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シーニャとミルシェの姿はすでに霧によって見えなくなった。
「ドワーフと決着をつけるのだ! ウニャッ!!」
「程々にな!」
「分かっているのだ」
一応声だけは聞こえてくるのでそこは安心だ。
「こうなると分かっていましたけれど、相手が相手だけに面倒極まりないですわ」
「やれそうか? ミルシェ」
「……攻撃を受け流したりすることしか出来ないですわ」
サンフィアの実力はそれなりで、槍による突き攻撃か幻影魔法による惑わしがメインになる。しかし槍は置いて来たようだし、幻影魔法で向かって来るはずだ。
おれの正面には、彼女たち以外のドワーフ族とエルフ族が壁となっている。特に襲って来るといった動きは見えてこないが、どうしたものだろうか。
……などと思っていると突然人垣が割れ、フード付きの純白なローブを身にまとった女性がおれの前に姿を見せて近づいて来る。
「アックさん。こんにちは!」
顔はフードでよく見えないが、第一声ですぐに気付く。
「こん……いや、リリーナさん。一体どういうことですか?」
「あれれ、楽しんでないんですか~? ルティちゃんもエルフさんもお仲間さんも楽しそうにしていますよ?」
悪ふざけにも程がある。そもそもおれの実力を認めたなら、素直に出迎えてくれればいいだけのことだ。それをこんな面倒な形で受け入れるなど、一体何を考えているのか。
「おれは楽しむために来たつもりはありませんよ」
「……ではでは、アックさん。アックさんが楽しめるように、魔石を使わせてもらいますね!」
「えっ?」
「アックさんはご自分が持つ魔石を上手く使っていないようでしたので、お手本を見せちゃいます」
そう言うとリリーナさんはおれから奪った魔石の内、三つの魔石を地面に放り投げる。三つの魔石はシーニャとミルシェの専用魔石で、残る一つはルティ専用となっている未覚醒の魔石だ。
ガチャスキルは固有スキルではないとはいえ、まさか自分の目の前で使われるとは予想しなかった。ガチャは普段、おれの手の平にルーンが浮かび上がる。
しかし今回はそれが無く、それぞれの魔石がぼんやりと光を放っているように見えた。
「な、何!? ひ、光っている……?」
「アックさん、ガチャだけに使っているとしたらそれは勿体ないですよ~? 特に彼女たち専用魔石はこんなことも出来ちゃうんです!」
シーニャとミルシェ、ルティの専用魔石は光を放ち続けている。光に注目をしていると、シーニャとミルシェ、そしてルティがいきなりそれぞれの魔石の所に現れた。
「お、おい、ルティ! シーニャ、ミルシェも! いつの間にそこにいたんだ?」
「ウゥ……ウウゥ……」
「敵、敵は倒す……人間め――」
「ずっとずっとしつこいので、倒しますっ!!」
三人に声をかけるも、正気を失っているのか返事は返ってこない。様子を見る限り、専用魔石を使って命令を出しているということになる。
サンフィアは魔石が無いこともあって、エルフたちの人垣に戻っているが正気では無さそうだ。彼女たちはさっきまで霧に隠れつつも返事は返ってきていたが、霧では無く魔石によって操られたということになる。
「さぁ、アックさん。彼女たちが相手でも本気で戦いますか?」
――なるほど。
それが狙いか。ルティだけは半分くらい幻を見せられているっぽいからいいとして、問題はシーニャとミルシェだ。ここに来るまで、短剣が投げられていてもおれ自身が力を使って防いだわけでは無かった。
それが気に入らないのか、まさか魔石で彼女たちを使うとはな。リリーナさんは意地でもおれの力を使わせようとしているようだ。それが仲間であろうと本気で戦えということらしい。
「魔法か拳ってことになりますが、手加減をするつもりは無いですよ」
「……なるほど~! それでは、ルティちゃんから使わせてもらいますねっ!」
魔石の所に立っている彼女たちはどうやら使用者の命令を待っているように見える。ガチャでは無く魔石を使い、正気を失わせて戦わせることが出来るようだが――気に入らない。
「よぉし、よぉぉし!! しつこい人間さん、覚悟ですよ~!」
「……しょうがないな」
「さぁ、アックさん。見せてもらいますね」
全く、厄介な”試練”を仕掛けて来たものだ。