■ 第十四章:廃村へ ― 二人だけの戦場
武器庫が燃える炎を背に、
カイは敵の後退ルートを追って村を飛び出した。
しかし、カイは気づいていなかった。
ロジンも、彼の背中を追っていたことに。
■ ロジン、追走
怪我の痛みに顔をしかめながらも、
ロジンは必死にカイの足跡を追いかけていた。
「待ってくれカイ…!!」
暗い山道を抜け、
細い岩場を渡り、
転びそうになる度に、
ロジンは歯を食いしばる。
(あたしも…行かなきゃ…
武器庫をやられたのは私の判断ミス…
償うためにも)
やがて前方で銃声が響いた。
ダンッ! ダダダッ!
ロジンが叫ぶ
「カイ!!」
駆け出したその時―
茂みから飛び出してきた影とぶつかった。
「っ!!」
「ロジン!? なんで来た!」
それはカイだった。
カイもロジンを見て驚いていた。
「一人で行かせるわけないでしょ!」
カイはその言葉に一瞬だけ目を見開いたが、
次の瞬間―
「ロジン!!伏せろ!」
彼はロジンの肩を押し、地面に倒した。
直後、背後の岩が銃弾で砕け散った。
■ ■ 敵部隊、迫る
アザルたちとは完全に離れていた。
山道の分岐が多く、
カイを追うロジンは別ルートへと迷い込んでしまったのだ。
そして、敵兵は既に周囲を包囲していた。
「クルドの女か…それに日本人の傭兵。
貴様らは、ここで終わりだ!」
複数の赤いレーザーサイトが、
二人の周辺の岩に点々と揺らぐ。
ロジンは息を呑む。
(この人数は無理)
カイも同じ判断だった。
「退くぞ、ロジン。
このまま戦っても
押し切られる。」
「でも、どこに?」
カイは指を差した。
「あっちに“廃村”がある。
建物を利用すれば撃ち返せる。」
ロジンは頷き、
二人は息を合わせて走り出した。
■ ■ 廃村 ― 失われた家々
たどり着いた先は、
戦火で焼け落ち、誰も住まなくなった石造りの村。
崩れた屋根。
割れた窓。
風が吹くたびに埃が舞いあがる。
ロジンは低く囁く。
「なんかこの場所…嫌な感じがする。」
カイは崩れた家屋の壁際に身を寄せ、
周囲の音を聞いていた。
「だが、利用できる点もある。
狙撃ポイントも遮蔽物も多い。」
「でも、ここに逃げ込んだのがバレたら…」
カイは微笑した。
「だからこそ、反撃できる。」
■ ■ 追っ手、到達
廃村に足を踏み入れた敵兵の足音が響く。
「いたぞ! この村だ!」
ロジンは血の気が引くほどの緊張を覚えた。
カイは逆に冷静になっていた。
「ロジン、俺の左側に立つな。
そこは射線が通りやすい。」
「わかった。」
「お前は怪我してる。
射撃は最低限でいい。
俺が前に出る。」
ロジンはきつく首を振った。
「ダメ。
あなたに
任せきりにはできない。」
カイは一瞬だけロジンを見た。
その瞳には、不思議な温かさがあった。
「なら、お前の判断に従う。
二人で生き残るぞ。」
その言葉を聞き、
ロジンの心は
少しだけ軽くなった。
■ ■ 廃村の家屋戦
敵兵が建物の隙間から侵入してくる。
ロジンは石壁の陰に潜み、
短く息を吐く。
「カイ、右側通路に二人。
足音でわかる…。」
カイは銃を構えた。
「了解。」
ダンッ! ダンッ!
二発。
通路に倒れこむ影。
ロジンは別方向から迫る敵を撃つ。
ダダッ!
弾は敵の足に命中した。
「くっ…外したか!!」
カイが素早く追撃する。
タンッ!
「問題ない、次に集中しろ。」
■ ■ 包囲される二人
しかし―
敵の数は予想以上だった。
廃村の外周を囲うように兵士が散開し、
村中をじわじわと追い詰めてくる。
ロジンの息が荒くなる。
「囲まれた…カイ、どうする…?」
カイは再装填をしながら言った。
「外へは出られない。
ここでゲリラ戦に切り替える。」
「ゲリラ戦…?」
「追う敵を逆に追い返す。
敵の視界を奪って、ひとりずつ潰す。」
ロジンは深く頷く。
「できる。
あなたとなら。」
カイはロジンの肩に手を置き、
低く言った。
「ロジン。
絶対に
死なせない。」
ロジンの胸が熱くなる。
しかし―その瞬間。
ドガッ……!
