絡の“質”が変わった。
『今日バイト?』 『無理しすぎてない?』 『ちゃんと寝てる?』
今までの軽いノリのメッセージじゃなくて、少しだけ温度がある。
りゅうきはそれを見て、返事を打つのにほんの少しだけ時間がかかるようになっていた。
「……なんか、変ですね」
閉店後、店長にぽつりとこぼすと、店長はコーヒーを飲みながら一言。
「いい変化だと思うけどね、笑」
それだけで終わる。
そして、ある日。
『今度ちゃんと飯行くって言ったやつ、日程決めない?』
たくとのメッセージ。
りゅうきは一瞬だけスマホを見つめてから返す。
『大丈夫です』
すぐに返事が来る。
『じゃあ今週のどっかで』
そこから、思ったよりスムーズに予定は決まった。
当日
昼の街は夜のBARとは全然違う顔をしている。
たくとはいつもよりラフな格好で、でもどこか落ち着いて見えた。
「りゅうきくん」
「たくとさん」
軽く会釈して、並んで歩く。
最初は、少しだけ距離がある。
でも不思議と気まずくはない。
カフェに入って、席についたところでたくとがふと思い出したように言う。
「そういえばさ」
「はい」
「りゅうきくんっていくつなの?」
りゅうきは一瞬だけ迷ってから答える。
「22歳の大学四年生です」
「え、!若!」
たくとは素で驚く。
その反応に、りゅうきは少しだけ眉を寄せる。
「そんなにですか?」
「うん、普通に年下だとは思ってたけど、ちゃんと若い」
「……そーゆーたくとさんは?」
その言葉に、たくとは少しだけ笑う。
「俺?26歳だよ」
「……4つ違いですね」
「そうなるね」
たくとは軽くコーヒーを回しながら言う。
「なんかさ、思ったよりちゃんと年下だね、りゅうきくん」
「どういう意味ですか、それ」
「いや、なんとなく」
ふわっとした返し。
でもその“なんとなく”に悪意はない。
りゅうきは少しだけ視線を外す。
しばらく、コーヒーを飲みながら他愛ない話が続く。
大学の話、バイトの話、たくとの仕事の話。
その中で、少しずつ“知らないこと”が埋まっていく。
「りゅうきくんってさ、ずっとこのバイト?」
「はい。大学入ってからずっとです」
「へぇ、長いね」
「店長が色々助けてくれたので」
その言葉に、たくとは少しだけ目を細める。
「守られてたんだね」
「……そうですね」
りゅうきは少しだけ考えてから頷いた。
でもそのあと、ぽつりと付け足す。
「でも、もう子ども扱いは嫌です」
その言葉に、たくとは一瞬だけ黙る。
それから、軽く笑った。
「そっか」
「はい」
「じゃあ、ちゃんと大人として見るね」
その言い方は軽いのに、どこか真面目だった。
店を出て、少しだけ歩く。
夕方の風が心地いい時間。
「今日はありがとう」
たくとが言う。
「こちらこそ」
りゅうきが返す。
少し間が空いてから、たくとがぽつりと言う。
「なんかさ」
「はい」
「思ったより普通に楽しかった」
りゅうきは少しだけ驚く。
「普通、ですか」
「うん」
たくとは笑う。
「もっと緊張するかと思った」
「僕もです」
その言葉に、たくとは少しだけ目を丸くする。
「え、そうなの?」
「はい」
正直すぎる返事。
たくとはそれを聞いて、少しだけ嬉しそうに笑った。
別れ際。
駅の前で立ち止まる。
「じゃあまた」
たくとが言う。
「はい。また」
りゅうきが返す。
でもそのあと、たくとは少しだけ間を置く。
「りゅうきくん」
「はい」
「次はもうちょいゆっくり行こう」
その言葉に、りゅうきは一瞬だけ黙る。
「……はい」
小さく頷く。
電車に乗ったあとも、りゅうきは窓の外を見ながらぼんやりしていた。
(普通に、楽しかった)
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
たったそれだけなのに、少しだけ胸の奥が落ち着かない。
コメント
1件
うわ、じわじわ来た……。りゅうきくんが「もう子ども扱いは嫌です」って言ったところ、めちゃくちゃ心に残った。「ちゃんと大人として見るね」ってたくとさんが真面目に返すの、すごくいい距離感だと思う。連絡の“質”が変わる描写とか、夕方の風のなかで「思ったより普通に楽しかった」って言い合えるの、なんか尊い。次はもっとゆっくり、ね……この二人の空気感、ずっと見ていたい。