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#⛄️
kaede🍁
47,545
一年ぶりに戻ってきた家は。
何も変わっていなかった。
「……。」
玄関に立った阿部は、しばらく動けなかった。
靴箱。
廊下。
リビングへ続く扉。
全部。
覚えている。
「おかえり、あべちゃん。」
後ろから聞こえた声に。
胸がきゅっとなる。
「……ただいま。」
一年ぶりに。
言えた。
目黒が嬉しそうに笑った。
それだけで。
阿部はまた泣きそうになった。
ただし。
感動に浸っていられたのは。
ほんの数分だった。
「こちらでよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
次々と。
花が運び込まれてくる。
「……。」
阿部はリビングで呆然と眺めていた。
薔薇。
ガーベラ。
カーネーション。
ユリ。
季節の小花。
鉢植えまで。
今日、店頭に並んでいた花が。
ほぼそのまま。
目黒の家へ移動してきている。
「めめ。」
「ん?」
「本当に全部買ったんだね。」
「買うって言ったじゃん。」
「冗談だと思ってた。」
「なんで?」
「普通、花屋一軒分の花買わないから。」
「そうなの?」
「そうだよ。」
目黒は楽しそうだった。
一方。
阿部は頭を抱えた。
「これどうするの……。」
「飾る。」
「限度があるよ。」
「綺麗じゃん。」
「綺麗だけど!」
一年ぶりに帰ってきた我が家は。
数十分で。
花屋より花屋らしくなってしまった。
運び込みが終わる頃には。
リビング中が。
花でいっぱいだった。
テーブルにも。
テレビ台の横にも。
窓際にも。
床にも。
二人がよく座っていたソファの周りまで。
色とりどりの花。
阿部はその真ん中で。
久しぶりに目黒と並んで座った。
「……すごい匂い。」
「嫌?」
「嫌じゃない。」
阿部は笑った。
「綺麗。」
少しだけ。
沈黙。
阿部は隣の目黒を見る。
一年。
ずっと聞きたかったことがあった。
「ねえ、めめ。」
「ん?」
「この一年……どうしてたの?」
目黒は少し考えた。
「仕事。」
「……それだけ?」
「ほぼ。」
「俺いなくなったのに?」
「だからだよ。」
意味が分からず。
阿部は首を傾げる。
目黒は花を眺めながら続けた。
「あべちゃんがいなくなって、考えたんだよね。」
「……。」
「俺、あべちゃんと暮らしてた時も仕事ばっかりだったなって。」
三日に一度。
目黒が家にいる日を。
阿部はいつも楽しみにしていた。
「仕事だから仕方ないじゃん。」
「うん。」
「めめが悪いわけじゃないよ。」
「でも俺は嫌だった。」
「……?」
目黒は阿部を見る。
「次にあべちゃんが帰ってきてくれたら。」
その言葉に。
胸が痛くなる。
「もっと一緒にいたいと思った。」
「……。」
「だから一年間、働いた。」
「どういうこと?」
「会社で、もっと時間に融通が利く立場になれるように。」
阿部は目を見開いた。
「……そのために?」
「うん。」
「一年間?」
「うん。」
目黒は何でもないように言う。
「結構頑張った。」
「……。」
阿部は。
言葉を失った。
自分はこの一年。
目黒に使ってもらったお金を返そうと。
必死に働いていた。
目黒も。
働いていた。
いつか。
阿部が帰ってきた時。
もっと一緒にいられるように。
「……俺。」
涙が滲む。
「帰ってくるか分からなかったのに。」
「帰ってきてもらうつもりだったから。」
「……。」
「諦めてないよ。」
目黒は笑った。
「あの手紙読んだ時から。」
___________
しばらくして。
目黒が立ち上がった。
そして。
阿部の前へ来る。
「あべちゃん。」
「俺、ずっと言いたかったことある。」
目黒の表情が。
少しだけ緊張している。
その顔を見て。
阿部の心臓が速くなる。
「何……?」
目黒は。
一年間離れていた人を。
真っ直ぐ見つめた。
「好き。」
「……。」
阿部の目から。
涙が落ちた。
「初めて会った時。」
「玄関の前で寝てるあべちゃん見つけて。」
「心配で家に入れて。」
「次の日、あの痣見て。」
