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【Attention】
・めっちゃ妄想です
・なんなら主が読みたいだけ
・なんでも許せる方向け
「この日々は辛いか?」
唐突にそんなことを訊かれた。
否定の意を示すと
「そうか。」
とだけ言って彼は仕事に戻った。
何かあったのだろうか。この計画は彼が始め、私が今も心の内で反対することではある。が、今やめられても困る。まあ性格上やめるとも思わないが。もし仮に、彼が今更やめると言い出したら、私は彼の頭がどうかしてしまったと思うだろう。…いや、正常に戻った、の方が正しいのだろうか。私からしてみれば、今の方が確実にどうかしている。周りに誰もいないことを確認してこっそりと呟く”復讐”という言葉。決して美しい響きではなく、かといってなにか悪いものを連想させるような言葉でもない。意味することと響きがここまで食い違う不思議な言葉。しかし、彼が、彼らがこれに掛けている思いは人並みではない。それではここまで辿り着くことなんてできない。
それをきっかけとして、この日々が始まるまでをゆっくりと回想する。特に目立った事件もなく、穏やかな日々だった。しかしことが起こってしまえば、変わっていくのにそう時間は掛からなかった。傍から見れば、波乱万丈な人生。時代の節目に居た人物の一人。あらすじのように簡単に説明してしまえば、平穏そのものだった日々はいきなり現れた彼に変えられ、その彼が立ち上げた会社に入って真面目に働いて昇級すれば、待っていたのは血の海だった、ということになる。そんな人生を一体誰が想像するだろうか。少なくとも自分は考えもしなかった。しかし、本当に思ってもいなかったのは彼らだろう。先程波乱万丈の人生とは言ったが、この世にそんな人生を送ってきた人はごまんといる。なんなら沼族ならば、所謂普通の人生というものをを送ってきた方が珍しいくらいだろう。しかし、幼いという年齢ではないにしろ、子供のうちに経験した…いや、してしまった大きな事件。幸福が崩れ行く感覚。当たり前が遠のいていく現実。それを糧として5年越しの復讐を計画し実行する勇気。その全てにおいて悪い意味で”特別”になってしまった彼の人生は、波乱万丈という4文字で表されるには重すぎる。齢17にして世界規模の企業のCEO。確実に歴史に名を残す人物。そして…誰にも気づかれずに散っていく一輪の花。柄にもなく詩人のようなことを考えてしまったが、立ち去る彼の背中を見ればそう思うのは当然のことだろう。私には到底背負うことのできない重荷を背負わされた背中は、とても小さく見えた。
「森風様」
部下に名前を呼ばれる。紳士的な振る舞いを継続しながらも、頭の片隅には今考えたことがどうも引っかかっていた。
尚も考え続ける。
あの時、「辛い」と言っていたならば。
彼を止めていたならば。
今の自分は存在しただろうか。
未来は変わっただろうか。
世界は回り続けただろうか。
ああ、どうやら眼鏡だけは消えずに残るらしい。これが形見になるのか。後輩ちゃんに持っていてほしいな。最後の思考はそれだった。
欠片ひとつ歴史に残らない、世界一大きな事件。これは、その事件に巻き込まれたとある者の”幸福”。