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(森を出た……やっと森から出られた!)


あまり遠くには行けなかったとはいえ、出口を探して彷徨い続けた少女は、感動で打ち震えていた。

そんな少女を見て、連れ出した2人は改めて安堵する。


「外に出る事を嫌がるとかじゃなくてよかったのよ」

「そうね。むしろすごく喜んでるみたい。なんだか落ち着かない感じ……あん、そんなにはしゃいであちこち見てたら、あたしに頭突きしちゃうよ」


転生後の世界での初めての森の外に、すっかり興奮した様子の少女。

それも無理のない事だった。


(なんだあれ、葉っぱだけ浮かんでる! 崖に横向きの池っぽいものがある! 重力どうなってんの!? あっち側は地面赤いし、なんかでっかい虫が見えるような?)


見た事が無い不思議な光景に、すっかり心を奪われていた。


「なんだか可愛い♪」

「色々見せてあげたいけど、今は一旦帰るのよ。この調子なら完全に暗くなる前に家に着くのよ」


少しだけ速足で森を出たお陰で、空はまだ明るい夕方前。

腕の中でキョロキョロしてる少女はそのままに、2人はいろんな物が浮いている平原を歩き始め、やがて日が沈み始めた頃には、1つの大きな石造りの建物に到着した。


「やっと戻ってきたのよ」

「良い感じにお腹も空いてきたね」

(……トイレ行きたい……森の中じゃ茂みに行かせてくれたけど……って、いつの間にこんな塔が?)


周りに夢中になっていた少女は、移動していた事に気づいていなかった。


(って茂み無いし! どうしよう……トイレってどう言えばいいんだろ!)

「あ、もしかして急に立派な建物見たから驚いた? ごめんね、もうちょっとで家に着くからね」


焦っている少女を宥めながら塔の中に入ると、中央には少しだけ高い台と、そこに登る階段、そして周りには厚手だが体を動かしやすそうな服を着た人が、3人寛いでいる。

さらに塔の上で見張りをしていた女性が1人、降りてきた。


「パフィさんとミューゼオラさんですねー。予定より1日遅くなったようですが……その子は?」

「森の中で出会って保護したのよ」

「保護ですか? えっと、詳しくは──」

「あたし達にも詳しくは分からないんです。言葉は通じないし、怪我の手当てをするんで、すぐに帰ります」

「え、言葉が?」


女性が狼狽えると、後ろから男性が近づいてきて、


「子供が怪我してるんだ。ここで足止めするのは悪いだろう。さぁポータルへ」

「ありがとうなのよ」


言われるままに、パフィ達は中央の台へと上がった。

ここまでくれば安心と、ミューゼは少女を降ろし、手を繋ぐ。


「今からあたし達の町に帰るからね。もう少しの辛抱だよ」


少女は手を繋がれながら、落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見回している。


「では、ファナリアのニーニルの町へ、転送開始します」


男性が台の横にある装置に魔力を込めると、台が淡く輝き出し、すぐに眩い光の柱が立ち上った。


「あーーーっ!?」


光に驚いて、少女が悲鳴を上げるが、すぐに聞こえなくなる。

そして光が収まった台の上には、3人の姿は無かった。


「隊長、よかったんですか? 身元の証明とか……」

「森で保護した言葉が分からない小さな女の子だぞ? 何をどう証明するってんだ? 俺達に出来るのは、あの2人を信じるか、ここで預かるか、森に捨て直すかだけだろう。あの子はすっかり懐いてるようだったしな」

「う……滅茶苦茶可愛かったからちょっと羨ましい、ついでにビックリした声も可愛かった……でも何があったんでしょうね」

「さぁな。包帯巻いてたし、立った瞬間微かに顔歪めたから、怪我自体は嘘ではないな。あいつらも分からないと言っていた。もしかしたら言葉を覚えたら、判明するかもしれんがな」

