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「……あー、アイツ。お前のこと、マジで好きなんだな」
リビングで、兄の海斗(かいと)がニヤニヤしながら、さっき逃げた凪の背中を思い出して呟いた。
冴(さえ)は顔を赤くして、「……はぁ!? あんなキモいストーカー、ただの隣人だし!」って言い返すけど、心臓の音がうるさい。
「でもアイツ、splashのセンターなんだろ? あんなに顔真っ赤にして『バカぁ!』って叫ぶアイドル、見たことないわ」
海斗はスマホを取り出し、勝手に凪の公式垢をフォローした。
「よし、決めた。俺がアイツ、鍛えてやるよ。冴、今度アイツも誘って飯行くぞ」
「ちょ、勝手なことしないでよ!」
その頃、隣の部屋。
凪は、ベッドに顔を埋めてバタバタ暴れていた。
「……死ぬ。お兄さんにまで変態扱いされた……もうsplash辞めたい……でも冴が好き……無理……」
そこへ、一通のメッセージ。
『海斗:今度、冴と一緒に飯行こうぜ。お前のガチ勢っぷり、もっと詳しく聞かせてよ(笑)』
「……っ!? お兄様から直接メッセージきたぁぁぁ!!」
高級焼肉店の個室。網の上で、最高級のタンがじゅうじゅうと音を立てている。
俺は今、人生で一番緊張していた。
「あ、お兄様! こっちのハラミ、ちょうど食べごろです! 冴(さえ)の分も、俺が完璧に焼きますから!」
「……凪、お前さ。トング捌き、ダンスよりキレてね?」
海斗(兄)が、面白そうに俺を見てニヤニヤしている。
その隣で、冴は露出多めの肩出しトップスで、冷めた目をしてカルビを口に運んでいた。
(……くっ、冴の肩が眩しい。……でも、今はそれどころじゃない! お兄様に認められないと、俺の『逆推し生活』は終わる……!)
「あ、あの! お兄様、splashの次のライブ、関係者席用意します! ぜひ冴と一緒に……っ」
「お前、さっきから『お兄様』って呼ぶのやめろ。まだ認めたわけじゃねーからな(笑)」
「……っ!! 精進します!!」
俺は必死に、炭火の熱と恥ずかしさで真っ赤になった顔を隠しながら、また新しい肉を網に乗せた。
チラッと横を見ると、冴が「……バカじゃないの」って呟きながら、少しだけ、本当に少しだけ、楽しそうに口角を上げているのが見えた。
(……今の笑顔、全買いしたい。……無理、尊すぎて肉焦がした……!)
「……お兄様、今日は本当にありがとうございました……!」
店を出た瞬間、俺はまだ「接待モード」が抜けずに深々と頭を下げていた。
その時、向かいのビルの影で、カメラのレンズがキラッと光ったのを俺の「アイドルアンテナ」が察知した。
(……やばい。撮られる……!?)
今ここにいるのは、俺と、冴と、お兄さん。
最悪なのは、露出多めの格好をした冴が「人気アイドルの彼女」としてネットに晒されること。……そんなの、絶対に許さない。
「……っ、こっち来て!」
俺は反射的に、冴の細い手首を掴んで、自分の胸の中にぐいっと引き寄せた。
パーカーの大きなフードをバサッと被せて、彼女の顔を俺の胸板に押し付ける。
「……なっ、何!? 離しなさいよ……っ」
「……しっ。静かに。……撮られるから」
耳元で、わざと低く囁いた。
鼻をくすぐる、冴の甘いシャンプーの匂い。
腕の中に収まった彼女の体温が、焼肉の火よりも熱く感じて、俺の心臓はもう爆発寸前だ。
「……俺はいい。でも、冴が変な噂になるのは……絶対に、嫌なんだ」
抱きしめる力が、無意識に強くなる。
さっきまでの「あざとい凪」はどこにもいなくて。
俺の腕の中で、冴の心臓も、トクントクンと速くなっているのが伝わってきた。
「……っ、ちょ、凪……離しなさいよ……!」
俺の腕の中で、冴が顔を真っ赤にして暴れる。
「……だめ。今、あっちにカメラマンがいるんだって。……もうちょっと、このままで……」
わざと甘えた声を出しながら、心の中では「このまま時が止まればいいのに」なんて、柄にもないことを思ってた。
お兄さんも「……おい、いつまでやってんだよ」って呆れ顔。
その時。
♪ピリリリリ!!
俺のポケットで、爆音の着信音が鳴り響いた。
(……ゲッ、マネージャー!?……いや、違う。表示は――『splash リーダー』)
「……もしもし、凪? お前、今どこ? 焼肉屋の裏口で女の子抱きしめてるの、俺らに丸見えなんだけど(笑)」
「……えっ!?!?」
パッと顔を上げると、少し離れたところに停まったsplashの送迎車。
窓がスススーッと開いて、中から高橋文哉くんみたいな爆イケなメンバーたちが、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「……うわぁぁぁ!! 見てたの!? 全員いたの!?!?」
「凪、やるじゃん。……あの子、もしかして毎日動画見てる『推しの子』?」
「ちょ、言うなバカぁ!! 冴、逃げるぞ!!」
俺は真っ赤になった冴の手を引いて、夜の街を全力で駆け出した。
コメント
3件
お読みました〜🥀✨ 第3話、もうめちゃくちゃでした……! 凪くん、焼肉で必死に“お兄様”に認めてもらおうとするところとか、冴ちゃんを守るためのあの抱きしめ、心臓に悪かったです。メンバー全員に見られてたオチも含めて、もう尊すぎて逆にしんどい……。あと、冴ちゃんがこっそり口角上げてたところ、私も「全買いしたい」って共感してました。続き、気になりますね。