テラーノベル
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38話 華奈の決断。メアリーの覚悟。
冒頭の近衛騎士団・修練場での一幕。
夜間に侵入したウィラードのことを知っている匠が、華奈を問い詰め、隠された秘密を知る。
そして、進んで魔人族領に行くという流れになっています。
「──ッ!」このセリフから最後までが元文になります、
※※※※※
パシィィィ……。
早春の澄んだ空気のなか、華奈は練習用の人形台に向かって、一心不乱に木剣を振るっていた。
風を切り裂く鋭い音が修練場に響き渡る。
「──ッ!」
だが、傍でその様子を眺めていた匠の眉が、微かにひそめられた。
(昨晩、ベランダから誰か入ったのは知ってはいたが……)
深夜の静寂を破った、ガコンという鈍い音。
音がした方へ視線を向けた際、華奈の部屋に忍び込む黒い影が見えた。
一瞬だけ暗殺者を警戒したが、迎え入れるように扉が開いたため、敵ではないと判断して静観していたのだ。
胸中で昨夜の出来事を反芻《はんすう》しながら、匠はどこか怯えたように自分を見つめる幼馴染の瞳を、真っ直ぐに見つめ返す。
「その疲れた目は何か言いたげなのだが」
「え? あ、ううん! 何でもないよ、ちょっと寝不足なだけ──」
「華奈……昨晩、ウィラード団長から何を聞かされた?」
「えっ……」
夜の闇に紛れ結界を解除して、静かに侵入できる特殊部隊のような真似ができる者など、この城内には近衛騎士団しかいない。
何より、昨夜のフックの音も、ベランダに現れた黒い影も、匠はすべて見ていたのだ。
確信を持って投げかけた言葉に、華奈の瞳が一瞬だけピクリと反応する。
常人なら見落とすような些細な動揺だが、匠の鋭い双眸にははっきりと映っていた。
「嘘つくの昔から不得意だから、全部バレバレだよ」
「ダメだね、タクちゃんにはお見通しなんだ……」
諦めた華奈は力なく視線を落とした。
張り詰めていた糸が切れたのだろう。
その大きな瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出す。
「どうせ俺に関する悪い知らせなんだろ。それくらい察しはつくよ。隠さずに話してくれないか」
「タクちゃん……っ、私、どうしたらいいか分かんないよ……!」
顔を両手で覆い、裏返った声で吐き出すように叫んだ華奈は、そのまま崩れ落ちるように床へと倒れ込む。
匠は慌ててその身体を抱きとめた。
修練場に二人きりの静寂のなか、華奈はしゃくり上げ、泣きじゃくりながら、昨晩の寝室でウィラードから明かされた「最悪の真実」のすべてを、匠に打ち明けた。
#溺愛
桜咲かな
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のん
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うらうら
243
烏丸鳥丸
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「暗殺は警戒していたが、本当だったんだな。なら、俺がいなくなるのが一番良さそうだ。魔族の地に行けば、覚醒するかもしれないし」
「嫌だよ……っ! タクちゃんを魔族になんか渡したくない! でも、ここにいたらタクちゃんが殺されちゃう……っ。この国を滅ぼしたって、タクちゃんがいなくなったら何の意味もないよぅ……!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただ子供のように俺の服にすがりついて泣く華奈。
大広間の騎士たちを一人で圧倒し、世界最強の『リミットブレイク』の称号を与えられた少女が、今は最愛の人を失う恐怖だけに震えている。
そんな姿を見せられたら、男として黙っていられるわけがない。自分自身の問題なのだから、道を切り開くのは俺自身だ。
(お荷物になりたくないし、このままじゃダメだ。前を向こう)
