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かな
661
snjn
同棲してます
肌色未遂です
またダラダラ長いです、すみません
収録の合間の休憩中、スマホに映ってる「注文を確定する」をタップした。ふーっ…とつい深く息を吐いた。買ってしまった、少しだけ罪悪感が…しかしこれは恋人の勇斗のためでもあるのだ。
今朝、暑苦しさで目が覚めた。エアコンは入れて寝たはずなのにと思いつつすぐに暑さの原因は自分に抱きついて寝ている勇斗だとわかった。ドラマの撮影で遅くなると連絡があったので、先に寝ていた。勇斗の方へ向くと目の下にできた隈を見てギョッとした。余程疲れていたのだろう、珍しく深く眠っているのか寝息を立てていた。これはいけない。こんな疲労困憊な恋人放ってはおけない。
明日はお互い仕事だが、明後日はふたりで数ヶ月ぶりにオフが重なっていた。勇斗はデートプランを考えていたようだが、出掛けてる場合ではない。日本人の平均睡眠時間は約7時間とは言われてるが、こういう仕事をしてると不規則な生活になってしまうし、まとまった睡眠なんて勇斗みたいな演技の仕事もあるようなハードスケジュールじゃ取れることはあまりない。きっと寝ろと言っても寝るような人じゃない。言っても聞かないなら……強制的に眠らせるしかない。
「……ん……じんと…?」
「あ、ごめんっ、…起こしちゃった?」
もぞもぞと抱きついている勇斗が動き出した。目を擦って、まだ眠そうだった。まだ寝ててもいいのに…
「んーん…ちょうど起きようと思ってた」
寝起きのぽやぽやしてる勇斗が可愛くて心臓がきゅんと鳴る。普段かっこいいのはもちろんだが、可愛い勇斗も好き…
「…ひゃっ…」
服の中に大きな手が入ってくる。つぅー…と肌をなぞってくすぐったい。
「…んふ、はやとっ、くすぐったぃ…」
「おはよう、仁人♡」
「ぁッ、ん、おはよ……」
ゴリっとお尻の割れ目辺りに感じる硬いもの…嘘でしょ…?
「えっ!…なんで、」
「仁人が可愛くて♡1回だけしよ?」
「むりむり、今日5人での仕事でしょ??やめとこ??」
逃げようとしたらがっしり腕の中に包まれてできない。無理だとわかってても身を捩らせる。
「だめだよ勇斗、せめて帰ってきてから…んむっ…」
唇が重なる。勇斗の舌先が俺の唇をぺろっと舐めてきて開いた隙間を狙ってねじ込まれる。
勇斗とのキスは気持ち良くって頭がぼーっとしてきちゃう。あーあ、結局勇斗に流されちゃう。本当は嫌じゃないけどね。
唇が離れていく。自分の服を胸の上まで捲って、勇斗の手を掴んで胸の辺りまで持っていく。
「…1回だけね」
「…………頑張る」
「なにその間は」
「理性と戦ってるんだよ!そんな可愛いことするんじゃねぇよ!」
「してないわ!」
「無自覚が1番怖くてタチ悪りぃからな!」
ぎゃあぎゃあ言い合いもあったが、結局マネージャー(2人のこと認知済み)が迎えに来るギリギリまで愛し合った。
※
そして冒頭に戻る。
ズキンと時折重い痛みが走る腰。つい眉間に皺が寄ってしまう。朝からあんな激しくするもんだから、少し体も怠い。でも収録中等ルンルンご機嫌な勇斗の姿を見ればまぁいっかとなる。結局のところ自分も勇斗に甘いのだ。
今朝見た隈は上手くメイクのお陰で隠されている。先ほどネットで購入したのは
睡眠薬は流石に買えないので、考えた結果、飲むと睡眠の質が高まる成分が入ってるという口コミの評価が高めのよくあるサプリメントのようなものだった。考えた作戦は実に簡単。このサプリを勇斗に飲んでもらうのだ。ただすんなり飲んでくれるとは思っていない。だからバレないようになにかに混ぜて渡せばいいのだ。ただ勘が尋常ではないくらい鋭いため気をつけなければいけない。
明日は昼頃にはグループでの仕事が終わるので頼んだものは昼頃迄には届くようにしといた。なので実行は明日の夜。
何度も言うがこれは勇斗のためである。
※
「お疲れ様でした!」
翌日、撮影が終わると勇斗は少し慌てた様子で次の現場へ向かう準備をしていた。まだまだドラマの撮影は続くらしい。
「あ、仁人!」
