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向日葵

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向日葵

7 - 6 向日葵

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2024年05月09日

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6 向日葵

——あれから数ヶ月。


一二三も落ち着きを取り戻し、日常が戻ってきた。

……陽葵の居ない日常だ。


あの日から、陽葵は煙の様に消えてしまった。

飲み会での無茶振りから、助けてくれる後輩はもういない。

会社もいつの間にか辞めてしまっており、仕事を教えるべき後輩も居ない。

まるで最初から存在していなかったかのようだ。


代わりとでもいうように、自宅のリビングには何日かごとに向日葵や黄色の薔薇やガーベラが飾られる様になった。


一二三も何も訊かない。

……俺も特に何も話さない。

ただの、いつもの、日常。


それでも、彼女の様な明るい笑顔の花があるだけで、少しだけ心が華やいだ。


ピンポーン


不意に、オートロックのインターフォンが鳴る。


『どうぞー!玄関の鍵、開けときまっす』


一二三が笑顔で応対する。


「独歩ちん、俺っち買い出し行ってくんね!」


今日は無礼講だから……と、ジャケットを羽織りリビングを出ていった。


——少しの静寂。


入れ替わりに、扉が開いた。


「やぁ。此処に来るのは久々だね」


落ち着いた低音が響く。


「先生」


料理の準備がまだだから、と来客をソファに案内して、一二三が準備していた紅茶を提供する。


「それで……」

「この間の、〝氷〟の話はどうなったんだい?」


独歩がおずおずと隣に腰掛けると、寂雷が瞳を煌めかせて設問を始めた。


「そうか、そんなことが……」


一二三が帰ってくる前にと、矢継ぎ早に連ねられる話を聞き、寂雷はうぅむと唸り、親指で独歩の涙を拭う。


「……一郎くんに聞けば、居場所がわかるかもしれないよ」


既に山田家に依頼し情報を得ていたが、問題は、本人達が知りたいかどうかだろう。

独歩の瞳を見据える。


「……いいんです、俺は……」


首を横に振る独歩を見て、そうか、とだけ言い冷めてしまった紅茶をゆっくり嗜む。

きっと俺は会いに行くし、一二三はまた思い出してしまうかもしれない……そんなつぶやきを聴かなかったことにするか、何も言わずに自分が行くか、帰ってからゆっくりと考えよう。

再び涙を零すしがないサラリーマンの肩を、ゆっくりと撫でた。


「たっっだいまー!」


静寂を破る声とともに、一二三が買い物袋をぶら下げて帰宅した。


「せんせぇいらっしゃーい!およ?」


どったの?と言いながら、缶ビールを開け、独歩と先生、そして花瓶の前に置く。


「一二三……」

「言ったじゃーん。今日は無礼講って!」


有無を言わさず、ほら!と二人に飲むように促す。


「お気に入りのシャンパンがぁ、今日安かったんだよね〜」


いそいそとキッチンに向かいテーブルに料理を用意していく一二三を見て観念し、独歩と寂雷は椅子に座り直した。

今日はどうやら眠れそうにないなと、二人はビールに口を付けたのだった。


fin.

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