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夜の公園のベンチで俺と奏(そう)ちゃんは、どうでもいい話をしながら過ごした。
二人で寄り添って過ごした。
夏の夜だけど風が涼しくて気持ち良かった。
楽しい時間には必ず終わりが来る。
俺のスマホが鳴る。
「やべっ、親からだ」
「響、夜遅いから今日は帰りな?」
「まだ22時だよ」
「高校1年生は家にいる時間ですー」
「奏ちゃんだって一個先輩なだけじゃん」
子供扱いして。
「心配だから響の家まで送って行くよ」
「奏ちゃんは家帰って大丈夫?母親に叱られない?」
「もう寝てると思うから大丈夫、ほら行こ」
奏ちゃんが左手を出す。
俺はその手を繋いで歩き始めた。
いや、大丈夫じゃないんだよな。
「奏ちゃん、うち泊まっていけば?」
「いや、急だから悪いよ」
「心配なんだよ、奏ちゃんの親の話聞いちゃったらさぁ。一人にさせたくない。帰したくないよ…」
「ありがと、響。でも大丈夫、家着いたらメールするし」
「朝もメールして?」
「わかった」
「10分置きにメールして?」
「それは無理かも」
奏ちゃんは笑っていたけど、それくらい心配。
あぁ、離れたくないな。
ずっと一緒にいられたら良いのに。
一晩どこかで過ごすお金すら持ってない。
親からお小遣いもらってる身で、好きな人のこと守れるの?
「なんか響に心配かけちゃって情けないな。年上なのに」
「奏ちゃん。恋人同士なんだから年齢関係ないよ?対等だよ、俺らは。奏ちゃんが困ってたら全力で助けるよ」
とは言っても何も出来ない自分がぶざまだ。
口先だけ。こんなに気持ちはあふれているのに無力な俺は早く大人になりたかった。
「あっやべ…」
俺の家が近づくと、外で母親が待っていた。
「響!あんたどこ行ってたの」
気まずい。奏ちゃんと繋いでいる手を焦って離した。
「あら、お友達?」
母親が奏ちゃんを見て、聞いてくる。
「合唱部の先輩」
で、俺の彼氏です。
とはさすがに言えるわけなかった。
「合唱部でお世話になっています、藤村奏です。今日は遅くなってしまってすみません。今後の部活のことで話が長引いてしまって」
奏ちゃん、あんためっちゃ出来るカレシじゃん。。嘘つきだけど。
親の好感度爆上がりだよ。
「そうだったの。こちらこそ響がお世話になってます。コンビニ行くとしか言わないから心配しちゃって」
「もういいでしょ、お母さん。家入ってて」
俺の母、おしゃべりだからな。話が長引きそう。
母親が奏ちゃんをじっと見て言う。
「藤村くん?だっけ。すごいイケメンね」
そうでしょ。俺の彼氏なんだから。
あっ、奏ちゃんが困っている。。
「ねぇ、お母さん。先輩ももう帰らないといけないから」
「もうこんな時間でしょ?藤村くん、うちに泊まっていったら?」
「いや、突然来て迷惑なんで遠慮しておきます」
「一人で帰るの危ないわよ」
お母さん、グッジョブ。
「そうだよ、先輩良かったら俺の部屋に泊まっていって?」
俺は母親の後ろから奏ちゃんをじっと上目遣いで見る。
あさとい下心一杯に、母親の援護射撃をした。
「いや、親も心配するので…」
親のもとに返す方が心配だっつの。
「じゃあ、藤村くんのお母さんに私から電話するわよ」
おかん、めっちゃ強引。いいよいいよ!
「あ、いや大丈夫です。自分から電話します」
「奏ちゃん、泊まってくの!?」
あ、やっちまった。みたいな顔をして奏ちゃんが俺を見る。
「とりあえず、響も藤村くんも家に入って。飲み物でも出すから」
「すいません、じゃあちょっとお邪魔します…」
「ごめん、奏ちゃん。うちの母親が強引で…」
と言いながら内心俺はニッコニコだった。
「ホントにすぐ帰るから…」
と奏ちゃんは小声で俺に言う。
嫌だよ、俺の部屋入ったら最後。
絶対に帰さないよ。
奏ちゃんとお泊りしたいもん。
「奏ちゃん、俺の部屋行こ!」
奏ちゃんの腕を引っ張って階段に行く。
「いま、飲み物持っていくね〜」
母が言う。なんだかご機嫌だな。
奏ちゃんを連れて俺の部屋に行くとドアを閉める。
「やっと二人きりになれたね…奏ちゃん」
俺は正面から奏ちゃんに抱きつく。
「さっきまでもずっと二人でいたでしょ…。てゆうか、本当に泊まっちゃっていいのかな。申し訳ない」
と言いながらも奏ちゃんは俺の腰に手を回し抱きしめてくれた。
腰に当たる奏ちゃんの大きな手の感触がすごい好き。
「うち、父親が単身赴任でいないから。お母さん、お客さん来ると嬉しいんだよ」
知らんけど。
「そうなんだ。でも思った通り、響のお母さんは優しそうだね」
「そういや、奏ちゃんの親に連絡しないで大丈夫?」
「一応メールしとこうかな。響、1回離れて」
俺が奏ちゃんに抱き着いて離れないので、奏ちゃんはポケットからスマホを出せずにいた。
「やだっ離れたくない!」
さらに強く俺は奏ちゃんを抱きしめた。
「響、入るわよー」
ドアの外から母の声。
俺は急いで奏ちゃんから離れた。
奏ちゃんは俺の慌てふためく姿に、いたずらっ子のように笑いをこらえていた。