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僕は母さんが運ばれてからのことを覚えていない。けど、気がついたら病院にいた。僕はノロノロと顔を上げた。目の前にはベッドに横たわる母さんの姿が…母さんには管がいくつもついていた。 ピッピッピッ 電子音が鳴り響く室内…僕は母さんの手をそっと握った。母さんの手は細く、僕が力を入れればすぐに折れてしまいそうなほど脆く感じた。こんな手で今まで僕のために母は大変な仕事をいくつもいくつもこなしていたのだ。
「母さんっ…!」
僕は心の底から母さんの目が覚めるのを願った。医者から聞いた話では、母さんは長年の大変な仕事の末、体を壊していたそうだ。そして…
「末期のガンです。」
医者の口から告げられたのは、そんな宣告だった。おそらく長くはない…それを聞いたときの僕は、どうすることもできないことに打ちひしがれた。母さんが病院に運ばれて数日が経った。僕はずっと学校にも行かず、母さんの手を握っていた。母さんの細いからだ…僕は母さんがどれ程苦労をしていたのか知っていた。一緒にご飯を食べることは週に1度ほど…最初、僕は自分が不幸だと悲観した。けど、一番辛い思いをしていたのは母さんでもあった。母さんは、僕にたくさんの愛情をくれた。母さんは…
「頑張ってたのにな…」
僕は涙を堪えれなくなって、泣いた。声を抑えて泣いた。泣いているのを誰にも聞かれたくなかった。
多分、このときの僕は気づきたくなかった。母さんが後数カ月も生きられないと。僕はきっと、母さんなら…もしかしたらって思ってたんだと思う。そんな奇跡が起こるほど、この世の中は甘くはなかった。
数週間後…母さんは死んだ。