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#異能者
綾瀬リナ
32
のりまる
454
ゆ ぅ ナ . 【 🫧☔️ 】
202
登坂視点
第四話 バディ結成
ピーッピーッピーッ!!
セルフレジからけたたましい警告音が鳴り響き、彼が慌てて画面を操作してエラーを解除した。
「あ、すいません。まずはお会計を……」
「そうだな、すまない」
彼の慌てっぷりに釣られたのか、何故か俺まで少し気後れしながら支払いを済ませた。何となく彼を見ると、俺が過剰な期待の眼差しを向けすぎていたせいか、居心地が悪そうに身を縮めていた。
自分の能力が、俺の期待に見合うものではないと不安に思っているのだろうか。
(全然そんなことないのにな)
だが、俺が彼にバディを頼んだのは、彼自身の人間性を知ったからではない。同じく死者に干渉できる「能力」を求めたからだ。
つまり、彼という人間よりも先に能力を利用しようとしたも同然だった。悪用でも画策しているのではないかと、警戒されてもしかたがないだろう。
あの全身からだだ漏れしていた「拒絶のオーラ」で明らかに、死者と関わりを持つのを良しとはしない、彼をどう説き伏せればいいのだろうか。ぱっと都合よくその場で、妙案など全く浮かばなかった。
とりあえず他の客が見当たらないのをこれ幸いと、いつなら話せるか確認した。まだ勤務中ということだったので、シフト上がりに従業員用の裏口で待ち合わせる約束をして、俺は一度コンビニを後にした。
「まともなのは見つかったか?」
署内に戻るなり、上司からぶっきらぼうに声をかけられた。言い方は荒いが、声には心配が滲んでいる。まだバディが決まってない刑事は、もう俺しかいないのだから、当然の反応だろう。
「今、交渉中です」
いくら上司が相手でも、バカ正直にバディ候補が一般人のため、交渉が決裂しないよう時間をさいているとは言えなかった。
「やけに慎重だな。そんなんじゃ捜査本部から外されるぞ」
ぐうの音もでない正論だった。俺だって、一刻も早く事件の捜査にあたりたい。しかし、あまりに時間が限られすぎていた。彼が首を縦に振ってくれる保証はない。そう思うと俺の胸に、じわじわと焦燥感が募っていく。
もし断られたら?そういった最悪な結末が頭を掠めた。
とは言え、同じ能力者なのだから、通じるものはあるはずだ。僅かばかりですぐに切れてしまいそうな、軟弱すぎる希望の糸を手繰り寄せる思いだった。絡まってもいい、頼りなくてもいい、だからどうかその糸が繋がったままでいてほしい。
そんな焦りを俺から感じ取ったのか、上司はあえて多く聞かなかった。本当は状況を根掘り葉掘りと突っ込みたそうな表情だったが、ただ短く「頑張れよ」と柔らかく肩を叩いて去っていった。
だだっ広い廊下の隅で、堪えきれず諦念の溜め息を吐いた。
一方的に取り付けたような、約束の時間が迫る。思わず腕時計を睨む。針が進む音すら耳障りで不快に感じる。果たして彼は待っているだろうか?すっぽかされることはないだろうか?またしても不安の渦に呑まれそうになる。
会いたいような、会いたくないような、幾重もの感情に掻き乱される。頭も心もまさに大渋滞だった。
数十分後、結局俺は不安の霧が晴れないまま、コンビニに車を走らせた。運転席のシートに背中を預けて、腕時計を何度もチラ見していた。
「お疲れ様でした」
彼のあまり通らないが、澄んだ控えめな声が俺の耳に届いて、約束の通り裏口から彼が出てきたことに気付いた。本当に来てくれるかどうか不安だったが、姿を見ただけでホッとする。
その反面、いよいよ逃げられないのだと腹を括ったような彼の険しい表情に、こちらも緊張が走った。彼はゆっくりと、俺の車へ近づいてくる。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。僕は鷹岸優斗(たかぎしゆうと)です」
ペコリと律儀に、改めて深々と頭を下げてくれた。
しかし、その瞬間に走った衝撃は計り知れないものだった。
(鷹岸だって!?)
父から一度しかその名を聞いたことはなかったが、厳格な父が珍しく優秀な人だと、褒めていたかつてのバディと同じ姓だ。まだ関係性は分からないが、おそらく身内なのだろう。
優れた血筋がありながら、持たざる者だというのは、俺だけじゃなかった。彼も同じ境遇なのか?
