「……っ、ん、あっ、んん……っ……元貴、だめ……そこ、っ……っ!」
 
 
 
 微かに開いたカーテンの隙間から、確かに聞こえた。
いつか夜ごとに聞いてきた──副作用に苦しむ藤澤の声。
それに混じって──もう一つの、信じられない声が重なっていた。
 
 
 
 「涼ちゃん……っ、涼ちゃん……!」
 
 
 
 (……嘘、だろ……)
 
 
 
 若井は、固まったまま立ち尽くしていた。
最近「もう大丈夫だから」と言っていた藤澤。
だけど今日もまた──副作用に苦しんでいた。
 
 
 
 (……何で、アイツが……)
 
 
 
 夜の静寂に、ベッドの軋む音と、甘い吐息が溶け込んでいく。
信じたくなかった。
けれど確かに、自分の目がそれを映している。
 カーテンの隙間から漏れる月明かりが、ベッドに絡む2人を照らしていた。
汗ばんだ肌が重なり、切なげな藤澤の声に、大森が静かに応えている。
 
 
 
 (副作用を……癒してる? いや、でも……あれは……)
 
 
 
 かつて自分もそうだった。
藤澤が耐え切れず震える夜──
彼の背中を抱き、額に浮いた汗を指先で拭い、ただ必死に欲を逸らした。
 
 
 
 (……でも、いつもギリギリだった。あのとき……)
 
 
 
 藤澤が泣きながら 「お願い、もう少しだけ……」と懇願した夜。
 
 
 
 
 (俺も……我慢してた)
 
 
 
 藤澤を傷つけたくなくて、欲を抑えて、ただ“治療”の名のもとに徹した。
それなのに今──
目の前で、大森が藤澤に唇を這わせ、腰を揺らしながら名を囁いている。
 
 
 
 「……元貴……そこ、すごい、ぃ……っ、もうっ……、だめ……!」
 「我慢しなくていい……全部、俺に見せて」
 
 
 
 その一言が、若井の中の糸を切った。
 
 
 
 (……ずるいだろ)
 
 
 
 ガチャ。
 鍵はかかっていなかった。
ゆっくりと、部屋の扉が開かれる。
大森がゆるやかに振り向く。
 
 
 
 「……若井……?」
 
 
 
 目が合った。
ベッドの上、大森に抱かれてぐったりと横たわる藤澤が、焦点の合わない瞳でこちらを見つめている。
唇は震え、白く染まった太腿が、かすかに痙攣していた。
 
 
 
 「っ……わ、か……い……?」
 
 
 
 若井は、 静かに扉を閉める。
 
 
 
 「……ごめん。見るつもりなんてなかった」
 「……いや、俺のほうこそ……」
 
 
 
 大森が動こうとすると、若井は首を振った。
 
 
 
 「……もう、我慢できない」
 
 
 
 その瞳に宿るのは、確かな決意。
欲望ではなく、愛しさと、抑えきれなかった渇き。
 
 
 
 「……副作用のせいってわかっててもさ……
涼ちゃんが喘ぐ声、俺ずっと聴いてきてさ。
我慢、してた。毎回、してたんだよ」
 「若井……」
 
 
 
 若井はベッドの側で膝をつき、藤澤の頬に手を伸ばす。
熱に浮かされたその顔が、触れられた指に反応するように震えた。
 
 
 
 「涼ちゃん……ダメなら、止めて。けど……本当の気持ちを、俺も……」
 「……嫌じゃ、ないよ……っ」
 
 
 
 藤澤が、かすれた声で応えた。
大森がそっと場所を譲り、若井が藤澤の指を絡め取る。
 
 
 
 「お前が苦しいとき、そばにいたいって……ずっと思ってた」
 
 
 
 指先が、藤澤の胸元へとゆっくり下っていく。
ぴくんと跳ねる肌。
震える吐息。
 
 
 
 「今夜は……涼ちゃんを、2人で癒してもいいか?」
 
 
 
 その言葉に、藤澤は静かに頷いた。
 こうして──
抑えきれない感情が、3人を繋げていく夜が始まった。
 
 
 
 
 
 
 
コメント
4件
めっちゃいい!! まさかの3P!?超絶嬉しい!! あと1話でいつものペースにもどる! めちゃくちゃ続きが気になる!!
あー、最高。最高すぎる。 昨日、学校の文化祭で、今日はこの作品を読めて…、私、最高です!幸せです!! この短編集に出会えて、良かったです! (これ書くのがお決まりになってきましたが…)いつもお忙しい中、更新ありがとうございます!次のお話も楽しみにしてます!