不思議と、恐怖はなかった。
ウィラードに「匠殿は本当は数倍強い」と言われたそうだが、そんなことはどうでもいい。ただ、華奈の幸せと、少しの可能性を信じて前を向くだけだ。
匠は華奈の涙をそっと指で拭い、その怯える肩をしっかりと掴んで、真っ直ぐに彼女の目を見つめた──。
「華奈、そんなに悲しい顔をするな。俺は未来を信じて魔族領に行くよ」
「っ!? 駄目だよタクちゃん! 魔界なんだよ!? レベル1.0だよ。どんな目に遭うか──」
匠はここ数ヶ月、ある違和感を胸に抱き過ごしていたのだろう。もう前もって決めていたかのように、その言葉には一切の迷いがなかった。
華奈は悲痛な顔を歪めながらも、途中でハッとした表情へと変わる。彼の尊厳は彼自身が決めるものなのだと、彼女の直感が告げていた。
「暗殺されるのを怯えて待つより、よっぽどマシだ。それに、その魔族領だと俺の力が戻る可能性があるんだろ?」
「それはそうだけど……けど」
「世界最強のお前をいつまでも後ろから眺めてるなんて、俺のプライドが許さない。……ちょっと魔界に行って、リミッターを外してくるわ」
言い終えた匠は、わざと悪戯っぽく、不敵に笑ってみせた。
「タクちゃん……」
呆然と俺を見上げる華奈の瞳に、ほんの少しだけ、いつもの強い光が戻る。
世界最弱ポンコツ剣士の魔界行き。
客観的に見れば、最弱の人間が単身で魔族領に赴くなど、自殺志願者以外の何物でもないだろう。
だが、そんなことを恐れている暇は、俺たちにはない。
──俺たちの反撃の物語は、ここから始まる。
※※※※※
39話 予期せぬ嘘が、現実に変わる時。
夜にウィラードの家に招かれるのは同じですが、前提が変わっているので、ボツにしました。
※※※※※
【夜・ウィラードの自宅】
「さあ、遠慮せずに召し上がってくれないか」
華奈がすべてを告白した午後、突然ウィラードが執務室に現れ、俺たちを食事に招待したいと言い出した。
(都合が良すぎる――)
匠と華奈はそう一瞬だけ身を構えた。話をしたければ彼には立派な執務室がある。わざわざ私的な自宅に招く理由が思い当たらなかったからだ。
何かしらの意図はある。そう警戒しつつも、彼のまっすぐな善意を無視することもできず、ご相伴に預かることにした。
「それでは、遠慮なくいただきます」
訪れたウィラードの家は、絵に描いたような大家族だった。男二人、女二人の子供たち。大きなテーブルなのだが、客人である俺たちが座ると少し狭く感じるほどに賑やかだ。
同い年の長男は、物静かな佇まいの男で、わぁわぁと騒ぐ年下の兄弟たちに「もう少し静かに」と柔らかな口調で語りかけていた。
優しく微笑む奥様、あるいは寡黙な親父――狛とは違い、積極的に家族の団欒に花を咲かせるウィラード。すべてが、あまりにも仲睦まじい。
「わぁ、このグラタン美味しいわ! 奥様、お上手ですね!」
「うふふ、華奈様ありがとうございます」
「これはな、我が家の自慢料理なんだぞ」
奥様もなかなかの美形だ。嬉しそうに話に加わるウィラードを見ていると、思わず正反対な狛の姿が脳裏をよぎってしまう。四角四面で真面目なところは同じだが、人間としての根本的な温かさの違いを感じていた。
(ああ、団欒って……心が休まるな――)
この世界に来てからというもの、殺伐とした事ばかりだった。久しぶりに肌で感じた暖かな触れ合いは、華奈と匠のすり減った心をじわじわと癒していく。
きっとウィラードは、魔族領へと旅立つ俺のために、最後の思い出として食事に招待してくれたのだろう。
(やっぱり彼は良い奴で、本当に信頼がおける――)
そう思わずにはいられなかった。
※※※※※
「奥様の手料理、本当に美味しかったです。ごちそうさまでした」
「ありがとう。後で妻に伝えておくよ」
食後のデザートを平らげ、今は応接間に移りお茶をいただいている。
ここからが、きっと本番だ。だが、なぜかあの物静かな長男が緊張した面持ちでこの場に同席している。何はともあれ、お茶を一口すすったところで――三人ともほぼ同時に、目が座った。
