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第二章 血の匂いと、誓い
その夜は、不自然なほど静かだった。
風の音も、虫の声も、屋敷の外からは何ひとつ聞こえてこない。
胸騒ぎに目を覚ました瞬間、廊下の奥で「ガタン」と何かが倒れる音が響いた。
「――お嬢、起きて!」
障子が勢いよく開き、ころんが駆け込んできた。
その笑顔は消え、鋭い表情がそこにあった。
「敵が入ってきた。僕の後ろに!」
言われるがままに身を寄せると、他の五人もすぐに駆けつけてきた。
さとみは冷静に周囲を見渡し、低く命令を飛ばす。
「莉犬、正面。るぅとは裏口を見ろ。ジェルは屋根の影を警戒。
ななもりさん、合図を出してください。俺はお嬢の護衛に専念します」
瞬時に動き出す五人。普段は賑やかな彼らが、今は組の精鋭のように頼もしく見える。
屋敷を震わせるような怒号と、金属音が響き渡る。
襖の隙間から見えたのは、黒い影をまとった数人の男たち。刃物を手に、こちらへ迫ってきていた。
「……下がっててください」
るぅとが冷たい笑みを浮かべ、短刀を手に立ちはだかる。
「お嬢に触れたら、容赦しませんよ」
莉犬は小柄な身体を活かし、素早く飛び出して敵の腕を蹴り飛ばす。
「お嬢は俺たちが守るんだよ!」
ジェルの豪快な声が響く。
「舐めとったら痛い目見るで!」
拳が一閃し、敵のひとりが壁に叩きつけられる。
ななもりは的確に仲間へ指示を出し、乱れかけた隊列を整えていく。
「さとみ、お嬢を頼む! 絶対に傷一つつけるな!」
さとみは私の肩を抱き寄せ、低く囁いた。
「怖がるな。俺がいる。絶対にお前には触れさせない」
混乱の渦の中、私の胸は恐怖と同時に熱く震えていた。
彼らが必死に戦う姿。
自分を守るために傷つくことも厭わない、その背中。
「……どうして、そこまで……」
思わず漏れた私の呟きに、六人が同時に振り返る。
その瞳は一様に強く、そして優しかった。
「決まってるじゃん!」
ころんが息を切らしながら笑う。
「お嬢は――俺(僕)たちが命懸けで守るんだよ」
血と怒号の夜の中、六つの影が私を囲むように立っていた。
その光景は、恐怖を凌駕するほどに眩しくて――
胸の奥が、強く締めつけられるのを感じた。
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