頭上の廃屋の屋根が崩れ、
敵スナイパーの影が姿を現した。
「見つけたぞ!!」
カイが叫ぶ。
「ロジン、伏せろ!!」
■ 第十五章:囮となった影 ―
ロジン、捕縛
廃村の屋根から狙うスナイパーの影。
カイが反応するより一瞬早く―
ロジンは走り出した。
「ロジン!? 待て!!」
彼女はカイの制止を振り切り、
崩れかけた建物の間を駆け抜ける。
スナイパーが狙いを向けるその瞬間、
ロジンは大声で叫んだ。
「こっちだ! あたしを狙いな!!」
その声が、廃村全体に響き渡る。
カイは息を呑んだ。
(囮になる気だ)
次の瞬間
パァン!
乾いた銃声。
ロジンの足元の石が砕け散る。
敵兵の怒号が起こる。
「あの女だ! 捕らえろ!」
複数の足音がロジンを追いかける。
カイが追おうとした瞬間―
敵の制圧射撃が、彼の前方を塞ぐ。
ダダダダッ!
石壁が蜂の巣のように砕け散る。
ロジンの声は、もう遠くなる。
「カイ逃げて!!…」
次の瞬間、
その声すらも消えた。
■ ■ 捕縛されるロジン
ロジンは逃げ場を失い、
小さな広場のような場所
に追い込まれた。
包囲は完全。
敵兵たちが銃を向ける。
その中のひとりが
冷たく言った。
「撃つな。生きたまま連れてこい。
“黒狼”が興味を持っている。」
ロジンは抵抗しようとしたが、
背後から回った影に腕をねじられ、
荒々しく地面へ押し倒された。
視界が揺れる。
乾いた縄が手首を締め付ける。
足も縛られる。
ロジンは歯を食いしばった。
(捕まった…カイ逃げて!!)
目に映るのは敵兵の無表情なマスクだけ。
その無機質さが、
笑うよりも恐ろしかった。
■ ■ 敵の尋問所へ
ロジンは廃村のさらに奥、
崩れた大きな石造りの建物へ引きずられていった。
暗い内部。
割れた窓から風が吹き込み、
冷たい土の匂いが漂っている。
かつて
誰かの家だったはずの
その部屋は、
今では拷問と尋問のための即席の部屋になっていた。
壁には乱雑に釘が打たれ、
床には古い血痕のような黒い汚れ。
ロジンはその空気だけで、
自分が普通の捕虜では済まされないことを悟った。
敵の小隊長と思われる男が椅子に座り、
ゆっくりとこちらを見た。
「ようこそ、クルドの戦士。
少し質問に答えてもらう。」
ロジンは黙ったまま睨みつけた。
男は笑うことも無く、
ただロジンの顔を観察していた。
「強い目だ。
壊し甲斐がある。」
ロジンの背筋が冷たく震えた。
■ ■ 心理的圧迫 ― 孤立と尋問
ロジンは椅子に縛られ、
暗い室内に一人放置された。
灯りは一つだけ。
薄い裸電球が揺れ、
影が歪む。
外では敵たちの足音が不規則に響き、
何をされるのかわからない恐怖が
じわじわと心を削っていく。
ロジンの呼吸が荒くなる。
(ここは…本当に、誰も助けに来られない場所…)
数分後、敵の小隊長が戻ってくる。
彼はロジンの顔の近くにしゃがみ、
囁くように言った。
「仲間はどこだ?」
ロジンは目をそらした。
小隊長は淡々と続ける。
「答えなければ…時間をかけるだけだ。」
声は静か。しかし冷たい。
ロジンの頬を冷汗が伝う。
(恐い…でも…言えない…)
ロジンは黙っていた。
男はため息をついた。
「では、続けようか。」
その後―
時間の感覚が消えていった。
灯りが突然消え、
沈黙が続く。
暗闇の中で何かが落ちる音だけが響く。
息を潜めれば、
鼓動がうるさく響き、
敵がどこにいるのかわからない。
ロジンは何度も意識が遠のき、
目を開ける度に違う場所に座らされていた。
敵は彼女を 眠らせず、休ませず、孤立させる。
それだけで、
人の精神は限界に追い込まれていく。
■ ■ カイ、潜入
その頃
廃村の外縁で、カイは岩陰に身を潜めていた。
ロジンを追ってきた敵兵の気配を感じ取り、
静かにナイフを抜く。
「ロジン…絶対に助けてやる。」
眼差しは冷たいが、
心の底では焦りが燃えている。
カイは敵の配置を読み取り、
建物の死角から静かに忍び寄った。
足音はない。
呼吸すら抑える。
元・特殊任務部隊の、本当の姿。
一人の兵士を音もなく無力化し、
そのまま廃村の奥へと進んでいく。
ロジンの弱い声が、風に溺れたほどの小ささで聞こえた。
「…だれか」
カイの足が止まる。
目が鋭く細められる。
「ロジン…耐えろ。
今行く。」
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