勇斗がバタバタと小走りで近づいてくる。チラッと一瞬だけ誰もいないか周囲を確認してると、あっという間に軽くキスをされた。
「……ばっ、誰かに見られたら…」
「大丈夫だって、チャージできたわ!」
「……ん」
「そんな寂しそうな顔すんなって…押し倒したくなるだろ」
「そんな顔してねぇよ!早く行けって!」
「自分じゃ気づかないもんなんだよなぁ〜」
じゃあなーと手を振りながら勇斗は行ってしまった。シン…と静かになる楽屋に寂しさを覚える。他のメンバーもみんな次の現場へとっくに向かっていったのだ。
「……帰るか」
家に到着しポストを開けると、注文したものが投函されていた。いけないことをしてる気分になって不思議な感じだった。1日1回就寝前3粒服用。パッケージ裏にはそう説明書きがされていた。3粒出して、すり鉢なんてもんはないから、延べ棒を使ってなんとか押し潰して粉末状にして溶けやすくしておく。錠剤にするんじゃなかったと後悔した。
とりあえず、勇斗が帰ってきても見つからないようにキッチンの普段あまり使わないような物が入ってる引き出しに隠した。隙を狙って、飲み物でも食べ物でも溶かしたり混ぜたりでもしてみよう。
でも、本当にこんなことしてもいいのかな、とふと考える。
勇斗を騙してるようなこと…バレたら怒るかな…呆れられるかな…やっぱりやめようかな…
頭に思い浮かんだのは、疲労感漂う勇斗の姿。
いや、一度やるって決めたことは曲げない。たくさん寝て、元気でいてほしいから。
※
時刻は0時少し前。2人分の夕飯を作り終えて、洗い物を済ませて少しゆっくりしていたところ玄関の鍵が開く音がした。ビクッと体が跳ねる。ついにその時がきたのだ。バタンと玄関が閉まる音。そして廊下を歩く足音。段々近づいてくるとわかる物音たちに鼓動が増す。
「仁人ぉー、起きてる?」
「…いるよ、おかえり」
「ん、ただいま」
仕事を終えた勇斗が帰宅した。
カバンをソファーに置いてさっぱりしたいからってそのまま風呂に入ってくるとのこと。
さて、どうしよう。
とりあえず今日は飲み物に入れて溶かしてみよう。勇斗が風呂に入ったのを確認し、急いでキッチンに向かう。隠していたものを出してみる。本当は水で飲む方がいいかもしれないが、それだと絶対にバレる。グラスにコーラを注いで粉末状にしたサプリメントを少し震える手で入れる。箸で溶けるように混ぜれば、割とすぐに溶けて消えていった。
やがてシャワー音がとまり、浴室のドアが開く音が聞こえた。リビングのテーブルに作っておいたご飯たちを並べておく。さっきの飲み物も一緒に。
風呂上がりの勇斗がリビングに来た。
「あっちー…おっ美味しそう」
「一緒に食べよ」
「待っててくれたの?ありがと」
「「いただきます」」
食事中、勇斗が色々話をしてくれてるが正直あまり耳に入らない。曖昧に「へぇ」とか「うん」とかつい適当な返事になってしまう。
「仁人、なんか今日疲れてる?」
「へ!?そ、そんなこと…ないよ」
「そうか?」
勇斗がグラスに手をかける。ドクンと心臓が跳ねた。カランッと氷が鳴る。グラスに口つけて、飲み物を含んで、飲み込んだのを確認した。
「(の、飲んじゃった…)」
その様子をずっと見つめていたことに気づいたようで「そんな見つめられちゃ恥ずいんだけど」と照れていた。
「ごめんごめん」
「明日仁人と行きたいところがあるんだよね」
「ん〜どこ?服屋?」
「あは、明日のお楽しみ」
デートだと楽しみにしてるのか小さく笑う勇斗に少し罪悪感。
自分としてはオフはゆっくり寝て休んで欲しい。もどかしい気持ちになる。
「なんか今日すげぇ眠いなぁ」
「…だ、大丈夫?」
ご飯も済んでソファーで並んで座りまったりしているとふと勇斗が呟いた。
珍しく肩に頭をこてんとのせてきて、瞼も重そうにしている。
「もう寝よ?」
「ん〜でもせっかくだから仁人といちゃいちゃしたいんだよなぁ」
「ここで寝落ちされてもベッドまで運べないから…」
「え〜ベッドでいちゃいちゃならいいの?♡えっち♡」
「そういう意味じゃなくて…」
ふたりで歯磨きを終わらせて、もうウトウトしつつある勇斗の手を引いて寝室へきた。早々にベッドへダイブをする。余程眠たいのだろう。
