食事は美味しかった。
二日ぶりに会う雪斗は相変わらず魅力的だ。
ただ心から楽しめないのは、やっぱり解消しない気がかりがあるからだった。
気まずいながらも、マンションに戻り、落ち着いたところで雪斗に切り出した。
「雪斗……知ってるかもしれないけど、昨日春陽さんから電話が有って、私出ちゃったの」
緊張しながら言うと、雪斗は予想外にとても驚いた顔をした。
もしかして……春陽さんに聞いてなかったの?
「あいつは何て言ってたんだ?」
「都合が悪くなって会えなくなったって……」
そう言うと途端に雪斗の顔が険しくなった。
私の緊張は益々高まる。
「春陽さんと会う約束してたの?」
「……」
「……前にも会ったって彼女は言ってたけど」
責めるつもりは無いけど、やっぱりこう言う話は張り詰めた空気になる。
雪斗もさっきまでリラックスして座っていたソファーから身体を起して、私に向き直り言った。
「春陽とは展示会で再会した後一度会った。今夜も出張が延びなければ会うつもりだった」
誤魔化す事無くはっきりした口調で言われ、衝撃が走る。
春陽さんに聞いて知ってはいたけど、雪斗の口から聞くのとは違っていた。
「どうして? 春陽さんと会って無いって言ってたよね?」
声も身体も震えた。
失望が身体中に広がって行く様な感覚。
雪斗は私の反応に敏感に気付いた様だった。
「春陽と会ったことを黙っていたのは悪かった。美月に余計な心配をかけたくなかったから言わなかった。でも間違ってたな……ごめん」
落ち着いた声で、言い聞かせる様に言う。
「どうして会ったの? 今夜は二人でどこに行くつもりだったの?」
「……」
「これからも春陽さんと会うの?」
話す前は冷静に穏やかに話そうと思っていた。
それなのに、雪斗の口から春陽さんの事を聞いた瞬間から感情が抑えられなくなった。
私は真実を知りたいと思いながら、心のどこかで未だに雪斗に否定して貰いたいって思ってたんだ。
春陽さんの言ったことは嘘だって。
会ってなんていないって。
でも雪斗は悲しい位、誤魔化す事なく現実を告げて来た。
「春陽とは、あと一度は会う必要が有る」
「あと一度って……二人で何をしてるの?」
過去に会っていたって事実もショックなのに、今後も会うって宣言されて……もう平静を装う事なんて出来なかった。
「美月、落ち着け。春陽とは会う必要が有るけど、美月を裏切ったり泣かせる様なことはしない」
「……それならどうして会う必要が有るの?」
雪斗は春陽さんの事で私がショックを受けるのをよく分かっていたはずだ。
だからこそ黙っていたし、今の取り乱した姿を見れば尚更実感してる事だと思う。
それでも「もう会わない」って言ってくれないのはどうして?
悲しませないって言うのに、どうして止めてくれないの?
「春陽とは以前結婚していたんだ」
「そんなこと……分かってるよ」
でも雪斗の口から改めて言って欲しくない。
こんな状況なのに……。
「俺達の離婚は急だった。本当ならその時話し合っておくことも放って距離を置いた。今お互い新しい生活も落ち着いたから少しけりを着けたいことが有るだけだ」
「……」
「それが終ればもう春陽とは連絡を取る必要も無いし会わない」
雪斗の言ってることは本当だと思う。
仮にも夫婦だったんだし、いろいろしがらみが有るのも分かる。
でも……私は雪斗の離婚について何も知らない。
理由も、状況も。
春陽さんとどんな関係なのかもはっきりとは分からない。
雪斗の今の恋人は私で一緒に暮らしてるのも私なのに、春陽さんとの繋がりのがずっと強く感じてしまう。
「美月を裏切る様な真似は絶対にしない」
雪斗はそう言うけれど私は自信が持てない。
雪斗との話し合いは大した時間をかけずに終ってしまった。
雪斗は何も弁解しなかったし、これからについても誤魔化さなかった。
春陽さんには会うけど私を裏切る事は無いと言う。
雪斗の言い分は頭では理解出来る。
感情としては嫌で仕方ないけど。でも私に二人が会う事を止める事は出来ない。
醜い嫉妬の中に、私だけが取り残されてしまった様だ。
私が落ち込んでいる事に気付いてるからか雪斗は優しい。
ただ今夜はいつもみたいに抱いてくれる事は無かった。
相当疲れているのか、ベッドに入ると雪斗は直ぐに寝てしまった。
私は眠れない。
思い通りの結果にならなかった話し合い。
雪斗は誠実に向き合ってくれたと思うけど、納得は出来なかった。
私の思い通りに雪斗を動かす事なんて出来なくて。それは当然だけど春陽さんとの関係を割り切れる程私は強くない。
雪斗を好きでいる限りこの苦しみはずっと続くのかな。
いつか乗り越えられる?
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