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『毎晩の電話』
一人暮らしを始めたばかりの大学生がいた。
新しい部屋は静かで、駅からも近く、特に不満はなかった。
ただ、一つだけ変なことがあった。
毎晩、午前2時になると電話がかかってくるのだ。
非通知でも知らない番号でもなく、表示されるのはいつも同じ番号。
けれど、電話に出ても何も聞こえない。
「もしもし?」
そう言っても返事はない。
しばらくすると、向こうから小さな物音が聞こえてくる。
カサ……カサ……
まるで誰かが、紙をめくっているような音。
気味が悪かったので、最初の数日は無視していた。
それでも毎晩、午前2時になると電話が鳴る。
ある夜、大学生は思い切って電話に出た。
「誰ですか?」
やはり返事はない。
「いい加減にしてください。警察に言いますよ」
すると、初めて向こうから声が聞こえた。
小さな女の声だった。
「……そこにいる?」
大学生は少し安心した。
「はい。誰ですか?」
女は答えた。
「よかった……」
「何がですか?」
しばらく沈黙が続いた。
そして女は、震える声で言った。
「あなたの部屋……今、一人?」
大学生は周りを見た。
当然、一人だった。
「そうですけど……」
すると女は、
「じゃあ、今から言うことを聞いて」
と言った。
「絶対に、後ろを見ないで」
大学生は笑った。
「なんですか、それ。怖がらせようとしてるんですか?」
女は答えない。
「……お願い。後ろを見ないで」
大学生は少し不安になった。
そのとき、背後から――
カサ……
と音がした。
電話の向こうの女が、小さな声で言った。
「……今、聞こえた?」
大学生は黙った。
もう一度、
カサ……カサ……
と音がした。
そして女が言った。
「大丈夫。私も今、あなたの部屋にいるから」
大学生は息を止めた。
「……え?」
女は泣きそうな声で続けた。
「あなたの後ろにいる人が、電話を持ってる私には見えないの」
「どういう意味……?」
「だからお願い……」
女は震えながら言った。
「**その人が私の電話を持っている間は、絶対に振り返らないで。**」
大学生はゆっくりスマホを耳から離した。
画面を見る。
通話相手の名前を確認する。
そこに表示されていたのは――
**「母」**
大学生の母親は、3年前に亡くなっていた。
コメント
1件
読ませていただきました……。ラスト、本当にぞっとしました。 「後ろを見ないで」と言われた瞬間から画面の端が気になって仕方なくなって、それでもラストの《母》の表示で背筋が凍りました。 3年前に亡くなっているという設定が、ホラーとしても喪失感としても効いていて、ただ怖いだけじゃない読後感がすごく好きです。 第1話、続きが気になりすぎます……!