「放っておけなくて。」
目黒は笑う。
「最初は、本当にそれだけだった。」
「……うん。」
「でも。」
一緒に暮らして。
おかえりって言ってもらって。
一緒に料理して。
くだらない話をして。
少しずつ笑ってくれるようになって。
「気付いたら。」
目黒の声が。
少しだけ震えた。
「あべちゃんが家にいるのが当たり前になってた。」
「……。」
「帰った時、あべちゃんがいるのが嬉しかった。」
「休みの日、一緒にいられるのが嬉しかった。」
「だから。」
目黒は。
ゆっくり手を差し出した。
「あべちゃんがいなくなった家。」
「本当に何もなかった。」
「……めめ。」
「家具も全部あるのに。」
「帰ってきても誰もいないだけで。」
「家じゃなくなったみたいだった。」
阿部は。
もう涙を止められなかった。
「俺は。」
目黒が言う。
「あべちゃんが好き。」
「家政婦だからじゃない。」
「助けてあげたいからでもない。」
「一緒にいたい。」
「……。」
「今度は。」
少しだけ。
困ったように笑った。
「家政婦じゃなくて。」
「俺の恋人として。」
差し出された手。
阿部は。
しばらく見つめていた。
「……ずるい。」
「え?」
「こんなの。」
阿部は周囲を見る。
色とりどりの花。
一年間。
自分が大切に育て。
売ってきた花たち。
その全部に囲まれて。
一年間。
ずっと会いたかった人から。
好きだと言われている。
「断れるわけないじゃん……。」
目黒が目を見開く。
「それって。」
「俺も。」
阿部は泣きながら。
笑った。
「俺も、めめが好き。」
「……。」
「ずっと好きだった。」
「家を出た時も。」
「花屋で働いてる時も。」
「夜、一人になるたび。」
声が震える。
「毎日会いたかった。」
「……あべちゃん。」
「でも俺がいたら、まためめに迷惑かけると思って。」
「だから戻れなかった。」
「うん。」
「本当は。」
阿部は。
目黒の手を取った。
「ずっと帰りたかった。」
その瞬間。
目黒に強く抱き締められた。
「もういなくならないで。」
「……うん。」
「何かあったら、今度はちゃんと一緒に考えて。」
「うん。」
「勝手に置き手紙残していなくなるの禁止。」
阿部は泣きながら笑った。
目黒の腕の中。
花の香りがする。
阿部は。
そっと目黒の背中へ腕を回した。
「ただいま、めめ。」
「……おかえり、あべちゃん。」
一年間。
二人とも。
違う場所で頑張っていた。
阿部は。
いつか目黒へ全部返すために。
目黒は。
いつか阿部ともっと一緒にいるために。
でも。
もう。
返さなくていい。
離れなくていい。
これからは。
同じ家で。
同じ未来のために頑張ればいい。
___________
しばらく抱き合ったあと。
阿部は目黒の肩越しに。
リビングを見た。
「……ねえ、めめ。」
「ん?」
「一個だけ現実的な話していい?」
「何?」
「この花。」
「うん。」
「明日には水替えないと駄目だからね。」
「……全部?」
「全部。」
目黒が。
花まみれのリビングを見る。
「どれくらいかかる?」
「二人でやって……数時間?」
「……。」
「花屋一軒分買うからだよ。」
「手伝います。」
「当然。」
阿部は笑った。
目黒も笑う。
一年ぶりに帰ってきた家は。
足の踏み場に困るほど花だらけで。
これから毎日。
世話も大変で。
それでも。
阿部には。
今まで見たどんな場所より。
幸せな景色に見えた。
コメント
1件
うわあ……もう、涙が止まらなかったです😭💧 一年離れてても、お互いのことを想って頑張ってたんだなって思うと胸がぎゅっとなりました。特に目黒が「帰ってきた時に一緒にいられるように」って一年間働き続けてたところ、言葉を失いました……。しかも花屋一軒分の花、全部買っちゃうってそんなロマンチックある?!✨ 「好き」の告白シーンも、もう完璧すぎて何度も読み返しました。あべちゃんの「ずっと帰りたかった」って泣きながらの言葉、本当に届いてよかった……。 最後の花の水替えの現実的な会話で笑えるのも、この二人らしくて大好きです。おかえりなさい、あべちゃん。本当に良かったね……🥺🌹