テラーノベル
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私たちはそれ以上言葉を交わさず、少し距離を空けて、雨の中を歩いた。
ヒールは脱げ、私は裸足だった。
光は自分の上着を私に貸そうとしたけれど、今の私にはそれを受け取る資格さえない気がして、首を振った。
アパートに戻り、それぞれのドアの前に立つ。
「……風邪、ひくなよ」
「……日比谷くんも」
お互いに「おやすみ」を言うこともできず、別々のドアを閉めた。
壁を隔てた向こう側で、光が大きなため息をつくのが聞こえた。
私は玄関で座り込み、泥だらけになったハイヒールを見つめた。
恋なんて呼べるほど、私たちはまだ近くない。
でも、もう赤の他人には戻れない。
完璧な自分を失った代わりに、私は光という「消えない痛み」を胸に刻んでいた。
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