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相変わらず何も変わらないまま旅行を二日後に控えた夜の事、
「どうした?」
バイト終わり、小谷くんが迎えに来てくれて共にアパートへ帰宅してみると、私は違和感に気付く。
「……鍵、開いてる」
「締め忘れ?」
「ううん、そんな筈ない。戸締りだけはしっかり確認したから」
「…………」
私の言葉を聞いた小谷くんは無言でドアを開けるとそのまま中へ足を踏み入れる。
「……小谷、くん?」
「中、確認する」
「で、でも……」
「鍵かけたと思っても、うっかり忘れただけかもしれねぇだろ? けど、どっちにしても開いてる以上、誰か潜んでるかもしれねぇ」
「そ、それなら尚更危ないよ……」
「けど、確認しない訳にはいかねぇだろ?」
「そ、そうだけど……」
「由井はそこに居ろ」
「う、うん……ごめんね……」
鍵をかけ忘れただけならいい。けれど、そうじゃなかったとしたら? 嫌な予感が頭を過ぎる。
それでも、中を確認しない事にはどうにもならず、その役目を私には任せられないと判断したのか小谷くんは自分が中を確認しに行くというのを、私は玄関前で見守る事しか出来なかった。
「……小谷くん、大丈夫?」
「……とりあえず、部屋には誰も居ないし、荒らされた様子も無さそうだ。入って来てよく確認して」
「うん、分かった」
中を確認した小谷くんに促され、私も中へと入る。
「どうだ? 家出る時と変わりない?
「……う、うん」
「じゃ、やっぱりかけ忘れただけじゃん?」
「そう、なのかな……」
中は特に荒らされた形跡もなく、室内に変わった様子が無いことからやっぱり私の不注意で鍵が開いていただけなのかもしれないという結論にたどり着く。
「ったく、危機感無さすぎ。今度はもっとよく確認しろよ」
「うん、ごめんね」
「いいけど。それじゃあ俺は部屋に戻る」
特に何も無かったとはいえ、私はやっぱり腑に落ちない。
(絶対、かけたはずなんだけどな……)
付け狙われたり怪しげな手紙が届いているこの状況下で、今まで以上に戸締りだけは気を付けていた筈なのに、鍵をかけ忘れるなんておかしいと頭の中がモヤモヤする。
「……小谷くん」
「ん?」
「私、やっぱり絶対かけ忘れなんてしてない」
どうにも腑に落ちなくてそう口にしたものの、
(って、だから何だよって話だよね……)
自分の発言に突っ込んだ私は、「ご、ごめん、やっぱり何でもない」と先程の言葉を無かった事にする。
「……窓は?」
「え?」
「窓の鍵は、きちんと締めた?」
「あ……そういえば、よく確認して無かった。二階だから大丈夫かなって」
「阿呆か。二階だから良いってモンでもねぇだろ。隣の空部屋の前に木があるし、そこから登れなくもねぇんだから」
そう指摘されて窓を確認してみると、案の定鍵は開いていた。
「締めて無かったみたい……もしかしてここから誰かが……」
「……まぁ、それは否定出来ねぇな」
「え!? ど、どうしよう」
「っつってもなぁ……何か盗られたとか荒らされてるとか壊されてるなら警察呼べるけど、確実に誰かが侵入したとも言えねぇし……」
「そうだよね」
やっぱり私には危機感が足りないのかもしれない。怖いけど、これからはより一層戸締りに気を付けて生活するしかない。
「ごめんね、いつもいつも迷惑かけて。これからは窓もきちんと確認するよ」
「そうだな、そうしてくれ」
「うん。それじゃあ、今日もありがとう。おやすみなさい」
「…………」
「小谷くん?」
私の不注意という事で話は済んだのでお礼を言って彼を見送ろうとするも、何故か動かない小谷くん。
そんな彼に声を掛けると、
「……家、来る?」
「え?」
まさかの言葉が返ってくる。
「一人じゃ心細いんだろ? 俺が此処に居ても良いけど、俺、自分の部屋の方が落ち着くし」
「で、でも……」
「平気なら別にいいけど、怖いからって夜中に叩き起されるのは勘弁」
「そ、そんな事はしないよ……」
「どーだか。で、どーする?」
小谷くんの提案に驚きはしたものの、正直有難い。だって、結局鍵のかけ忘れなのか窓から誰かが侵入したのかハッキリしないまま部屋に一人は少し怖いから。
ただ、いくら一度夜を共にした事はあると言えど、またお世話になるのもどうなのか。
(どうしよう、部屋に一人も怖いし……)
一分程悩んだ後、私は、
「お、お邪魔します……」
小谷くんの部屋にお邪魔する事を選んだのだ。