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「……寒」
夜風がひんやりと頬を撫でた。人気のない大学近くの通りを、ひまなつといるまは並んで歩いていた。
飲み会の帰り。サークル仲間と駅前で解散し、家の方向が同じだというだけの理由で、ふたりきりになった。
「おまえ、飲みすぎ」
いるまがぼそっと言う。ひまなつは睨み返した。
「うるせぇ、俺のことは放っとけ……。っ、あー、でも、頭ぐらぐらする……」
「ほら、言わんこっちゃねぇ」
いるまはため息をひとつつくと、ひまなつの肩に手を添えた。
「っ、触んな……! 大丈夫だっつってんだろ……」
「はいはい、足元ふらついてるくせによく言うわ。もういい、来いよ」
「は? ……どこに……」
「俺んち。近いから。介抱してやる」
「……はぁ!? おまえんち!? や、やだっ、やめ――」
「選択肢ないけど?」
キッパリと言われて、ひまなつは黙った。ほんのり赤く染まった頬は、酔いのせいだけじゃない。
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いるまの部屋はシンプルだった。ベッドとデスク、少し乱れた本棚。男の一人暮らしらしく、どこか無造作な雰囲気。
「ここ、座ってろ。水持ってくる」
「……チッ」
口では悪態をつきながらも、言われた通りベッドに腰を下ろす。いるまがキッチンで水を用意している間、ひまなつはぼんやりと彼の背中を見つめていた。
(なんで……こんなに、ドキドキすんだよ)
戻ってきたいるまが、ペットボトルを差し出す。
「飲め」
「……ありがと」
素直に受け取って口をつける。冷たい水が喉を潤し、少しだけ思考がクリアになった気がした……が。
その直後、バランスを崩してベッドに倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か……?」
「あー、くそ……気持ちわりぃ……っ……」
「ったく、寝ろ」
乱暴に毛布をかけてくれるその手が、妙に優しくて。ひまなつは思わず口にした。
「……おまえさ、なんでいつも……俺のこと、放っとかねぇの」
「は?」
「俺らってさ、なんかいつも一緒だけど、別に友達って感じでもねぇし……。正直、おまえのことムカつくし……でも、気づいたら側にいて……っ」
「……」
沈黙のあと、ベッドに手をついたいるまの顔が、ぐっと近づく。
「誘ってんの?」
「……ちがっ、そんなつもりじゃ……」
「でも、止まんねぇよ。おまえ、今……すげぇ、かわいい顔してるから」
「っ、や、ま……」
唇が重なる。強引で、でもどこか熱に浮かされたようなキス。舌が触れた瞬間、全身が火照って、思考がとけていく。
(なんで、こんな……)
抵抗する気力もなくて。触れられるたび、酔いとは違う熱が広がった。