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「……………」
「ジェディ、稽古が身に入ってないようだが……?」
「うぇえ!? そっ! そんなことないと思うけど!!?」
エドモンドに指摘され、俺は慌てて否定する。
「いや……言い訳するのはダサいな……。ちょっと考え事してて、あんまり身に入ってない……」
「見りゃわかる」
「うぐ…」
だって仕方がないじゃないか。未だにローのことが頭から離れないのだから。
ローに貰ったブレスレットは風呂と寝る以外の時はいつも身につけてる。というか肌身離さず持っている。我ながら乙女かよって思うけど、この世界で初めて友達に貰ったものなのだ。大切にしていきたい。
エドモンドにバレないようにこっそり左手首のそれを触りつつ、今日も稽古に励む。ぱしっと両方の頬を軽く叩いてからエドモンドの方をグッと向く。
「エドモンド、頼む!」
「よし、来い!!」
今日も今日とてエドモンドに稽古をつけてもらう。
俺は六式の内の残りの剃、月歩、嵐脚を習得すべく稽古を続けていた。剃と月歩はいいところまでいったのだが、嵐脚だけはどうしても威力が弱い。
俺は勢いよく足を振り上げる。しかし攻撃とは言えないようなものだ。嵐脚は凄まじい速度で脚を振り抜くことで、蹴りから扇状の鎌風、つまりは飛ぶ斬撃を放つ攻撃技だ。俺はその動きを何度も繰り返し練習しているが、なかなか上手くいかない。なんでだぁ…?
六式の嵐脚を習得したいが、それだけに集中するわけにはいかない。剣術の稽古もあるのだ。木刀を握りしめ、俺はエドモンドに向かって斬りかかる。
「剃」
俺は瞬時に間合いを詰め、剣を振るう。しかし簡単に受け止められてしまう。俺は諦めず何度も攻撃を仕掛けるが、全て防がれてしまった。
「だァー、クソッ!剃!」
俺の攻撃を全て受け流したエドモンドの背後に回る。今度こそ、と意気込んで腕を大きく振りかぶる。ただ当てようとするだけじゃ駄目だ。もっと鋭く、素早く。
大きく息を吸って、吐くと同時に一気に踏み込む。そして――
――バキッ――
あろう事か、俺は木刀を折ってしまった。やばいと思った時にはもう遅い。俺の木刀が折れたことに気付いたエドモンドがこちらを向いた。その顔は呆れ返っているように見えた。
や、やっちまったぁああ!! これはエドモンドに借りてる木刀だ……どうしよう、どう言い訳を……。冷や汗をダラダラかきながら、俺は恐る恐る口を開く。
「ご……ごめん……」
俺の言葉に、エドモンドは大きなため息をつく。やっぱり怒ってる……?
すると、彼はその場にしゃがみ込んだ。怒られる……と思った俺の頭にエドモンドが手を伸ばしてくる。反射的に目を瞑ると、頭をわしゃわしゃっと雑に撫でられた。驚いて目を開けると、目の前に微笑んでいるエドモンドがいた。
「怪我はねぇな?」
「う、うん……ない…」
俺が答えると、エドモンドは俺の頭から手を離して何か考え始めた。
「……丁度いい、そろそろ真剣を使うか」
「真剣…?」
「あぁ。整備はしてるけどここ数年使ってねぇやつがいるんだよ」
へぇ。エドモンドが使ってた剣ならすごいやつなんだろうな。
倉庫の方へ向かうエドモンドについていく。エドモンドが手に取ったのは柄も鞘も真っ黒な刀。エドモンドが刀を抜くと、その刃も黒く染まっていた。
「こいつの名は烏融-からすどおし-、刀自体に意思があると言われている。実際、手入れをサボると僅かに動いて主張してくる。俺の昔の相棒さ」
そう言って俺に手渡してきた。受け取った瞬間、全身がぞくりと震えた。でも嫌な感じはしなくて、むしろ心地よい感覚だった。
「お、合ったみたいだな」
そう言って笑うエドモンドは、まるで自分の子供を見る父親のようだった。
それから、俺は毎日のように真剣、烏融を使った稽古に励んだ。もちろん嵐脚や未収得の六式の練習も忘れずにな。