ドタバタと、階段を忙しなく登ってくる音が聞こえる。大きな音だが、不快感はない。
大きな足音が近づいてきて、私がいる部屋を大きな音を立てて開ける。
そこには、白いワンピースに向日葵の刺繍が大きくしてある、とても見覚えのある服を着た孫がいた。
「おじいちゃん!この服もらっていい?!」
そう言い太陽のような笑顔を咲かせる孫に、「ダメだ」なんて誰が言えようか。
私の大事な人の、大事な服。あの服を最後にあの人が着ていたのは、いつだったか。
一度は「太ってしまったから」と着るのをやめて、二日後には着ていた。私が驚いていると、この服は私に着られないと淋しがると笑った。
二度目は、「似合わなくなったから」と。そんなことないと何度も言っても、老けてしまったからと二度と首を縦に降らなかったあの人。
「…嗚呼、もちろん。大事にしておくれ」
文字通り飛び跳ねて、「ありがとう」と元気に部屋を出て行った。
あの服は、もう燃やそうとしていた。着る人に置いてかれてしまった服は、あまりにもかわいそうだったから。
その服を私たちの孫が着てくれるなら、それ以上のことはない。
一階で何やら騒いでいるが、きっと悪いことではない。
あの人は先にこの世界から離れてしまったが、寂しくはない。あの人と共に過ごした家があり、こうして時々娘と孫が遊びに来てくれる。
窓からは眩しいぐらいの夕日と、夕暮れを知らせる鳥の鳴き声がする。娘は昔何もないとこの土地に怒っていたが、私と妻が愛したこの土地を、今は気に入ってくれていることを願う。
あの人と初めて出会った時も、こんな穏やかな日だった。
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