「じんとぉ〜ごめん先寝ちゃうかも…」
「全然いいよ、疲れてるでしょ、たくさん寝な」
「んー……」
力強く引っ張られ、抱き寄せられる。
勇斗に包まれて、そのぬくもりに安心して自分も眠くなってくる。ずっと抱きしめていて欲しいくらい。
耳元ですぅすぅ…と寝息が聞こえた。
もう寝ちゃった…
目の前の勇斗の整った顔を見る。
目の下にうっすら残ってる隈を指先で撫でた。頬、そして唇に触れる。
ぴくりとも動かず寝ているものだから、その唇に恐る恐る自分のを重ねた。
「………恥ず、」
顔に熱が集中してくるのがわかって、勇斗を見ることができなくて厚い胸板に自分の顔を押し付ける。トクントクン…聞こえる心臓の音が心地良くて目を閉じた。
※
「やっっば!!寝過ぎた!!!」
昼の12時過ぎ、寝室から飛び出してきた勇斗は焦った様子だった。
「おはよう、の時間は過ぎちゃったね」
「ごめん仁人…めちゃくちゃ寝ちゃった…」
「よく寝てたね、声掛けたけど全然起きなくて」
「うわ〜マジか…普段こんな寝ることないのに…」
えらい落ち込んでる様子で、頭を抱えていた。聞くと午前中から自分と出掛けたかったらしい。昨日も言っていたが、行きたいお店があったようだ。
「でもたくさん寝ててスッキリした?」
「ん〜そうだな、俺にしちゃよく寝たな」
「そう…なら良かった」
ホッと安心した様子を見て勇斗は?マークを浮かべているような表情をしていた。
結局その日はまったりのんびり2人で過ごせることができた。これはこれで、幸せな日だった。
※
あの日から1ヶ月程経ったある日、また隈はできてないものの調子が悪そうな勇斗が居た。幾つかの特番の音楽番組、雑誌の撮影、YouTube撮影…等ハードスケジュールはまだまだ続いているもので自分も少し疲れていた。でもきっと勇斗の方が大変だろう。でも幸い、明日は久しぶりにふたりのオフ日が重なっていた。同棲しているとはいえ、なかなかすれ違う日々が続いていたので嬉しかった。
「今日は俺の方が少し遅いかも、勇斗寝ててもいいからね?」
「寝るわけないじゃーん、ちゃんと起きて待ってるよ♡」
オフ日が一緒なのが嬉しいのか分かりやすくご機嫌だったが、表情は疲労感でいっぱいそうだった。今日もまた使ってみようかな…
※
「ただいま」
少し収録が押したため予定していた時間より遅めに帰宅した。テレビ局を出た時勇斗にメッセージを送ったが既読が珍しく付かなかった。
「勇斗?」
返事はなかった。リビングへ続く廊下を歩いてドアを開ける。てっきり寝落ちしてるかともいきや、勇斗はソファーで足を組んで台本読みをしていた。
一瞬だけ、目が合った。
なんだかいつもの優しい目つきと違って鋭い眼光に怯む。
「た、ただいま…?」
思わず声が小さくなってしまう。
役に成り切ってるのか?勇斗は視線を台本に向ける。
「おかえり仁人」
先程と打って変わって今度はいつもの自分に向ける優しい笑みを浮かべる勇斗だった。
「腹減った?Uberで頼んでおいたから食べようぜ」
「…うん」
でもどこかいつもと違う。
長く付き合っているからわかる。
………怒ってるように思えた。
「(ーーーまさか)」
ドッと冷や汗が出てくる。
いやでも、バレないような場所に隠したからきっと平気だ。普段勇斗はキッチンに居ることは少ないし。
「さ、先に風呂入ってくる…」
嫌な汗を洗い流したくてすぐに風呂場へ駆け込んだ。落ち着け、落ち着けと言い聞かせる。熱めのシャワーを頭から浴びた。こんな気持ちになるなら、最初からやらなければよかった。
風呂から出るとテーブルには頼んでおいたものが並べられてた。勇斗は自分が出てくるのを待ってくれてて「早く食べようぜ」といつもの表情でそう言った。
あれ?気のせいだったのかな。
普段の勇斗なものだから、きっと気のせいかもしれない。
「は、勇斗、何か飲む?」
「ん?んーコーラでも飲もうかな」
「じゃあ俺持ってくるよ」
「さんきゅー」
懲りずにまた1ヶ月同じことをしようとする。
