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時は少しだけ遡り、ティナ達が日本へ向かっている頃、合衆国首都ワシントンD.C.のとある工事現場。新たな高層ビルが建設されており、現場には大勢の作業員が行き交い、作業を補助する無数の工作ドローンが飛び交っていた。
この建設現場にもドローンを活用する方針は作業効率の飛躍的な向上と、人では出来ないような細かい作業が可能となり建設業界に革命を起こした。今となっては世界中の建設業で利用されており、半自動で建物が建設される時代となっている。
しかし、人が産み出したものには必ず欠陥が発生するものであり。
「危ない!」
「坊主!逃げろーーッッ!!」
資材である鉄筋を満載していたドローンが姿勢を崩して墜落しつつあり、その落下地点である歩道にはまだ幼い男の子が歩いていた。作業員達の叫びも虚しく、ドローンは墜落。凄惨な悲劇が発生したのを確信し、誰もが表情を曇らせた。だが。
「大丈夫かい?坊や」
「う、うんっ……」
「そうか、間に合って良かったよ。一人で出歩くのは感心しないな。次からは親と一緒に出掛けるんだよ。それと、工事現場には近付いちゃいけない。危ないからね。良いかい?」
「うん……」
「よし、良い子だ」
まるでプロレスラーやボディービルダーのように鍛え上げられた逞しい肉体を持つスキンヘッドの男性が片手でドローンを支え、潰されそうになっていた少年を救助したのである。
「おいあれを見てみろよ!」
「信じられねぇ!あのオッサンはスーパーマンかよ!?」
「いや待て!あれってウミボウズじゃねぇか!?」
「ウミボウズって、あのヒーローの!?」
「ウミボウズーーッッ!!」
周りの野次馬達の声が聞こえ、男性は困ったような笑みを浮かべた後、少年の頭を優しく撫でてドローンをそっと地面に下ろして。
「ふんっ!」
人間離れした跳躍力でビルを駆け上がり、そして跳び去っていった。もちろん合衆国中で大ニュースになったのは言うまでもない。
「『ウミボウズ、今度は幼い少年の命を救う』、ね。これで人助けは何件目かしら?ティナちゃんのこと言えないんじゃない?兄さん」
異星人対策室のジョン=ケラーだ。昨日久しぶりの休暇で運動のために散歩していたら、少年を救うことになってしまった。この身体になった時は戸惑ったし、それは今も変わらないが……カレンが誘拐された時、スーパーマーケット事件の時、そして昨日のような場面に遭遇した時は心からティナに感謝している。まあ、何かと巻き込まれる性質なのは彼女と似ているがね。
ここは異星人対策室本部ビルの四階にある私の執務室だ。とは言え小市民である私に豪勢な趣味など無い。高価な調度品などは纏めて応接室に配置して、内装も質素なものだ。高級品に囲まれた生活等落ち着かない。
執務室にあるソファーに座り今朝のトップニュースを見ながら私をからかってくる妹のメリルに、私は苦笑いを返した。
「否定は出来ないな。ただ、目の前の命に危険が迫り、それを防ぐ手立てが自分にはある。なら、迷う必要があるのかい?」
これは私の本心であり、そして恐らくティナの本質だろう。私達は似た者同士なのだから。
「まさしくヒーローの台詞じゃない。しかも素なんだから質が悪い。ティナちゃんとの交流の鍵が実は合衆国ではなく、ジョン=ケラーと言う個人だなんて知られたら大変なことになりそうね?」
「はははっ、私のことなど誰も気にしないさ。ティナの想いに答えてあげれば誰でも彼女と仲良くなれる。政治家の皆さんは難しく考えすぎなのさ」
ティナは善性の塊だ。善意に突っ走って暴走してしまうこともあるが、相手に不利益を与えるような真似は絶対にしない。それだけは断言出来る。
彼女が行っているのは外交ではなく交流だ。そこを間違えるから妙な動きをすることになるんだ。
「兄さんがファーストコンダクターだったのは、地球にとってこの上ない幸運ね。いえ、不幸なのかしら?」
「ティナは色々必死なんだよ。だからどうしてもミスをしてしまう。しかし、実害はないんだから問題ないさ」
私やメリル、カレン、ミスター朝霧については……まあ、ノーコメントだ。少なくとも私は出来ることが増えた。カレンも毎日が楽しそうだ。
強いて不利益を言えば、私の頭部が僧侶にジョブチェンジを果たしてしまったことくらいだろう。
些細なことさ。
その日の夜、ミスター朝霧から緊急連絡を受けた。一つは日本の議会で議員の一人が失礼な言動を取り、ティナの妹さんであるとされているティリス嬢を泣かせてしまったこと。
地球の運命を左右するような大問題であるが、事前にティナからティリス嬢の正体を知らされていたし、大事にはしないと連絡を受けているからそちらは信じるしかない。
だが、私を驚かせたのは直後に起きた交通事故にティナが介入。大勢の命を救う代わりに怪我を負ったと言うものだ。
命に別状はないと連絡が来て、やきもきしながらもティナの回復を待ち、深夜になってからようやく連絡が取れた。日本の医師達が手当てし、そしてフェルによって無事に回復したようだ。
何はともあれ、彼女が無事で良かったよ。
それから少しティナと言葉を交わし、直ぐに再会できるからと切ろうとした直後にとんでもない爆弾を投げてきた。
深夜ではあったが私は直ちにホワイトハウスへ連絡。ハリソン大統領も起きていた様子で直ぐに会えた。そしてティナの話を伝えて。
「地球の首長へ宛てたメッセージ。そんなものを我が国へ?」
「間違いありません。ティナの口ぶりからして、そのメッセージは大統領。貴方に手渡されるでしょう」
「……今から変更をお願いできないかな?例えば国連の場でとか」
「ティナの要望を拒めば、アリアやフェルがどう動くか分かりませんよ。それに、ティナはお世話になった貴方への礼儀だと考えていますから」
「それによって発生する各国からのイザコザを考えたら……胃が痛くなってくるよ」
「新製品の胃薬があります。ちょっと強めですが」
「ああ、ケラー室長愛用のものなら間違いはないだろうな……ティナ達を迎える準備を頼むよ。それと、新たなアード人の歓迎もね」
「お任せを」
妙だな、知らせただけなのに仕事が増えてしまったぞ。出迎えの準備まで異星人対策室に任せるおつもりらしい。
……新製品では足りんな。もう少し強目の奴を貰おう。