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5日目の朝が来た。
俺は今日も皆の話し声で目を覚ます。ぶっちゃけ朝は弱いんだよな……正直まだ眠いし、なんなら二度寝、三度寝くらいできそう。
でも、そんなワケにもいかないよな。なんせすでにみんなメシ食ってるし。
つーか起きたらマスタールーム拡張されて、なんかデカめのテーブルが置かれてるんだけど。ベッド大好きなゼロのせいで、今までメシも作戦会議も全部ベッドの上だったのに。
聞けば、ついにカエンに怒られたらしい。
なるほど、だから今日はちゃんとみんなテーブルについて皆でわいわい食卓を囲んでいるわけだな。
うん、正しい朝の風景だ。
寝ぼけた頭でぼんやりと朝食風景を眺めていた俺は、ふと昨日のカエンのセリフを思い出した。そういや今日は、王子とやらが視察にくる日なんじゃなかったっけ。
「おはよ。今日だよな、王子サマとやらが来るのって」
「ああ、午後くらいに到着するって言ってたけどな」
カエンの返事にホッとする。そっか、それならもうちょっと余裕があるんだな。
「ねぇ、王子様ってどんな方なの?」
ルリがうきうきと、待ち切れない様子でカエンに詰め寄る。一方カエンは気の乗らない顔だ。
「う~ん、なんつーかなぁ。物腰は柔らかいし女子供にも親切だし、アタマも良けりゃ顔もいい。かなり完璧な王子様っぷりだぜ?」
「きゃ~~~! 素敵!」
よほど嬉しかったのか、ルリが身をよじっている。とりあえずおめでとうと言っておこう。
でも俺はもっと気になる事がある。なんか明らかにカエンの眉間にしわが寄ってるんだよな。
「で? 浮かない顔のあんたは、完璧王子様のどこが苦手なわけ?」
「扱いづれぇ」
苦手なのを隠そうともせず、カエンはそう言い切った。意外だったのか、ルリが目を丸くして聞き返す。
「ええ? 今の説明じゃ、いい人オーラしかないじゃない。どういうこと?」
「いや、言葉も物腰もそりゃあもう柔らかいんだがな、言いだしたら聞かねぇんだよ。しかも言ってることがいちいち正論で、いまひとつ反論出来ねぇ」
なるほど、たしかに扱いづらいかも。
「ガキの頃から肝が太くてなぁ。脅しても怒鳴ってもケロっとしてやがる」
カエンにこんなに苦い顔をさせるとは、王子様とやらは随分いい性格の方のようだ。
「しかもなぁ」
さらに顔を歪めるカエン。ていうかまだ有るのか、苦手ポイント!
「顔も性格も、オレ様のマスターだった、初代国王にソックリなんだ……」
なんか言う事聞いちまうんだよ、とゲンナリした顔。
俺たちはさすがに爆笑した。まさかこんなところでカエンの弱点を知ることになるとは。カエンにここまで言わせる王子様なんて、がぜん興味が出てくるじゃないか。
ああもう、楽しみだ!
悪態をつきながらギルドに戻っていったカエンを爆笑で見送って、俺たちはいそいそと本日のダンジョン造りに取りかかる。
これだけの笑いを提供してくれた王子様だ。丁重にもてなさなければなるまい!!
俺達は早速ダンジョンコアに向かった。
今日最初にやることは、実はすでに決めてある。昨日ルリに魔法を習い始めたあのスライムに、経験値を振り込んで、レベルアップさせるんだ。
あのスライムときたら、ルリの言いつけを守って飲まず食わず寝ずで今もずぅーっと、プルプルプルプルと魔力放出の練習を続けている。
でも、出来そうな気配が全くない。なのに賢さが低い故か、諦める気配も全くない。
ルリもゼロも、さすがに罪悪感がハンパないらしく、なんとかしてやりたいと必死だ。
幸いゼロが昨日稽古を付けて貰ったからか、カエン撃退ポイントが今日も入っている。その内の1/4をつぎ込んでやることになった。
『スラっち』と名前を付けてやり、早速経験値を投入する。
そう。カエン撃退ポイントの1/4だけだ。
なのに、スラっちはレベル32になってしまった。今や俺よりレベルが高い。
レベルアップに必要な数値はモンスターによって違う。一般的に強いモンスター程、1レベル上げるのにも多くの経験値を必要とするもんだ。つまり、最弱の部類に属するスライムは、きっとレベルアップに必要な経験値が異常に少ないってことなんだろう。
いや、分かってる。それでもステータスは俺の方が断然高いって。
でもなんなんだ、この敗北感!
俺の密かなジェラシーを余所に、スラっちは相変わらず魔力放出の練習を続けている。ゼロも、ルリも、ユキも、息を詰めて見守っている。
……俺もバカなこと考えてないで応援しよ。あいつに罪はねぇしな。
気合いを入れ直してスラっちに声援を送った、その時だ。
スラっちから、ついに魔力が放たれた。
「でたっ!!!」
「やったぁ!!!!!」
「スラっち、すごいーーーー!!!」
「ばうっ! ワンワン!!!!」
やった! ついにやった!!
思わず全員が飛び上がって喜んだ。
ゼロはぴょんぴょん飛び跳ねてるし、ルリは泣きながらスラっちを抱きしめている。ユキは尻尾をブンブンふりながらクルクル走り回ってるし、……スラっちはなんだか7色にビカビカ光っている。
これがスライム的、喜びの表現なんだろうか。
ひとしきり皆で喜んだあと、ルリはスラっちを連れて自室に戻った。今の感覚を忘れない内に、魔法として魔力を放出させるんだってさ。きっと集中してやらせたいんだろう。
ちなみに、ゼロが俺のために用意してくれた部屋が、今ではルリの部屋になっている。ちょっと残念だが、まぁこの場合、レディファーストになるのはしょうがないよな。