チラチラ勇斗の様子を見ながらあらかじめ粉末状にしといたサプリメントを引き出しから素早く取って飲み物に溶かした。カラン、とまた氷同士がぶつかる音が鳴った。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
「お腹すいた、食べよ?」
「あはは、ねぇ、その前にさ、仁人」
「コレに何入れたの?」
「……え、?」
目の前に座る勇斗は伏せ目がちに微笑みながら聞いてきた。
「なに、急にどうしたの…」
バクバクと心臓がうるさい。
自分のグラスを持つ手が微かに震える。
「俺、キッチンで探し物してたらさ、たまたまみっけちゃったんだよね…睡眠用のサプリメント…この前の異常な眠気って、これのせい?」
「……ッあ、…」
静まり返る空間にカランッと氷が溶けて鳴った。
「…楽しい?こんなことして」
冷たく笑う勇斗の瞳に光はなかった。
「……たのしい?」
こんなこと?そんなわけない。
俺は勇斗のためにーー……
「…俺は、」
「………なに。言い訳?」
さっきのような鋭い眼光。
怖い。敵意剥き出しなその瞳に見つめられたら、何も言えなくなってしまう。
こんな勇斗見るの初めてだった。
テーブルに置いてあるサプリが溶けているグラスを勇斗が手に取った。それを飲もうとするので全力で腕にしがみつくようにして止める。
「ま、まって!飲まないで!」
「なんで?なにも入ってないんだろ?」
「ーーーっ、いれた!勇斗がよく寝れるように、サプリ、入れたの…」
「……俺のこと、騙してたの?」
「騙してたわけじゃ…勇斗が疲れてるかなって思って…だから……」
「余計なお世話だよ」
ガンッと鈍器に殴られたような気がした。掴んでいた手を振り払われた。
勇斗は持っていたグラスを持ったまま、キッチンへ向かってシンクへ全部中身を捨てた。
「……は、…はやと…」
「今、仁人の顔見たくない。見たら酷い言葉、言いそう」
ずっと俯いたままで、こっちを見てくれない。泣くにも泣けなかった。そんな資格自分にはない、勇斗の気持ちを考えないで傷つけたのだ。
「……ごめんなさい」
そのまま家を飛び出した。体が勝手に動いてた。
エレベーターを降りて、マンションを出て、ただひたすら暗い夜道を歩いた。
やがて歩けば歩くほど、涙がぼろぼろ溢れてきた。今が夜でよかった。
こんな男が、夜道で大泣きしてたらみんなびっくりしちゃうだろう。
「……ぅうっ、………」
もう誰もいない小さい公園のベンチに座り込む。拭っても拭っても溢れ出てくるものはとまらなかった。喉元が苦しい。
どうしたらいいかわからなかった。
勇斗のことを想ってした行動が、本人にとってはとても迷惑だったということだろう。
あの見たことがない冷たい瞳はもう思い出したくない。
泣いていたら、頭が冴えてきた。あの家にはしばらく帰らないようにしよう。顔を見たくないとまで言われてしまったものだから、その通りにしよう。
とりあえず、財布とかスマホとかなにも持ってこないまま出てきたから1度取りに戻らなければいけない。
…こんなことならいっその事、別れてしまった方が勇斗のためになるのかな。
来た道を戻って玄関前に着いた。
鍵、掛けられちゃったかな…震える手でドアノブを引けばカチャリと音がした。
「(よかった…開いてた)」
なるべく音を立てないように、ゆっくりゆっくり進む。リビングへ向かえば、居ると思っていた勇斗の姿が見当たらない。生活音がなにもしなくて、もしかして家の中にはいないのかもしれない。
コンビニとか行ったのかな…今がチャンスかも。
財布、スマホ、数日分の衣類、下着、その他必要なもの…
適当に急いでカバンに詰め込む。
しばらくはホテルにでも泊まろうかな
荷物を抱え、再び家を出た。
夜道をとぼとぼ歩く。どこに行こう。
夜遅い時間とはいえ、まだ街中が明るい東京。眩しいくらいキラキラしているのに独り取り残された気分になった。
「………ッ…!」
「…え?」
遠くの方で呼ばれた気がした。
周りを見回しても、誰もいない。
「……んと!……仁人っ!!!」
「……っあ…」
反対車線側の歩道に勇斗がいた。
大きい声で一生懸命名前を呼んでくれてる。まさか、探しにきてくれた?
