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「ん…….」
ふと、目が覚めた。重い瞼を少し上げると、薄暗い部屋が微かに映る。意識はぼんやりとしていて、まるで夢と現実の狭間にいるよう。
まだ、眠い。
薄暗いからきっと、まだ明けてない。寝返りを打ち、もう一度瞼を閉じようとした。が、腕が何かに当たり、ベッドに俺だけじゃないことが判明する。
「んん…….?」
重たい瞼を少し開くと、黄色い髪が見えた。俺の家に居る、黄色い髪の人と言えば一人しか思い当たらなくて。
ぼーっとした頭が、ゆっくりと覚醒していく。
「…..あれぇ、?」
奏斗、昨日俺の家に泊まったっけ。なんて、思い出しながらゆっくり視界が現実味を帯びてくる。同時に、寝る前の記憶が蘇る。
そういえば、俺、奏斗と…….。
時計を見ると、まだ22時。放課後、帰ってきてシて、そのまま寝落ちしたから全然夜だ。ご飯も、食べてないな。
自覚すると人間の体は不思議で、だんだんお腹が空いてきてしまう。
何か食べるか。と、身体を起こし、ベッドから降りる。奏斗の方を見ると、ぐっすりと気持ちよさそうに、寝息を立てて寝ていた。あまりにも気持ちよさそうなので、起こすのは気が引ける。自然と起きるまで、そのままにしておこう。
ご飯を作るべく、キッチンへ向かう。
と、その前に。まずは風呂かな。
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風呂を済ませ、冷蔵庫にある適当なもので、ご飯を作る。これはほぼ、夜食だ。あまり重いものだと良くないし、軽めに腹ごしらえ出来る野菜たっぷりスープを作る。
きっとこれだけじゃ足りないが、明日は休みだし、明日たくさん食えばいいよな。
「いただきまーす」
小声で囁き、器を口元まで持っていく。適当に作っただけだが、お腹が空きすぎていた為に凄く身体に染み渡り、美味しいと感じる。
薄明かりの中、一人スープを黙々と啜る。
「はぁーっ、美味かった」
ごちそうさまの挨拶をして、食器を片付ける。奏斗も食べれるよう、少し多めに作ったが、起きてくる気配は全く無い。このまま、朝まで起きないのかもしれない。
寝直すべく、俺はそのまま部屋に向かった。
音を立てないよう、ゆーっくりドアを開ける。奏斗は先程と全く同じ形で眠っている。寝相良いな、と感心しつつ、隣に横になる。と、急に奏斗が寝返りを打った。そして、キラキラした瞳が顔を出す。
「どこ行ってたの」
「起きてたん?」
「…さっき起きた」
「…腹、減っちゃって。奏斗も食う?」
「…..明日で良い」
「そ?」
奏斗の寝起き声は、通常より低い。本当に、さっき起きたんだな。と、思う。瞼は開ききっておらず、頭を起こすこともしない。多分、まだ眠いんだろうな。
「まだ次の日にもなってないし、寝てな」
「…….ひばは?」
「俺も寝るよ」
「………..」
奏斗の腕が、俺の背中まで伸びてきてギュッとする。奏斗のふわふわの髪が顔にかかって、くすぐったい。思わず、口元が緩んだ。
「起きた時、俺居なくて寂しかったん?」
いつもの仕返し、と思い、からかうように言ってみる。もちろん、冗談だ。
「…..ん」
「っえ?!」
「…..なんで驚いてんの」
「いや、だって…..」
俺が驚いている間に、奏斗が俺の匂いを嗅ぐ。スンスン、と。まるで犬みたいに。
「…….落ち着く。」
「…なんか、…..寝ぼけてる?」
「…….ひばの匂い」
あぁ、これは寝ぼけてるな。覚醒した時、絶対に後悔するぞこいつ。なんて、思いながらも。この状態があまりに幸せで、もう少し寝ぼけていて欲しいと願ったりもする。
俺も、奏斗の背中に手を回す。そして、ふわふわの髪に顔を埋めた。
奏斗の匂いがする。
俺はこの匂いが好きで、いくらでも嗅いでいられる。安心する、落ち着く、心地よい匂い。奏斗がしてきたように、俺もスンスンする。
「んん………..」
眠そうな声が聞こえて、奏斗の方を見る。と、瞼が再び閉じられ、既に二度寝に入っていた。
規則正しい寝息が、俺の腕の中から聞こえる。
「おやすみ」
そう呟いて、再び髪に顔を埋める。目を瞑り、奏斗の匂いを嗅いでいたら、いつの間にか俺も再び眠りについていた。
生きてきた中で、一番幸せな睡眠導入。これ以上は無いと、そう感じた。
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