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#山中柔太朗
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448
太智side
「…太ちゃんどーしたの」
俺が顔をあげるとそこには佐野さんが立っていた。
「怒られた?」
「おん…まあまぁ!!大丈夫大丈夫…」
「大丈夫じゃないでしょ」
「なんかあったの?元気ないけど」
「…別に、佐野さんには……!」
「別にさぁ、俺に関係ないなら話さなくても全然いいんだけど」
「……」
「太智がテンション低いと、俺らも悲しいな〜って思って、心配だし?」
「無理言わないけど、あんま溜めこみすぎんなよ」
「……」
「…俺さぁ、」
「元々、医者やってん」
あれは2年前のこと。
俺は東京都中央病院で、医者として働いていた。
手術を担当することだってもちろんあった。
忙しかったけど、その分毎日が楽しかった。
患者さんが元気になって退院していく姿を見るだけで、この仕事をしてて良かったって思えた。
「先生、ありがとうございました」
そう言ってもらえるだけで嬉しかった。
ある日のことだった。
「塩﨑先生、次の患者です」
いつもと同じ、予定されていた手術。
俺は担当医として、その患者さんを受け持った。
事前の確認、 スタッフとの打ち合わせ、
必要な準備。
全部、やったつもりだった。
「先生」
施術室に入る直前、看護師さんに声をかけられた。
「どうしました?」
ほんの少しの違和感。
確認すべきこと。
そこで俺が立ち止まって、もう一度きちんと確認していれば。
「大丈夫です」
そう答えて、 そのまま進んだ。
手術は始まった。
しかし、 途中で異変が起きた。
「……?」
空気が変わる。
スタッフの声が飛び交う。
「先生!」
俺も対応する。
必死だった。
なんとかしようとした。
でも。
結果として、その患者は重い後遺症を残してしまうこととなった。
「……」
今でも鮮明に覚えている。
手術室を出た時、自分の手が震えていたこと。
何度も、何度も自分を恨んだ。
「あの時確認していれば」
って。
でも、 時間は戻らない。
患者さんの家族への説明。
病院内での調査、 責任問題。
全部が一気に押し寄せた。
そして、 俺は処分を受けた。
医師としての仕事を続けること自体は認められた。
ただ、 今までのように執刀を続けることはできなくなった。
そして、ここ。
東京都渋谷区恵比寿総合病院に異動になった。
そこで与えられたのが、麻酔科医という仕事だった。
正直、逃げたような気がした。
「俺は医者なのに」
何度も思った。
執刀しない。
患者の前に立つことも減った。
手術室では、別の医師が手術をする。
俺は麻酔管理を担当する。
もちろん、 麻酔科医だって大切な仕事だ。
そんなことは分かっている。
分かっているけれど。
最初の頃は。
自分が医者じゃなくなったような感覚が消えなかった。
だから、 いつも明るく振る舞った。
「おはようございまーす!」
「太ちゃん今日も元気だな」
「元気だけが取り柄なんで!」
笑った、 冗談を言った。
誰かが落ち込んでいたら励ました。
そうしていれば。
誰も 俺のことを深く聞かなかった。
「前の病院では何してたんですか?」
そう聞かれたこともあった。
「普通に医者してたよー」
それだけ。
それ以上は言わなかった。
いや、言えなかった。
そして、俺はEBiSU MERに選ばれた。
最初は、素直に嬉しかった。
久しぶりに、「医師」として現場に立てる。
そう思った。
でも、それと同時に怖かった。
もし失敗したら?
もし判断を間違えたら?
もしまた誰かを傷つけたら?
そんな不安は誰にも言えなかった。
それでも、4人と現場に行くたびに、少しづつ変わっていった。
みんなが自分の役割を果たしている。
俺も、自分にできることをする。
それでいい。
そう思えるようになっていた。
そして今日_
「僕が執刀します」
あの言葉を口にした瞬間。
胸の奥に 昔の記憶が全部戻ってきた。
怖かった、 本当に怖かった。
「また同じことになるんじゃないか」
そう思った。
でも 目の前には、 小さな男の子がいた。
「先生……」
震える声。
他の医師は全員、別の患者から離れられない。
俺しかいない。
「……」
あのときと 同じように。
「俺がやらなきゃ」
そう思った。
でも 今回は 違った。
無線があった、 みんながいた。
一人じゃなかった。
手術も成功したし、 男の子は助かった。
それなのに、 教授から言われた
”今回の判断が適切だったかは別問題だ”
その言葉が。
昔の記憶を引っ張り出した。
「……ってこと」
「…それ今まで誰にも話してない?」
「うん、話してないで」
「そっか」
それだけだった。
責めることも、 驚きもしない。
ただ、少し考えるように黙っていた。
「話してくれてありがと」
「……」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
「…怒らへんの?」
「なんで?」
「だって俺、医療ミス……」
「それは軽く言えることじゃない」
佐野さんは真剣な表情を浮かべる。
「でも、俺はその時のことを知らない」
「知らない俺が、太ちゃんのことを決めつけるつもりはないよ」
「誰より患者のこと考えてんの知ってるし」
「昨日だってそうだったでしょ?」
「でもあれは…」
「無茶だったけどなぁ笑」
「……やっぱ怒っとる?」
「怒ってないよ、笑」
「それとこれとは別」
「……」
「過去に何があったとしても」
「俺らが仲間なのは変わんないだろ? 」
思わず目頭が熱くなる。
「……ずるいなぁ」
「何が?」
「そういうこと言うの」
「知らん」
「泣くやん……」
「泣けば?」
「嫌や!」
「なんでだよ」
二人で笑った。
その日の帰り。
俺は一人で廊下を歩いていた。
以前までの俺なら、 過去を思い出すたびに、胸が苦しくなっていた。
今も怖い。
あの日のことは消えない。
自分のミスで傷ついた患者さんのことも。
後悔も、 罪悪感も なくなるわけじゃない。
でも。
「……」
もう、 一人じゃない。
「太ちゃーん!」
遠くから声がする。
振り返る。
「早く帰ろー!」
佐野さん。
その後ろに吉田さんと柔太朗と舜太くん。
「今行く!」
俺は走り出す。
「置いてくぞー!」
「待って待って!」
笑いながら。
4人のところへ向かう。
そして、 ふと思った。
俺は過去を変えられない。
でも、 これからの自分は変えられる。
だから もう一度、 ちゃんと前を向いて。
医者として。
麻酔科医として。
そして、EBiSU MERの一員として。
患者さんの前に立とう。
そう強く思った_
コメント
3件
一番明るい人の過去がどん底なの作者様頭良すぎます…✨
太智くんの過去、重かったですね……。医療ミスを抱えて逃げるように麻酔科に来たのに、それでもEBiSU MERで執刀した瞬間の葛藤が痛いほど伝わってきました。「また誰かを傷つけたら」という不安、ずっと一人で抱えてたんですね。佐野さんの「過去に何があっても仲間だ」にはグッときました。最後、4人のところへ走り出すシーン、やっと前を向けたんだなって思えて、じんわり温かくなりました。