テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
目が覚めると、視界に飛び込んできたのは見慣れた自宅の天井と照明だった。
理人はガバッと跳ね起き、周囲を激しく見回した。あれは、すべて悪夢だったのではないか。
しかし、上半身は何も身に着けておらず、下着一枚というあまりに心許ない格好で寝かされていた事実に、理人は眉間に手を当てて深く、重いため息をついた。
あの後、一体どうなったのか。自分がどうやって帰宅したのか、記憶の糸がぷつりと切れている。昨夜の出来事が鮮明に脳裏をよぎり、理人は思わず頭を抱えた。
昨夜、自分は一体何をした? いくら媚薬に支配されていたとはいえ、オフィスという神聖な場所で、よりによって恋人である瀬名に貫かれながら、別の男のモノを嬉々として咥えるなど……。
どこの安っぽいAVの筋書きだ。
あんな浅ましい、獣のような姿を二人に晒してしまった事実。理人は枕に顔を埋め、羞恥と自己嫌悪で悶絶した。
いくら独占欲の強い瀬名でも、あんな見境のない男には、流石に愛想を尽かしたに違いない。軽蔑され、嫌われたとしても、もはや自業自得という他なかった。
嫌な想像が胸を焦がしていると、突然寝室のドアが開き、理人は心臓が飛び出るかと思うほど肩を跳ねさせた。
「あれ、起きたんですね。理人さん」
「お、おう……」
おかしい。まだ夢の続きだろうか。いつもと変わらぬ、どこか飄々とした瀬名の様子に混乱が極まる。
「急に気を失うからビックリしましたよ。……そんなに気持ちよかったんですか?」
「……っ!」
冷たさを孕んだ声で真っ直ぐに問われ、理人は言葉に詰まった。
「まぁいいや。起きられそうなら朝食を作ったので、一緒に食べませんか?」
「え?」
「えっ?」
瀬名の意外すぎる提案に理人が素っ頓狂な声を上げると、逆に瀬名も驚いたように目を丸くし、互いに顔を見合わせた。
まさか、あんな凄惨な現場の翌朝に、瀬名が手料理を振る舞ってくれるなど、夢にも思わなかった。
「……怒って、ないのか?」
「怒ってたのは、理人さんの方でしょう?」
言われてみれば、確かにそうだ。数週間前までは、間違いなく自分が怒っていた。だが、あれは頭に血が上っていただけで、ここ最近は怒る気力も失せ、ただひたすらに後悔と寂しさに暮れていたのだ。
本当は、ずっと向き合って話をしたいと思っていた。
話すチャンスがないと悶々としていたところに、あの凄惨な「仕置き」があって、それで――。
「……二股かけられたんだ。怒るのは当然だろうが」
「それですよ、それ! どうして僕に二股疑惑なんてかけられてたんですか?」
心底心外だと言わんばかりに首を傾げられ、理人は若干のイラつきを覚えた。だが、ここで再び感情を爆発させれば、また同じ過ちを繰り返すことになる。
「しらばっくれんな。わざわざ職場にラブラブ弁当を寄越しに来てた女がいただろう。仕事終わりにデートでもしてたのか知らねぇが、オフィスの前で待ってる姿を見たんだよ」
あれを浮気と言わずして何と言うのか。思い出せば、当時の怒りが再燃してくる。冷静に話し合うつもりだったのに、気づけば口調が険しくなっている自分に、理人は内心で舌打ちした。
「やっぱりその事だったんですね。……あれ、僕の姉さんですよ」
「……あ?」
「だから、『真奈美』っていうのは、僕の実の姉なんです」
さらりと放たれた告白に、理人は思考が停止した。
瀬名は今、なんと言った? 姉、だと?
そういえば、以前調査させた瀬名の身辺報告書に、姉が一人いると確かに記載されていた気がする。
「ちょうど数日前から、姉が田舎から出てきてたんです。元々世話焼きな性格なので、あれこれ世話を焼いてくれてて……。一応、姉さんに理人さんを紹介しようと思ってたんですが……電話、出てくれなかったから……」
「……じゃあ何か? あの日は俺が一人で盛大な勘違いをして、勝手にキレてたってことかよ!」
「まぁ、そうなりますよね」
「……」
「恥ずかしすぎて穴があったら入りたい」とは、まさにこのことか。
理人はじわじわと顔が熱くなるのを感じると、両手で顔を覆い、再びベッドに突っ伏して撃沈した。
本当に、どうかしている。
姉の存在を知っていたはずなのに、女の名前が瀬名の口から出ただけで冷静さを失い、話も聞かずに一刀両断してしまっていたなんて。
#ゆめちゅーい