「仁人、動くな!そこにいろ!!」
道路を突っ切って渡ろうとしてくるが、車通りが多くてなかなか進めないそうだった。
「あ……ごめん、勇斗…」
「…くそっ、…あ!待て!行くな!」
仁人!と制止させようとする声を振り切って走った。通ったこともない道を、街を泣きながら走った。
「はぁ、はぁっ……げほっ…」
流石にこれだけ走れば追いつけないだろう。足がもつれそうになって、路地裏の所に少し入って立ち止まった。
胸が苦しい。走ったせいなのか、勇斗の顔を見たからなのか。
スマホがさっきからずっと震えている。チラッと見たが、着信が勇斗から何十件と、メッセージが何通かきていた。声を聞くのも、メッセージを見るのも怖くて電源を落とした。もうなにも考えたくない。荷物を抱えてしゃがみ込んだ。呼吸が落ち着くまで、こうしていよう。
こうなったのは全部自分のせいだ。
※
翌日のオフ日は近くにあったビジネスホテルでなにもせずただボーッと過ごした。マネージャーとは連絡は取らなければいけないので電源をつけると、相変わらず勇斗から通知と着信は時折入ってるようだった。「お願い電話に出て」というのが新しいメッセージだった。
『どこにいる』
『誰かといるの?』
『俺が悪かった』
『迎えに行くから場所教えて』
『心配だから、お願い、返事して』
『仁人』
勇斗からのメッセージに既読をつけた。
怒ってるかと思いきや、心配するメッセージばかりで泣きたくなった。
悪いのは俺なのに。
優しくされると気持ちが揺らぐ。
でも、ごめん。
文字を打った。それはすぐに打ち終わって送信ボタンを押した。
『勇斗のこと傷つけてごめんなさい』
『別れよう』
※
家を出てってから3日が経った。
あのメッセージを送ってから勇斗からの連絡はパタリと止んでしまった。
その間相変わらずホテルで寝泊まりをしていて、タイミングが良いのかグループでの仕事はその間は無く、個人の仕事ばかりで勇斗に会う機会がなかった。逆に今はそれがありがたかった。だがその状況がずっと続くわけもなく、明日の午後からグループでの雑誌の撮影がスケジュールで入ってた。
「お疲れ様です、家まで送りますね」
「ありがとうございます、お願いします」
今日は朝から個人での雑誌の撮影、インタビューの仕事だったが昼過ぎに終わった。
もう今日の仕事は終わりで、早々に帰ることにした。自分たちの関係を知っているマネージャーにふたりが住んでいるマンションまで送ってってもらう。しかし別居状態なのはマネージャーは知らない。私情で振り回すのは迷惑だと思い、特に伝えてはいない。とりあえずマンションまで送ってもらって、そこから今寝泊まりしているホテルまで歩いている。勇斗に会わないかハラハラしていたが、案外会わないものだ。
「吉田くん、着きましたよ」
「すみません、ありがとうございます」
「あれ?佐野くんだ」
「……えっ」
ビクッと体が跳ねる。
運転しているマネージャーが笑顔で窓の向こう側に向かって手を振っていた。
その視線の先に目を向ければ、オフなのか部屋着の格好をしておりバレないようにマスクをして手を軽く上げた勇斗がいた。
血の気が引く感覚。
体が固まる。思うように体が動かない。
「(どうして…)」
「吉田くん、どうしたの?降りないの?」
「(嫌だ、降りたくない、勇斗が怖い)」
マネージャーが気を利かせて車のスライドドアを開けた。
勇斗が近づいてくる。目を合わすことができなくて俯いてしまう。
「仁人」
驚くほど優しい声だった。
その声色に顔を上げると、目が合った。
涙が出そうだった。
3日ぶりの勇斗は少し痩せていた。
目は少し充血していて、マスク越しでもわかるくらい顔色もあまり良くないように感じた。
「じゃあ吉田くん、明日迎えにくる時連絡するから」
