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魔王城で奮戦を続けるクララとニャンコス。
上空から取り付こうとしているゲリラ兵の第一波をどうにかしのぎ切る。
さらにそこで朗報が届いた。
「報告します! 城門前にダズモンガー隊長と、小坂莉子様がお着きになられまして、一気に士気が向上しております!!」
「おおー! やっぱり帰って来てくれたんだねー! おりょ? 六駆くんは?」
「いえ、六駆様はこちらに現れたと言う情報を受けておりません」
クララはひとつ閃いた。
「ねね、君たちのそのテレパシーってヤツはさ、あたしの声を乗せてもらえたりしないのかな?」
「いえ、それは難しく……」
すると、宙を駆けていたニャンコスが降りてきて、クララの提案に頷く。
「私のテレパシーならば、英雄殿だけと念話をするのは無理だけど、ニカラモル村までの広域に声を飛ばすことはできるわよ?」
「あ! それで大丈夫っす! お願いしますにゃー!」
「分かったわ。じゃあ、私の手を握って。うん、いいわよ。準備できた」
「ありがとうございます! それじゃ、喋ります!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
城門前では、莉子が覚えたての『風神壁』の広域展開でゲリラ兵の魔法をガード。
これが非常に大きな効果を発揮している。
人族のゲリラ軍からすれば、魔王城などあってもなくても変わらないので、シンプルに壊してしまえば良い。
運が良ければファニコラの命も奪えるかもしれないし、それが叶わずとも敵の本拠地を破壊すれば、条件は五分五分となり、遊撃戦へと移行できる。
そののち、一定の戦果を上げれば本拠地へと戻り、全軍をもって集結しようとする魔王軍を各個撃破するのが最良。
そこまで敵が考えているのかは判然としなかったが、ダズモンガーはその点に気付いていた。
そこで振り返るのが、莉子の強力な防壁スキル。
特に、炎の魔法を弾いてくれる事に関しては願うべくもなく、最悪のケースである魔王城炎上が避けられる現状は、ダズモンガーの指揮する兵たちが眼前の敵に集中するには充分な後ろ盾だった。
ただし、莉子の煌気量が多いとはいえ、1時間も2時間もこの状況を維持せよと言うのは酷であり、どんなに頑張っても30分程度が限界。
この一斉蜂起を30分で収めることのできる者などいるだろうか。
1人だけいる。
クララが今まさにミンスティラリアの約3分の1の範囲に向けて、演説を始めようとしていた。
耳を澄ませ、逆神六駆。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「やれやれ。これは驚いた。まさか、村一つを元通りにしてしまうとはね。英雄殿のスキルは聞きしに勝る」
「ダズモンガーくんが火を消してくれていたので助かりましたよ。それに、僕は物を作るのは苦手でして。時間がかかってしまいました」
ニカラモル村の焼き討ちから約1時間。
六駆は何をしていたのかと言えば、けが人の治療を『気功風』で行ったのち、村の民家を丸ごと復元していた。
『大工仕事』と言う、ものづくり大好きな祖父の四郎が教えた建物修復スキル。
相当な煌気を必要とする上に、普段使う事のないスキルだったため、彼にしては珍しく手間取っていた。
それが済んで、さあ魔王城へ向かおうかというタイミングで、クララの声がニカラモル村にも響き渡る。
『六駆くーん! 聞こえてるー? あのね、今、こっちは大ピンチなんだけどさー! ファニちゃんなんか泣いちゃってー! でも、もうしばらくは持ちこたえられそうだからね、六駆くんはこっちに来なくていいよー!!』
六駆はクララの声を聞きながら、ファニコラの泣き顔を思い浮かべながら、シミリートに「こちらから返事をする方法はありますか?」と確認を取る。
シミリートは「任せたまえ」と、秘蔵の発明品を取り出した。
それは超強力な拡声器のようなもので、これを使えばミンスティラリア全土に声が届くと、シミリートは胸を張る。
『六駆くんはね、そのまま、敵の親玉をやっつけちゃってくれるー? なんか、捕虜の人の話によると、この大攻勢って人族のトップが指示してるんだってさー! だから、敵の本拠地を潰しちゃったら、魔王城を攻める意味もなくなると思うんだー! ほら、この人たちも帰る場所をなくす訳じゃん?』
クララの言いたい事は全て六駆に伝わった。
どうやら、クララも、そして先んじて戻った莉子も、現在戦闘中のようであり、煌気の激しい揺らぎを魔王城の方角から感じる事ができる。
シミリートから拡声器の魔具を借りて、彼は要点だけ叫んだ。
『了解した! これより逆神六駆、人族の首長がいる根城を叩き潰しに向かう! 命が惜しい者は早いところ投降するように! ……間違って、殺されないようにね?』
逆神六駆の名前は、魔族にはもちろんのこと、人族にも強大な畏怖の象徴として、今も語り継がれている。
その本人が、「これから攻めますんでよろしく。間違って殺しちゃったらごめんね」と言う。
こんなに効果的な脅し文句はない。
魔王軍を攻めているゲリラ軍にも一定の効果が出ており、戦線から離脱する者が次々に現れたと言う。
「英雄殿。これを持って行くと良い」
「これはなんですか?」
「熱感知システムを流用した、魔素感知モニターだ。英雄殿の煌気感知能力ほど正確ではないが、ほら、ここを見てくれ。この明らかに濃くなっている部分。恐らく、魔法を使える者が集合していると考えるのが妥当だろう」
ミンスティラリアの魔術師は、大気に漂う魔素を使って魔法を撃つ。
やっている事はスキルと同じであり、多くの魔術師が集結すると、その一帯の魔素が濃くなるとシミリートは補足説明した。
「これは助かります! では、ちょっと行って、2度としょうもない事ができないように、強めのお灸をすえてきますよ!」
そう言うと、六駆は『激跳躍』で空高く飛び上がり、『天滑走』を発動させ敵の本陣と思しき地点目指して猛スピードで発進した。
彼にしては珍しく、かなりイラついていた。
無垢なファニコラを泣かせ、大切な莉子とクララを危険な目に遭わせている事実と、それを防げなかった自分に。
六駆おじさんの常套句に「スキルはメンタル勝負」と言うものがある。
これは、スキルを使用する際に集中力を欠くと、上手く行かないぞという意味で彼は使っているのだが、今回の場合は少しばかりニュアンスが違う。
ガチギレしている六駆のメンタルは、高止まりで安定している。
つまり、元から最強の男なのに加えて、今の彼はミンスティラリアの豊富な大気中の煌気と、久しぶりに怒りの頂点と言う特殊な精神状態を持ち、それはそのまま、戦力の更なる増大へと繋がるものだった。
人族の首長、カンドルとヤンドルが陣を構えるミンスティラリア西の盆地。
そこへ六駆は一直線に向かっている。
もちろん、先ほどの六駆の言葉を聞いていた彼らも、慌てて移動を始める準備をしているのだが、ガチギレしている最強の男から逃げられるだろうか。
出来もしない事を議論するのは、詮無きものである。