あくまで仮説にすぎなかったが、そう考えれば腑に落ちた。彼がすぐに素性を明かさなかった理由はこれだ。もし逆の立場なら俺も軽々しくその名前を口には出来なかったはずだ。優秀な身内がいるからこそ期待のあと、失望されたくないため隠したのではなく、打ち明けられなかったのだ。その偉大な存在故に――
こんなにも真っ直ぐで脆い相手を利用しようとしている自分が、とてつもなく情けなくなる。
庇護欲といえばいいのか、それとも後ろめたさか。自分でもよく分からない複雑な視線を彼に向けてしまう。本当にこの青年を巻き込んでいいのだろうか。躊躇いが首をもたげそうになるが、彼の目に宿る覚悟を信じたかった。
「車内で話せないか?」
「分かりました」
そう促したものの、彼の顔に不安の色が途端に濃くなり、車の前で足が止まった。いや、動けなくなってしまったのだろう。
相手の素性を深く知らないのはお互い様だ。応じるべきかどうか、本能的に躊躇うのは自然なことで、誰も責められるものではない。俺は彼が次の一歩を踏み出せるのを、黙って静かに見守った。
やがて決心を固めように、真顔でゆっくりとした足取りで助手席へと回り込むのを見て、俺は内心胸を撫で下ろした。
「お邪魔します」
丁寧に断りを入れて助手席に座る彼を見届けてから、俺も前を見据えた。
すぐに事件の話をするべきか?
だが、身構えた彼の硬い表情を見て思い出す。彼はあくまで一般人だ。いきなり本題を切り出せる状態ではない。
まずは彼の緊張をほぐすために、他愛のない雑談を始めることにした。最近のドラマ、好きな動物、趣味の話。会話が進むにつれ、徐々に「話を聞かなければ」という、見えないプレッシャーが消えていったようで、彼の表情が少しずつ和らいでいく。
本来ならすぐに事件の概要を突きつけて、協力を仰ぐことも出来たが、それでは相手に負担をかけすぎてしまう。いくら捜査のためとはいえ、そんな不誠実な真似はしたくなかった。
(慎重に距離を詰めないとダメだ)
そうやって気を遣っていたつもりだったが、俺の予想に反して、彼は思いのほか逞しかった。あえて自分から話を振り、事件の概要を聞き出してきたのだ。
(なんて芯が強い人なんだ)
その行動力に驚かされながらも、俺は事件を時系列順に追って説明し始めた。
事の始まりは、母親からの「中学生の娘が帰ってこない」という一本の通報。家族関係友人間も良好で、家出の理由は皆無。当時はただの失踪事件として捜査されていた。
しかし、公園の砂場から少女の「上体」が見つかり、後に被害者のものだと断定。
それにより単なる失踪ではなく、猟奇殺人であることが確定し、緊急で捜査本部が立ち上げられた。
さらに数日後、今度はドッグランの地面から「頭部」が発見された――
「それは……妙ですね」
彼の冷静な指摘に、俺はまたしても驚かされることになった。
明らかにおかしい。ただ「洞察力が高い」だけではない、何かを感じた。まるでこういった、異常事態に慣れているような異質な空気感すら纏っていた。
一体彼は何者なのだろうか。知りたくても聞けないまま、飲み込んだ。何故かそれを聞いたら、俺の目の前からいなくなりそうな気がしたからだ。
確かにドッグランの人工芝の下に埋めたのは明らかな隠蔽工作だが、公園の砂場に遺棄するというのは、あまりにも杜撰すぎる。
まるで見つかっても構わないと言わんばかりのいい加減さには、捜査本部の全員が違和感を抱いていた。殺害した犯人と、遺体を捨てた犯人が別人のように噛み合わない。この矛盾点に、彼は一瞬で引っかかったのだ。
「やっぱりそう思うか?君はなかなかいい勘をしているな」
署内でも、意図的に隠されていた頭部は本犯、隠す意思が見られない上体は模倣犯や共犯者ではないか、という見立てで捜査していることを伝えた。
すると、何かを躊躇うような素振りを見せた後、意を決した彼が、捜査において重要度の高い部位について訊ねてきた。
「どこが見つかれば、進展しますか?」
「やっぱり……腕だな。防御創や生活反応が確認できたら、大きく動き出せる可能性がある」
俺が答えると、彼は一度俺から目を逸らし、後部座席へと視線を向けた。
思わず彼のまねをして、俺も同じように、バックミラー越しに後部座席を見る。そこには、頭部と上体だけで宙に浮く彼女が、じっとこちらを縋るように見つめていた。彼にその異様な姿は視えないはずなのに、そこにいる彼女の「気配」を、なんとなく感じ取っているらしかった。
彼は溜め息を一つ吐き、胸の中の覚悟を閉じ込めるようにしてから、ハッキリと宣言した。
「分かりました。僕はあなたに――登坂さんに、協力します」
それは、俺たちのバディ結成が確定した、記念すべき瞬間だった。
コメント
1件
やっとバディ結成……!登坂さんの焦りと不安がすごく伝わってきて、こっちまでドキドキしたよ😭💕 鷹岸くんが控えめなのに芯が強くて、一瞬で事件の違和感に気づくところ、マジでかっこよすぎた……! あの「腕」のシーンで彼が協力を決意した瞬間、めっちゃ熱くなった🔥 次回が待ち遠しいよ、更新楽しみにしてるね⋆♡