「……っあ、…は、はい…」
降りざるをえない状況に重い足をうごかす。車を降りると、早々にマネージャーが乗った送迎用の車は行ってしまった。
お互い無言で、2人の間に気まずい空気が流れる。
「………ごめん、俺行くから…」
「どこに?」
「…っ、どこでもいいでしょ……」
「いいわけないだろ、帰るんだろ、俺たちの家に」
「……もう俺ら終わってるから」
手首を強く掴まれる。
振り解こうと思っても力の強さでなんか
勇斗に勝てるわけもなく。
「いたい、」
「…ごめん」
すぐに手を離される。
「俺は別れたつもりはない。仁人お願い、俺たち、きちんと話し合おう」
※
結局、昼間だというのもあり近所の人に身バレしそうになったのでふたりで急いで家に戻ってしまった。
家に入った。出ていったこの家にまた戻ってしまった。せっかくの決意が揺らいでしまう。リビングに続く廊下で先に入った勇斗が突然こっちに振り返り手を引かれ抱きしめられた。ぎゅっとなにかを確かめるかのように強く。
「ごめん」
耳元で小さく呟くかのような、勇斗の弱々しい言葉だった。
「仁人に酷いことをした。あんなことするつもりも、言うつもりもなかった。なのに、冷静でいることができなかった。
最低だよな…」
「…違う、勇斗はなにも悪くない。俺の方が間違ってたんだ、勇斗のこと、考えてるようで結局自分の気持ちを押し付けるようなことして、騙したの…ごめん…」
「でも俺のこと考えてしてくれたんでしょ?そりゃあビックリしたけど…仁人が家を出て行った時、気が気じゃなかった。あの後追いかけたけど、どんだけ探しても仁人はいなくて…見つけたと思ったら逃げられて……俺、なんてことしたんだろうってものすごく後悔した。俺は睡眠なんて削ってでもいいから、仁人との時間を大切にしたいんだ。ふたりで一緒に過ごせるのが俺の幸せなんだよ」
ぽろり、ぽろりと勇斗が喋るたびに涙が溢れていく。
肩口が濡れていることに気づく「えっ、えっ」と慌てた様子だった。
「俺、またなんかしちゃった?」
眉が下がって心配そうな顔をして覗き込んでくる。
ちがう、ちがうよ
もっと怒ってもいいはずなのに、泣いてると心配してくれる。やっぱり勇斗は優しい。欲しい言葉をくれて安心させてくれる。
そういうところが、大好き。
※
「そういえば、仁人と行きたかったお店なんだけどさ」
ふたりでベッドでくっついて向かい合って寝転がる。絡めあって繋いだ手があたたかい。勇斗と触れ合っているところが全て心地良い。
「指輪、見に行こうと思ってたんだ」
「指輪…?」
「そう、ちゃんとしたやつ」
「……ッ……」
「仁人?……泣いてるの?」
親指で目頭から溢れる涙を拭ってくれた。
「仁人のこと泣かせてばっかりだな、
俺」
「本当だよ……」
「今度こそ行こうな」
勇斗の腕の中包まれて聞こえてきた寝息に安心して、目を閉じて眠りについた。
情けも過ぐれば仇となる 終
読んでいただきありがとうございました!
だら〜と小説が長くなってしまうのが悩みです
コメント
4件
さっき歯磨きしながら変な踊りしてたら歯ブラシがガンって歯に当たってまじで痛くて萎えてたんですけどこの作品のおかげでまじで気分上がりました。 最高ですありがとうございます。
長いと真剣に読めるから大好きです♡♡ 感動系も大好き💞ᩚ
ああ、もう…胸がぎゅうぎゅうになりました。仁人くんが勇斗くんのことを思ってやったことが、あんな風にすれ違っちゃうなんて切なかったです。でも、お互いを想う気持ちはちゃんと通じ合ってるんだなって、最後のベッドでのシーンでほっとしました。特に「指輪、見に行こうと思ってたんだ」って言葉には泣きそうになりました。細かい仕草や感情の描写がとても丁寧で、ふたりの距離感が伝わってくる素敵なお話でした。ありがとうございます。