「無音に沈め。静寂の幕――【サイレント・フィールド】」
ウィラードが短く呟くと、華奈の寝室の時と同じく、周囲の雑音が完璧に遮断された。完全な隔離空間。ウィラードはまず、隣に座る長男の肩をポンと叩いた。
「匠殿、華奈殿。紹介させてくれ。我が長男のラインハルトだ。……今年、入団試験をトップで合格した、俺の自慢の息子だ」
「ラインハルトと申します……匠様、華奈様。お初にお目にかかります」
ラインハルトは立ち上がり、一糸乱れぬ見事な礼を取った。父親譲りの誠実そうな瞳。だがその瞳は、どこか俺たちに対して申し訳なさそうに揺れている。
「……単刀直入に言う。『王命による婚約者』……それは、このラインハルトのことだ」
「えっ……!?」
「……」
聞いてはいたが華奈は息を呑み、俺も思わず絶句する。
ウィラードは苦渋に満ちた表情で首を振った。ラインハルトは何故か目線を逸らし俯く。きっと貴族院かどっかに、心通じ合う姫君が存在しているのだろう。
「匠殿が覚醒して戻ってこない限り、この婚姻は推し進められるだろう」
自分の息子すらも王の駒にされている。ウィラードの怒りと哀愁の深さに、応接間が暗く沈む。それを断ち切るかのようにラインハルトは、俺の目を真っ直ぐに見つめ、深く頭を下げた。
「匠様、本当に申し訳ありません。私は、華奈様の心を奪うつもりも、2人を引き裂くつもりも毛頭ありません。……だからこそ、どうか生きて戻ってきてください」
年の近いラインハルトの魂の叫びがこだまする。静寂が流れ、期を窺っていたウィラードは頷くと、足元に置いてあった細長い木箱を拾い上げ、テーブルの上へと厳かに置いた。
「匠殿。これを、是非受け取ってほしい」
「これは……」
恭しく開けられた木箱のなかに収められていたのは――息を呑むほどに美しい、一振りの細身の片手剣だった。魔道灯の明かりを反射して、刃が青白く、神秘的な輝きを放っている。
「これは選別ではないのだが、懇意にしている鍛冶師に打たせた一振りだ。このミスリルの剣は魔力の伝導率に優れ、切れ味が最高だ」
ウィラードの真剣な眼差しが、匠を真っ直ぐに射抜く。
同じ剣士として死地に向かう匠に、何かしらの施しをしたかったのだろう。その目を見れば明らかだ。
「ありがたく使わせていただきます」
「未知の魔境へ赴く匠殿には、身を守る『牙』が必要だからな」
手渡されたミスリルの剣は、驚くほどに軽く、まるで匠の手に吸い付くかのように馴染んだ。
良い奴なんて言葉じゃ足りない。
「……ありがとうございます、ウィラード団長。必ず生きて戻ります」
匠が剣を強く握りしめると、ミスリルの刃が、まるで彼の決意に応えるかのように一瞬だけ鋭く明滅したのだった。
※※※※※
【匠の寝室】
「明日の午後に会談が開かれる。その時、匠殿は呼ばれる筈だ」
別れの際に、ウィラードから予定を告げられ、部屋へと戻った匠と華奈は、神妙な顔して向き合っている。
※※※※※
46話 テイマー空を飛ぶ。
ファルを捕獲した後のシーンですが、丸ごとカットした部分になります。
※※※※※
憶測だが、この個体は知性が他より高いのだろう。何故か理解したらしく、知らせる為にわっさわっさと翼を揺らし、キュアアンと鳴いてみせる。
「あっファル!ワイバーンだよ、驚かせたら怒るかな?」
『俺は行くぜ、蹴散らしてやる!』
ワイバーンの編隊飛行を眼下に発見すると、余りの大群にメアリーは慄きながらも悪戯を提案する。遊ぶことに必死なファル君とて同じ思考で、盛大に揶揄うつもりだ。
「あのね、上斜め後ろは死角だから、いきなり追い抜くときっと驚くよ!」
通じ合っているこの状況で、魔眼を発動すれば、多分テイムできるはずなのだが、遊びに夢中なメアリーはそんなこと忘れていた。一方のファル君は助言に素直に反応していた。
『おう、任せろ!』
そして『キュィーン!』と分かったように可愛らしく鳴くと、ワイバーンの編隊に突っ込んでいく。
ギャ!ギャギャ!