「……隊長って実は子供好きでしょ」

「ほっとけ」


今は考えても分からないと結論づけて、兵士達はそれぞれ持ち場に戻ったのだった。




「ふぅ、戻ってきたのよ」


光が収まると、そこは先程と同じ構造の建物の中。しかし周囲にいる人達が違う。


「おや、1人増えてますね。お仕事お疲れ様です」

「ご苦労さまです。ごめんね、ビックリしたよね。あんなに叫んじゃっ……て?」


ここは違う場所を繋ぐ転移の塔。

塔を管理する兵士によって、別の場所の同じ塔の中へと移動出来る建造物だった。

そして転移の際には、強烈な光に包まれ、少しの浮遊感が発生する為、初めての人は大抵驚く。

つまり……


「ふえぇ……ひっく……」

チョロロロ~……


塔に入る前から尿意をもよおしていた少女は、驚きと浮遊感によって漏らしてしまっていた。

さらに中身はいい歳したオッサンの記憶があると同時に、脳は物理的に幼くなってしまっているせいで、驚きと恥ずかしさと悲しさと…とにかくゴチャゴチャになった感情を大人だった時の様に抑えられず、泣き出してしまった。


「ああ! そうだよねビックリしたよね! ごめんね目隠しくらいしてあげればよかったね~」

「ぅあああああ~~~ん!」

「えっと……抱っこしてなくて良かったのよ?」

「それはいーから! すみません、掃除道具とか拭くものとかありますか!?」


いきなりの出来事に、呆然としてしまった兵士は、慌てて部下に道具を取りに行かせ、説明した。


「い、いや、こういうトラブルを処理するのも我々の役目だ。掃除はやっておくから、その子の着替えと……怪我をしているようだから早く帰ると良い」

「すみませんすみません!」

「なに、気にするな。可愛い子じゃないか。今回のこれは、我々にとってはご褒美なのだ」

「はい…………はい?」


真面目な顔で兵士としての職務をこなしている男性だったが、不穏な事を言い出した。


「ほらタオルなのよ。拭いてあげるから足を開くのよ」

「ちょっとまって、先に台座から降りないと……」


慌てながら世話をして、真面目な眼差しの隊長に妙に寒い物を感じつつ、なんとか少女を泣き止ませる事に成功した2人。

ハプニングがあって仕方が無かったものの、早く塔から出たいと真剣に思っていた。


「……そういえば昼に出してから、だいぶ経ってたのよね」

「気の利かない乙女2人で申し訳ないのよ」


すっかり凹んだ少女を抱いて塔から出て、ちょっと暗くなった街中を歩いていく。


「晩ご飯どうしよっか」


元々パフィが作る予定だったが、疲れていたところにさっきの騒動である。

疲労の色を隠せなくなっているのに気付いたミューゼは、本当に作るかどうかを確認した。


「今日のところは食堂にいってクリムに3人分持ち帰りで頼むのよ。ついでに事情も説明してくるから、先に帰っててほしいのよ」

「分かった。お風呂にいれて着替えさせておくね」


家の近くで別れ、ミューゼは力無くしがみつく少女を撫でながら、家へと向かった。


「さて、家に着いたよ。貴女も住んでくれるとうれしいな」


鍵を開け、中に入ろうとすると、ようやく少女が反応した。


(え、家? いつのまに。もしかしてみゅーぜの家なのか?)

「ただいまーっと。さて、まずはお風呂と怪我の具合診てあげなきゃ」


ミューゼは荷物を降ろし、少女を抱えたまま脱衣場に入り、少女を降ろした。

そして魔法を使って、風呂場にある大きな桶にお湯を一瞬で溜め、脱衣場に戻ると、怯えたような顔をした少女と目が合った。


「あれ? どうしたの? もしかして、お風呂は初めて見るのかな?」

(ここここってお風呂じゃん!? 待って待って今から何されるんだ!? さっき漏らしちゃったからだよね? そっかそうだよねー、流石に洗わないと臭いよねー……ところでみゅーぜさん? なんでこっち来るのかな? 僕は一人で脱げますよ?)


ミューゼは手をわきわきしながら、優しい笑顔で少女へと近づく。

今日の疲れなど、忘れてしまったかのように、生き生きとしている。


「みゅーぜ? みゅーぜ?」

「ほら、脱ぎ脱ぎしましょうね♡ 今は怪我もしてるんだからねー」

(ひぃぃぃ!! ぱひー助けてえぇぇぇぇ!!)


助けを求める言葉が分からない少女の心の叫びは、もちろん誰にも届く事は無かった。

からふるシーカーズ

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