当然、いきなり死角から現れた事でパニックに陥ったワイバーンの群れは四方八方に、散り散りに逃げて行く。
「あはは、楽しいね楽しいねファル!」
『おー斜め後ろは死角なんだ。この子よく知ってるな』
楽しさはまさに絶頂を迎え、もうテイムしなくてもメアリーに従う雰囲気になりつつあった。
――好事魔多し。
※※※※※
74話 覚醒。
元々73話の最後、74話にまたがるシーンでしたが、74話にまとめたので、不要となった箇所になります。
>>>>>
逆光の中に浮かび上がった、その凶悪な異物の正体は。
――グレート・サラマンダー。
ゴツゴツとした岩肌のような巨体。ゆっくりと見開かれた、妖しく輝く金色の瞳。
それは、この洞窟を新たなねぐらとした災害級魔獣だった――。
「こ、殺される、に、逃げるんだ!」
ゴワァァァァ!
ギャーァァァ!
侵入者へ容赦なく灼熱の炎を吐きつける。
悲鳴を上げながら倒れた悪党たちは一瞬で焼かれ、抵抗する暇もなく次々と巨大な口に呑み込まれていく――。
※※※※※
最後に本編とは全く違う初期の設定で、且つ先行して描いていた部分になります。
この文章は改稿する前の荒原稿なので、細かい設定や、あらすじを含めすべて大雑把です(笑
ラストも大きく違い、紆余曲折あってメアリーと匠が結ばれ、華奈はミラードに付き従い、最後、説得虚しく匠に討たれて死ぬ設定でした。
あらすじ。
魔眼が発動したメアリーは検査の後、危険と判断され王国に追われ始め、森をさまよう。
そして商業都市ファーレンに辿り着くものの、待ち伏せに気が付き、魔人族領に逃げ込むが、魔人族に即座に捕まってしまう。
そして魔王レオンの元に連行され、魔眼は厄災を齎すと七魔神に断罪され、処刑されるところだった。
だが、追放された匠が、魔人族も差別するのかと問うと、レオンは解決策があるから冬の間、一緒に住めと別荘地に追いやる。
去り際に、メアリーの魔眼は、古代のアーティファクトを手に入れれば、「普通の目に戻せる」。なので雪が溶ければ二人で探しに行けとチャンスをくれた。
※※※※※
<<魔神族領・魔王城>>
魔王城の背後にある広大な森は「漆黒の森」と呼ばれ中は不気味なほど暗く、魔族以外が足を踏み入れればたちまち迷ってしまう。
一度フィルモア軍が背後から攻め入ろうと画策して何度も斥候を出したが全て魔物の餌食になり、痺れを切らし焼き払おうとするものの、魔力を帯びた木々はそう簡単には燃えず諦めた経緯がある。
「春になれば一度は尋ねないといけないな、タクミもう少し待たれよ」
魔王は窓外に広がる白一色の広大な森を眺めながら雪解けを待つ言葉と、匠の名を口にする。
ーー
森の更に奥の山間には深青色の湖があり、そこは夏の別荘地として名高く、白いものが積もる季節外れにも関わらず、こぢんまりとしたログハウスには灯りが点っていた。
「今日は一段と冷えるな、それじゃ行ってくるわ」
匠は浪人風の身なりに、腰に長剣を携え雪駄を履き、出立の準備に勤しんでいた。
「匠さん毎日のお稽古ご苦労様です。ちゃんとお風呂を沸かして待っているからね」
ピンク色のエプロンを纏ったメアリーは玄関先に立つ匠に、行ってきますの挨拶をしていたが、どう見ても年端も行かぬ少女と少年にしか見えないので、もの凄く違和感がある。
「メアリー、その新妻みたいな言動は勘違いするからやめろよ」
互いの言動を聞けば仲が悪いわけではないけど、一線を超えている親密さは無比だ。
頭をポリポリと掻く匠は弁当を受け取ると少し恥ずかしそうな顔をした。
「だって、匠さんのお世話をするくらいしか、お返しできないんだもん」
金色と虹色の二つの瞳を持つ不思議な少女メアリーは凄くすまなそうな顔をしつつ、匠と行ってきますのキスをして欲しいのかわからないが、背伸びをして表情を窺いながら唇を少し尖らしていた。
「恩返しはアーティファクトを手に入れるまでいらないよ」
「うん分かった、いってらっしゃいませ」
コメント
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第101話、読了したわ!「ボツ原稿集」って斬新だね。特に最後の初期設定ラストが衝撃的すぎる……華奈が匠に討たれる展開とか、今の本編からは想像できないし、作者がどんな選択をして今の物語に至ったかが垣間見えて、すごく興味深かった。本編との違いを比較しながら読む楽しさがあったよ!続きも楽しみにしてる🔥